35 / 48

(31) 冷凍倉庫でぶっ飛ばして!

玄関のドアを開けると、愛しの旦那さんが若い男を正確には脇にぶら下げていた。 僕はこの場合、なんと反応したらいいのか? ※ お帰りなさいを言った後の設定 ① わーい、今日の獲物は人間だね! ( 旦那さんがリアル龍設定 ) ② 新婚だから3Pなんて無理! ③ あれ、こちらは?会社の後輩の方? ようこそ、いらっしゃいませ。 うーん、つまんないけどここは…… 。 「 瑠衣、素直に3番にしとけ 」 「 ふおぉ!?」 か、考えが読まれる?龍さんのチート発動!? 「 いや、声が出てる 。これ、会社の後輩。失恋して失神したから連れてきた 」 「 失恋 ⁉︎ 」 なにその胸ざわつきワードは!! 僕、ほっとけないんですけど! 「 惚れた男を、ヘビに寝取られた 」 なんですと!?惚れた男ぉぉ!? とりあえずお布団に寝せてみたけど、後輩さんは顔が青白くて息してるか確認しちゃったよ。 後輩さんは、顔の輪郭が卵形で細っそりとしていて、黒髪がサラサラだった。 身長は僕より大きいけど痩せ気味だ。 龍さんはセーターとジーンズに着替えて、側に来て事情を説明する。 「 こいつは会社の2個上の先輩とよくつるんでたんだが、先月屋上でそいつと抱き合ってるとこ見ちまったんだよ 」 「 え?屋上でセックスしてたの?」 は、はげし~。青姦だね! 「 いや、痴話喧嘩して仲直りのハグだ 」 えー?つまんない。 「 瑠衣、唇尖らせるな 」 ついでにチュッとキスされちゃったよ! 「 てっきり恋人同士かと思ってたんだが、年末アルバイトの若い女が入ってきて掻っ攫われた 」 「 龍さんが誤解する程いちゃついてたんなら、恋人じゃないのかな? 」 だって普通日本人の男同士はハグしないし。 相撲じゃないんだからね。 「 僕と先輩は恋人じゃないです 。僕の片思いですよ 」 「 はひっ!?」 驚いて後ろを振り向くと、後輩さんは意識を取り戻して身体を起こそうとしていた。 僕は慌てて手助けする。 「 体調はどうだ? 医者に行くか? 」 龍さんが問いかける。 「 いえ、大丈夫です。ご迷惑をおかけしました。」 「 まだ無理しないで横になっててくださいね 」 僕も言葉を添える。 「 木村。これが俺の嫁の瑠衣。瑠衣、こいつは会社の後輩の木村だ 」 「 はじめまして、瑠衣です。よろしくお願いします!」 なんか緊張するな~。 「 はじめまして。木村 |楓《かえで》です。よろしくお願いします 」 「 お前ら硬いな。同い年じゃないのか?」 「 僕四月生まれの20歳だよ。木村君は?」 「 僕はクリスマスで20歳です 」 「 わ、同学年だね!瑠衣って呼んでね 」 木村君は弱々しく頷いた。 木村君は目元が涼しげな一重で、和服が似合いそうな呉服屋の若旦那風イケメンだった。 濃い顔の僕と正反対だよ! 僕が夕飯のあんかけ焼きそばと中華スープを三人分盛り付けてコタツに運ぶ。 遠慮する木村君に食べないと龍さんにしばかれると冗談言ったら本気にして食べてた。 嘘だよ~と教えたんだけどな~。 お茶を入れて落ち着いた頃、龍さんが切り出す。 「 もしアパートに戻りたくないならここに泊まればいい 」 龍さんは木村君と先輩の部屋は隣同士だと教えてくれた。 「 あの女毎日うるさいだろう?」 「 何がうるさいの?文句言いに来るとか?」 「 あんあんデカイ声がアパートの外まで聞こえるんだよ 。A V女優も顔負けだぞ 」 龍さんの例えに木村君は頷く。 「 え~、そんなにデカイの?僕聞いてみたい!」 「 え、やめたほうがいいよ。わざとらしくて吐き気するよ 」 木村君が止める。 「 そんなに?ますます聞きたい!ついでに張り紙してやろうか?」 「 …… 僕が先輩に殴られるよ 。先輩はあの女に夢中だから …… 」 「 木村、俺は昼休みに屋上で2人が話しているのを聞いてたんだ。丁度ドアを開けたら気づいてな。すまん 」 「 いえ、いいんです。だから心配して様子を気にかけてくれたんですね。