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(32)龍さんの過去

ずっと、ずっと、死ぬまでひとりだと思っていた。 だから目覚めて最愛の人が隣にいると 僕は幸せのあまり心臓が止まるんじゃないかな、と心配になるんです。 なんか、なんか、なんか、うれしくて愛が止まらない~。 「 …… ナツ 」 へ? 寝言? 「 寒い……ナツ 」 ぎゅううううっっっ! ぎゃ~、ギブ、ギブ! 身体が~!バシバシバシバシ! 龍さんが僕を締め上げてくる~!! 「 龍さん、おぎで~ 」 「…… ん…… 」 やっと腕が緩んだよ。龍さんが目を擦ってる。 「 龍さん、おはよう 」 チュッ、チュッ。と頬にキスをする。 そして唇にチュッ! 昨夜龍さんに指輪をはめてもらった時に、お値段を聞いたら教えてくれなかった。 僕がそれじゃ対等じゃない!と言ったら、 「 毎朝と寝る時に3回キスをして、1年経ったら教えるよ」 だって!何ですか?そのカエラ先生が小説に書きそうなセリフは! 「 喧嘩した時はどうするの? 」 怒ってたらしたくなくなるかも。 「 瑠衣、そしたらお仕置きだなぁ 」 えぇ~なんか違う気がするよ~!? 12月の繁忙期で今夜も遅くなる龍さん。 係長の龍さんは仕入れの責任者だからほぼデスクワークなんだって。 今日から指輪していくし、朝礼で結婚を報告するから女性社員はショックで倒れるかも、とカエラ先生が教えてくれた。 カエラ先生はややこしいから|楓《かえで》君と呼ぶことにしました。 カエラ先生は、誰かに聞かれると恥ずかしいんだって。内緒の話になりました。 楓君とは、L I◯Eで連絡を取り合う事にしたよ。 味噌汁をすする龍さんに、 「 龍さんのお母さんはどうしてるの?」 と聞いたら、数年前の震災の津波で亡くなったと教えてくれた。 父親の名前も空欄だという。僕と一緒だね。 「 まあ、俺が9歳の時に|お義父《きくた》の養子になって以来、ほとんど会うことはなかったな 。再婚したときいてるが、旦那も知らない 。旦那も亡くなったそうだ 」 「 ねぇ、お母さんはナツって名前? 」 「 いや違う。なんでナツの名を知ってる? 」 「 龍さん時々僕のことナツって呼んで強く抱きしめるから誰なのかなぁって…… 」 それじゃセフレかなぁ。 「…… 瑠衣、女かとか勘ぐるなよ。ナツは俺に懐いてた野良犬の名前だ 」 ブッ!い、犬…… 。 龍さんは出勤して行った。 結婚指輪がバッチリ決まってるよ! そういえばピアスのこと聞かなかったな。 会社で何も言われなかったのかな? 楓君に聞いてみよう! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ [ 瑠衣 ] 楓君昨日はお疲れ様! 大変だったね。眠れたかな? また遊びに来てね! ところで龍さんのピアス気づいてた? 会社の人の反応どうだったのかな。 僕と一緒に開けたんだよ! お仕事頑張って! [ 楓 ] おはよう。昨日はありがとう! なんとか眠れたよ。 旦那さんの部屋借りてごめんね。 ピアス、もちろん気づいてたよ。 係長は雰囲気が任が侠してるから誰も何も言いません。 (笑) お仕事頑張ります! PS あんかけ焼きそばすごく美味しかった。 今度料理教えて! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 任が侠って…… 。半分正解だけど、やっぱり纏ってる雰囲気がそうなのかな~。 龍さんが菊田の養子になった経緯も、どんな風に育ったか何も知らないもんな。 時間もなかったし。 龍さんが話してくれるまで、待ってたほうがいいのかな。 これからゆっくり知ればいいよね。 だって僕の旦那さんだからね!えへへ。 僕、犬みたいな手触りなのかな~。まさか匂いが? 今日はクリスマスプレゼントを買いに行こうと思ってます。 