38 / 48

(33)俺の嫁を返せ!

クラブのママ蘭さんと手芸店の店長今野さんは、ヘビではないけどかなり強引な女性達だった。 僕は指輪をドヤっと見せたよ、龍さん! 新婚さんだから早く帰って晩御飯の支度をしなきゃと話したら、質問責めにあったよ。 「 瑠衣君 お仕事は何してるの? 」 「 え?事情があって専業主夫してます 」 蘭ママの目が光る。 「 あら、お相手はキャリアウーマンかしら? 」 「 係長だって言ってました 」 「 あら、かなり年上なのね。30歳くらいかしら? 」 「 26歳ですけど…… 」 あ、龍さんにL I◯Eだけでもしないと!会社忙しいからね。電話はまずいよね! 「 すいません、ちょっと本人に連絡しておきます 」 アプリを開く。 「 ふふ。さっきはお嫁さんのお義父さんに電話しちゃったのね 」 母子家庭だと知ってる店長さんが微笑んでる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ [ 瑠衣 ] お疲れ様です。 今手芸店にいます。 何故か店長とクラブ「胡蝶蘭 」のママとビジネスの話をしてます。 晩御飯までには帰ります。 PS さっき龍さんと間違えてお義父さんに電話しちゃったよ!テヘペロ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ふう、これでひと安心。 喉乾いてきちゃったよ。 「 はい、瑠衣君。紅茶どうぞ 」 「 ありがとうございます 」 僕はサングラスとマスクを外して紅茶を飲む。 飲み終えてふーっとひと息ついて満足して顔を上げると、2人はじっと僕を見守っていたよ。 「 瑠衣君の瞳綺麗ね~。今までカラコンだったのね。学校で目立つから? 」 「 はあ、そんな感じです 」 「 あら、素敵な結婚指輪ね。龍かしら? オリジナルデザインね 」 蘭ママが指輪に目を留めた。えへへ。素敵だって! 「 はい、そうなんです。世界で一組だけしかない 指輪です! すぐそこのジュエリー『 ワルキューレ 』で作りました 」 僕ドヤ顔決まったあ? 「 (わたくし)も瑠衣君と呼んでもよろしいかしら?…… ありがとう。 それにしてもお相手が羨ましいわ。笹さんのお店なら高かったでしょう?瑠衣君頑張ったわね 」 「 笹さんをご存じですか? 」 「 (わたくし)もそちらで作ったネックレスをプレゼントされたことがありますのよ 」 ほほほ、と蘭ママが妖艶に微笑む。 プレゼントだって。わぁ、さすが美人は違うねー。 「 ちなみにそのいただいたネックレスはおいくら位なんでしょう? 」 店長は興味津々だ。 「 あそこは指輪がひとつ50万円、ネックレスも10万円円以下はありませんわね。瑠衣君の結婚指輪は恐らくペアで100万円はしたでしょう? 」 「 はひっ⁉︎ 」 ひとつ50万円以上⁉︎うそーん。 龍さん一体いくらなの~⁉︎ 僕年明けたら稼がなくちゃ! 蘭ママが居住まいを正して僕に話し始める。 「 ビジネスのお話ですが、瑠衣君。クリスマスイブまでに最低10本手作りのマフラーを編んでいただきたいの。もちろん、こちらを通して購入しますし、手当もつけますわ 」 クリスマスに上客にプレゼントしたいという。 「 瑠衣君。今回材料費はお店が持つから、心配しないで。デザインもシンプルでいいし、色、編み方がダブらなきゃ大丈夫よ 」 「 手当はマフラー1本につき1万円出しますわ 」 1万。一日中2本編めば2万稼げる。 指輪代の足しになるよね~。どうしよう。 「 おい、そりゃ安すぎるだろう?最低でも1本につき2万円だ。それ以下は俺が認めねーな 」 声が聞こえて振り向いた。 「 お義父さん !」 「 お~瑠衣、浮気か~? 龍が泣くぞ~? 」 「 …… 菊田若頭 」 蘭ママが驚いている。 僕が口を開く前にお義父さんは僕の頭をくしゃくしゃにして肩を抱いた。 「 蘭ママ、そのうち店にも顔を出して知らせるつもりでいたが、組長にも正式に挨拶を済ませてないもんでな。コイツは俺の義理の息子になった。龍の嫁だ 」 「 瑠衣君が嫁…… 」 店長が呆然としてる。 「 他言無用で頼む 」 お義父さんが2人に視線を走らす。 蘭ママも店長も神妙に頷いてる。 その場で仕事を受ける決断は避け、とりあえず場所を変えて蘭ママとの話をすることになった。 店長には蘭ママから連絡をするそうだ。 お義父さんと蘭ママ、僕は個室のお寿司屋さんに入った。 もうすでにお昼を過ぎていた。 龍さんから電話がきて、2人に断りを入れてスマホに出た。 「 もしもし、龍さん?忙しいのにごめんね 」 「 瑠衣、また今日も嫁修行か? 」 ひ~、口調が怖い~。 「 違うよ~。龍さんのクリスマスプレゼントにマフラー編むつもりで手芸店に行ったら、クラブのママさんに会って、マフラー編むバイトしないかって言われたんだよ 」 「 俺のクリスマスプレゼント? 