恋人が男性だと明かして応援してくれてたのに、どこかで嘘だと疑ってました 。すいませんでした 」 「 先日入籍したんだよ 。明日朝礼で結婚したと報告する予定なんだが、まあ、あえて男同士というのはやめとくか 。年明けにするよ」 繁忙期でアルバイトの人間も多数いるから僕に配慮したいと龍さんは言った。 「 それにあの女はかなり営業連中からも評判悪いからな。瑠衣に近づけたくない 」 「 係長も知ってたんですね。仮に忠告しても、先輩は僕が嫉妬してるとしか思いませんよ。屋上でも言われましたし 」 「 嫉妬するなって言われたの?先輩が木村君のことただの後輩としか思ってないならそんな事言わないよね? 」 しばらく沈黙した後、木村君が話し始めた。 「 先輩は去年入社した僕に本当に親切にしてくれたんです。慣れない冷凍倉庫の中で泣いてたら、チョコや飴を口に入れてくれました。夕飯もひと月も作ってくれたり、2人で自転車でいろんな場所に遊びに行きました。 先輩も僕も施設育ちで金を貯めたいから、2人で食費や光熱費を折半して節約してました。先輩とちょっと揉めたのは先々月あたりです…… 」 なんだかどこかで聞き覚えのある話なんですけど。 食品卸売会社の先輩、後輩。 冷凍倉庫で泣いてたらチョコと飴。 自転車で2人でデート。 生活費を折半して節約…… 。 「 もしかしてチューとかしたの!? 」 僕が木村君に問いただす。まさか、まさか。 「 いえ、キスはしてませんよ 」 なんだ~ガッカリ~。 「 でも酔っ払った先輩が寝ている僕の手を使って手コキしました 」 「「 なんだって~!?」」 龍さんと僕は叫んだ。 10月のある日、先輩は係長( 龍さん)、営業連中と街に飲みに行った。 キャバクラかと期待していたが、ただの居酒屋で、ガッカリした先輩はベロベロに酔って木村君の部屋へやってきた。 先輩は散々文句を言って、木村君の布団に寝てしまった。 木村君は困ったが、一緒の布団に入って眠りについた。(若干の下心あり) 夜中にふと違和感を感じて暗闇で目を凝らすと先輩が木村君の右手を包んで自分の勃起したちんこをしごいていた。 動転して眼をつむってたら、いつのまにか寝てしまい先輩は消えていた。 「 係長が目撃したのは、先輩が謝りにきて、僕が許して仲直りしたところです 」 「 それにしても、あいつは木村にベタベタし過ぎだ。瑠衣にあのハグしたら殴るレベルだぜ。あいつもお前が気になってたんだろ? 」 「 以前はそうかもしれませんが、屋上ではっきりとお前じゃ勃たないと言われましたからね 」 「手コキしておいて何言ってんの、そのバカは! 僕は許さない!カエラ先生もビックリのゲス野郎を殴ってやる~ !!」 僕は汚い奴が許せないぞ~! 僕は立ち上がって出かける準備だ! 「 おい、待て。瑠衣落ち着け!カエラ先生ってなんだ? 」 「 僕が大ファンのネットBL小説家のカエラ先生だよ! 『冷凍倉庫で抱きしめて 』っていう小説が面白くて、応援のメールもしてるんだ。 カエラ先生は、龍さんとの事に悩んでた僕の背中を押してくれたんだよ。ほら、100年生きるうちの何日かを好きな相手と抱き合えるのは奇跡だって言ってくれたひとだよ。僕が龍さんと結婚する勇気をくれたのはカエラ先生なんだ! 」 「 BL小説家…… 。カエラ先生」 龍さんがなんともいえない表情をしてる。 え?なんで~? 木村君が僕のそばに歩いてきた。 「 僕は何もあげてないよ、コタツにゃんこさん 」 ええ~!!うそーん。 「 カ、カエラ先生 !? 」 なんで僕のことわかっちゃったの~? 「 メールに書いてあるリアルアルファの彼氏って、係長だよね? あの100年が云々の話は、小説に書いたこともないし、コタツにゃんこさんにしか伝えたことないんだ 」 「 カエラ先生、黙ってたらバレないのにどうして…… 」 「 素直で他人の僕の為に怒って殴りに行く人を騙すなんて出来ないよ 。ありがとう、本当に嬉しいよ 」 「 カエラ先生…… 」 僕はカエラ先生に思わず抱きついてました。 