龍さんは時計とか、服とかお高いのばかりだから、僕の薄給では龍さんに見合うものを用意するのは無理。 だから、ベタだけど手編みのカシミヤのマフラーにしようと思います! 実は僕のお母さんは、手編みのセーターやマフラーを編む内職をしてたんです。 看護師の仕事の合間に編んで、手芸屋さんに売ってました。 彼氏にあげるという同僚にも、友達価格でほぼ材料費だけで編んでいたりしたなぁ。 僕がもし身体を壊したら、家でも稼げる仕事をという理由を掲げて、半ば強制的に僕も編まされてました。 一年中編んで、クリスマスの二カ月前にマフラーを50本納品した年もあったよ! カシミヤのセーターなんて、◯万で委託販売もしていたよ。 手作り最強!なんですね。 いい旅費稼ぎにはなったな~。 お母さんの同僚の彼氏さん、ごめんなさい! それ僕が編んだマフラーです。 プレゼントして、何組かは結婚したそうですね。 大丈夫です。僕は同僚さんの名前知りませんから! 龍さんにはカシミヤの良い毛糸を探して内緒で編んじゃいますよ~。 手作りクリスマスケーキ、チキンの丸焼き、他にも色々手作り料理を作るぞ~。 ロウソクの灯りで照らされた龍さんはカッコいいだろうな~。 カシミヤのマフラーをプレゼントして、それから…… 。 引っ越しが済んでたら、ハメ撮りするからね!龍さん覚悟してね! よし、まずは松越屋でマフラーの流行りを調査しに行くぞ! 街に行くたびにタクシーは贅沢だと訴えて、スマホにGPSアプリを入れる事を条件に、電車で出かけることを許可された。 それと、サングラスとマスクは必須とのこと。 ナンパされてもついて行くなよ、と念を押してたよ。 大丈夫!ドヤ顔で結婚指輪見せるから! 土井さんは顔の腫れがひどいから、落ち着いたら会いに来て欲しいと言っていた。 買い物も、看護師さんが優しいから頼みやすいと話してたよ。 遠慮してるのかな。また2、3日したら会いに行こう。 今日はプニクロの服を着て、ウルトラダウンで冬の寒さをブロック。 通勤ラッシュ後だから電車も余裕で座れた。 僕も龍さんの位置がわかるアプリを開いたら、おー、ちゃんと会社の場所に龍さんの位置が示してあるよ! 凄いね、このアプリ。 でもこれって、僕が大人のおもちゃの店 『 淫魔の森』に行ったらバレるよね。 …… エネマグラ欲しいのにな。 龍さんにクリスマスのプレゼントにねだろうかな。 …… お仕置き怖いからやめとこ。 リアルアルファだし…… 。 今月の生活費と言って、渡されたお金は20万。 足りない時は言えと言われたけど。 26歳で係長でも、これ渡したらお小遣い無くなるよ? 半分でも多いよ。半分返そうとしたら、余ったら貯蓄すればいいと言われたよ。 そうか、僕は若奥さまだからね!腕の見せ所だね! 松越屋の紳士服売り場でカシミヤのマフラーを見ていたら、お値段がな、なんと8万円‼︎ うそーん。いや、買わないけどね。 まあ、いい毛糸もひと玉4、5千円するしな~。 よし、参考になったぞ! 僕が今しているマフラーも、自分で編んだカシミヤなんだよね。 これ以上の作品を編むぞ! 僕の母が作品を卸していたセレクトショップは、手芸屋さんの中にある。 男性はほぼ中に入ってこない。 口コミで手作りのマフラーやセーターが手に入るとかで人気になっていた。 母が亡くなったから、今は誰かが代わりに卸してるんだろうな。後でのぞいて行こう。 よし、まずは龍さんのマフラーの毛糸だ。 僕が考えるのは、青のグラデーションのマフラーだ。青なら黒いスーツや私服でもオールマイティにコーデ出来ると思うんだよね。 気に入ってもらえたら、赤も編もうかな? 奮発してひと玉5千円の毛糸に決めた。 それと、ずっとお手頃な値段の毛糸も購入。 僕のお気に入りBL作家、カエラ先生にもマフラーを編もうと思ってます。 実は久々に編むから、感を取り戻すための練習なのはここだけの話にしてください! 