」 「 うん、カシミヤのマフラー編むの 」 もう隠しておく場合じゃないよね。 「 そうか…… 」 「 今お義父さんと蘭さんと僕でお寿司を食べてたところだよ 」 「 …… オヤジと蘭ママが 」 「 うん。龍さんも知り合い?」 お義父さんと蘭ママは、昔からの知り合いという雰囲気だった。 やはり組関係は夜の街で繋がってるのかな。 「 瑠衣、クラブ『 胡蝶蘭 』は、龍青会の経営してる店だ。オヤジが関わってるからといって、無理してバイトをする必要はないからな 」 「 でも僕も稼がないと指輪のお金払えないよ 」 「 あれは俺からの結納代わりだからいいんだよ 」 結納代わり。龍さんは最初からそのつもりでいたんだね。 「 とにかく、花嫁修行は程々にして早く家に帰ってこいよ 」 必ず早く帰ると約束して通話を終えた。 「 龍は怒ってたか?」 お義父さんが苦笑いしてる。 「 花嫁修業もほどほどにしろと言われました。早く帰ってこいって 」 「 ふふふ。あの龍君が拗ねてるわけね」 「 瑠衣は小野君の家でインドカレーとアップルパイを作らされたんだって?」 へっ?なんでそれを? 「 加藤弁護士が自慢気に話すから、写メ送らせたぞ。ほら 」 小野家での集合写真と麻友ちゃんとのツーショットを蘭ママに見せてる~。 「 ふふ、楽しそうね。あら?天使が2人いるわね。…… カレーも美味しそう 」 「 お前フランスの三ツ星レストランのベルナール氏に料理教わってたんだって? 驚いたぞ 」 「 教わったなんて大げさです。訪ねて行った時に一緒に作っただけで、子供時代の話です。僕普段は介護職員だし 」 「 瑠衣君、本当に多彩な人ね 。龍君は果報者ね!」 蘭ママが感心してる。僕は首を横に振って否定した。 「 僕は未だに龍さんと結婚できたのが信じられないんです。お義父さんともこんな風に再会できると思ってませんでした 」 ずっと一人で生きていくと思っていたから。 「 僕はまだ龍さんのことを全部は知りませんが、龍さんを大切にします 。アルバイトは、龍さんが拗ねない範囲でならご協力します 」 僕は頭を下げて伝えた。 蘭ママが沈黙の後に言った。 「 わかりました。ほんとはマフラーも倍は欲しいのだけど、龍君の事を大切にして欲しいから諦めますわ 。昔、龍君を初めて見た時は、この子は誰かを愛する事なんてできるのかしらと心配したけれど、それももう無用ですわね 」 龍さんはどんな子供だったんだろう? 「 あいつもそのうち昔の事を話すと思うが、俺が龍と出会った時、あいつの母親は子供をろくに育てずにクズ野郎とばかり遊び回ってたよ 。龍は9歳だった 」 そして縁あって菊田家の養子になった。 「 とりあえず、龍の希望通りにしてやるか 。後が怖いからな 」 お義父さんはL I◯Eを僕と蘭ママに見せて言った。画面を見て蘭ママは吹き出した。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ [龍 ] おれの嫁を返せ! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ お義父さんの奢りで特上寿司を堪能して、幸せを満喫してたら、楓君から通知が来た。 ロック画面に 「 係長の結婚報告撮りました 」 と浮き出てたから叫んじゃったよ! スマホで撮ったの?マジですか? 「 龍さんの結婚報告 ⁉︎」 お義父さんと蘭ママもびっくり。 龍さんの後輩が偶然にも僕の知人と昨日わかり、親切に?撮影したみたいだと説明した。 「 龍の結婚報告?会社か?」 「 あら、見たいわ~ 」 昨夜楓君には会社で報告することは話してあったから気をきかせたのかな? 送られてきたビデオを再生する。 社長が、社員寮をリフォームすると発表し、同棲は禁止と釘を刺していた。そこへスタスタ歩いてくる龍さん。 うん、旦那さんかっこいいね! 「朝礼の最後に、係長から発表がある。係長どうぞ 」 龍さんがハキハキとしゃべり出す。 「 繁忙期ですが皆様に簡単にご報告させて頂きます。この度、入籍いたしました。式は挙げない予定です。相手は20歳です。繁忙期が終わった年明けにでも紹介します。以上です 」 「 きゃ~~‼︎ 」 「 ぎゃーウソー‼︎」 「 夢だと言って~‼︎ 」 何人かの女性社員が叫び、向こうのデスクで倒れた人がいる。 若い女性社員が泣きながらドアの外に出て行ってしまった。 撮影した楓君の横の女性は呆然としているみたいだ。 録画はそこで終了した。 「 …… 龍さんモテるんだね 」 「 うちのホステスにはクリスマスが終わるまで内緒にしておくわ 」 やる気を無くすと売り上げが落ちるからよ、とため息ついていた。 「 瑠衣、背後に気をつけろよ! 」 お義父さん、その冗談笑えません。

ともだちにシェアしよう!