が、ほんの数秒だった。 ペイッ! 龍さんが僕を持ち上げて引っぺがされた。 り、龍さんの眉間のシワが深い~!ぷひ~。 「 …… ホント気が休まらねぇ 」 「 係長、こんな美形を嫁にもらったんです。一生休まる日は来ませんね 」 カエラ先生こと木村君が断言した。 先輩への成敗よりも、ヘビ女をどうしようかと三人で考えた。 龍さんが社長と何故か小野さん(工務店の若旦那 )を呼び出していた。 30分後、龍さん、僕、木村君(カエラ先生)は社員寮の近くで車を止めた。 しばらくすると静かに小野さんと何故か加藤弁護士がやってきた。 そこに社長が合流して、しばし自己紹介となった。 龍さんは木村君にこれからの行動を指示する。 アパートまで皆で音を立てずに移動し、しばらく待つと、アパートに住んでいる営業が二人そっと部屋から出てきた。 龍さんの合図で木村君が自分のアパートの扉に鍵を差し込んで回す。 後から順に音を立てずに室内に入る。木村君だけが、わざと歩いて歯を磨き、服を脱ぐ(フリをし)布団を押入れから出して敷く。そしてカチリと電気を消す(フリ)音を出して、布団に入る。 数分後、隣の先輩の部屋からヘビ女のあんあんした声が響き始め、みんなは顔を見合わせた。 「 あんあん、あっ、あんあんあんあーん 」 「……… 」 「 あんあんあんあんあんあんあっあっあっあっ 」 「……… 」 「 あんあんあんあーん 、あんあんあんあーん 」 僕が龍さんの顔を見ると、目が合い、龍さんが社長に話しかけた。 「 社長、壁薄くないですか? 」 「あんあんあんあーん 、あんあんあっ 」 「 築何年でしたっけ? 」営業さん①が聞く。 「 あんあんあんあんあんあんあっあっあっ」 「 たしか20年経つかな 」と社長。 「 あんあんあんあんあんあんあっあっあっ」 「 そろそろ建て替えですよね 」 営業さんその②が囁く。 「 あんあんあんあんあんあんあっあっあっ」 「 リフォームでもう少し建て替えを延ばすこともできますよ。防音対策もついでに出来ますし 」 小野さんが社長に囁く。 「 あんあんあんあんあんあんあっあっあっ」 「 とりあえず、この女をどうにかできんかね 」と社長。 「 あんあんあんあんあんあんあっあっあっ」 「 先輩が彼女と結婚してここを出てけばいいと思います 」 木村君の声は冷静だった。 結局、先輩がヘビ女と結婚する事が一番の成敗になると感じたのかもしれない。 「あんあんあんあんあん、いくいくいくいくー 」 「 一回戦終了したか…… 」 営業さんが呟く。 木村君は今は辛いけど、もっといい男がいますから! 龍さんはあげないけどね! 「 これ毎日聞いてるのか、木村大変だな …… 」 龍さんが同情しているよ。 「 これ、あと3回戦はありますからね 」 木村君が教えると、社長が宣言した。 「 よし、リフォームするぞ!君、早くプランを立てて持ってきてくれよ!」 社長が小野さんに声をかける。 「 はい、承りました。迅速に対応致します! 」 小野さんよかったね! 「よっ!社長 !太っ腹 !」 「 社長、男前っす!」 営業さん①、②が声を上げる。 「 わぁ、社長さんカッコいいね!こんな会社で働けて木村君幸せだね! 」 僕が木村君に話しかける。 「 はい、定年まで頑張ります!」 木村君にやっと笑みらしきものが浮かんだ。 プランができ次第リフォームになるので、それまで入居者は会社が借りるウィークリーマンションで共同生活になるそうです。 「 女は連れ込むなよ!」 社長に釘を刺されていた。営業さん達薮蛇だよ~。 結局先輩を殴ることは出来なかった。 龍さんに冷凍倉庫でぶっ飛ばしてと頼もうかと考えたけど、死んじゃいそうだからやめておいた。 カエラ先生にそう告げたら、小説中で殴ってやると話していたよ。 カエラ先生は、社員寮の龍さんの部屋を使ってもらうことになった。 カエラ先生がリフォームの間、加藤弁護士の家に居候する事になったのを知ったのは、ずいぶん後のことだった。

ともだちにシェアしよう!