合計10玉を購入し、合計は3万円弱。 僕の6カ月のお小遣いなしにしよう…… 。 会計を済ませて、セレクトショップに立ち寄った。 母が亡くなり電話で事情を説明して、店長はとても悲しんでくれた。 香典まで送ってくれて、香典返しに礼状を添えて送ったきり、バタバタと転居してしまった。 「 また今年も品薄なのね。どうしても10本は必要なのに。困ったわ 」 「 申し訳ございません。専属デザイナーが亡くなり、なかなか良い作り手を見つけることができなくて。|私《わたくし》もほとほと困っておりますの 」 店長は何やら女性客と話し込んでいるな。 お客がはけるまで店内を見てようかな。 あれ、以前よりニット製品が品薄だな~。 お母さんの作品結構売れてたもんな~。 「 あら、もしかして瑠衣君 ⁉︎ 」 振り向くと店長の今野さんが立っていた。 「 こんにちは。ご無沙汰してました 」 僕は頭を下げた。 「 自宅に電話したけど通じなくて。引っ越ししたのね。」 「 すいません、連絡もせず 。今は隣の区のアパートに住んでます 」 「 元気だった? 」 「 はい。何とか自活してます 」 あ、結婚したこと報告した方がいいかな~。 「 あら、お買い物? 」 「 はい。実は結婚したんで、相手にマフラーを編もうかなと思って 」 「 あら?瑠衣君も編み物できるの? どんな毛糸にしたのかしら、見ていい?」 僕は店長さんに袋を開けて見せた。 「 久しぶりなんで、こっちは練習用。勘を取り戻したらカシミヤで編む予定です。」 綺麗な色でしょ?えへへ。と笑いかけた。 「…… 瑠衣君。これどのくらいで編める? 」 店長がカウンターの手編みマフラーを僕に手渡した。 簡単な編み込みが入ったシンプルな単色マフラーだ。 「 これだけずっと編むなら、半日かな?実は昔母が納品してたマフラーは、僕も半分編んでたんですよ~ 」 黙っててごめんなさいの意味でえへへへ~と笑いかけた。 「 ちょっと、よろしいかしら?」 僕と店長が振り向くとさっきの女性客だった。 「会話が耳に届いてしまい、お願いしたいことがありまして声を掛けてしまいました 。 店長、こちらの方はお知り合いですか? 」 「 はい。渡辺様がいつもご購入されていた作品の製作者の息子さんです。」 「 息子さんも編み物をできますのね? 」 「 はい。親子で製作していたそうです 」 女性客は高そうな着物を着て、髪もメイクもバッチリ決めたクラブのママみたいな人だった。 彼女はバックから名刺を取り出し、僕に渡してこう言った。 「 |私《わたくし》◯分町でクラブ 『胡蝶蘭 』のママをしております、渡辺 蘭 と申します。ぜひ貴方とビジネスのお話をさせていただきたいわ 」 「 ビ、ビジネス…… ?」 「 ええ。 損はさせませんわ 」 なんだかこの展開はどっかで体験したような…… 。 「 瑠衣君、店長の私からもお願いするわ。ぜひ話を聞いて!」 「 ぼ、僕の結婚相手に連絡してみないと。浮気と誤解されたら困るから…… 」 僕は慌ててスマホを出して電話帳を開いてタップする。 「 もしもし、龍さん? 」 「 おう、瑠衣か?俺は親父の方だ。そそっかしいな 。アハハハ 」 え、お義父さん⁉︎ うそーん。間違えた! 「 あの、お義父さん、実は…… 」 サッとスマホを奪われて、クラブのママが話し始めた。 「 瑠衣君のお父様ですか?私、クラブ『胡蝶蘭 』のママをしております、渡辺 蘭と申します。瑠衣君とビジネスの話を手芸屋でしておりますのでご連絡致しました。浮気ではございません。ご心配でしたらこちらまでいらしてくださいませ。場所はお日さま商店街 今野手芸店ですわ 」 蘭ママはにっこり笑ってスマホを僕に返した。 だ、誰かへるぷみぃ~。

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