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(34)拉致

お寿司屋さんを出てからお義父さんと別れて、再び手芸店に蘭ママと戻った。 アルバイトはマフラーを10本、クリスマスイブのお昼までにここに納品することになった。 今回は蘭ママが店長と相談しながら毛糸を選んだ。 毛糸と編み図の組み合わせは僕と店長に任せてくれることになった。 バイト料は、お店には原材料を抜いた仲介料を、僕には特別ボーナスを出してくれる。 なんと1本2万円だよ! お義父さん曰く、マフラーをプレゼントする上客は、年間2000万はお金を落としていくので、2万は痛くも痒くも無いだろう? と蘭ママを困らせていたよ。 …… 生きる世界が違いすぎるぅ。 と、とにかく僕は旦那さんとの初クリスマス、正月、新婚旅行の為の資金を稼ぐのだ! お見舞いや買い物で街にくる時に、都度出来上がったマフラーを納品することにしたよ。 僕は毛糸をマフラー5本分持って帰った。 アパートに戻り豚汁と焼き魚とお浸しを作り、早速カエラ先生へのマフラーを編み始める。 母が亡くなってから、一度も握らなかった編み棒。 何かを作り出す気力がなくて、ただ仕事をしていた毎日だった。 でも今は自分の手で生み出した物を、大好きな人達の為に、一番は龍さんに与えたいんだ。 ホントは編み図がなくても簡単なマフラーくらいは編めるけど、一応本を出して開く。 コタツにミカンに編み物、あれ?僕はもしやおばあちゃんな感じ? まあ、いいか。 ピンポン。 玄関のチャイムが鳴り、狭いアパートだけど走っていっちゃったよ。 まずは龍さんがただいまの挨拶をする前に抱きついてチュー攻撃を仕掛けて、なんとかお仕置きモードを回避だ! ガチャ。 「龍さんおかえりなさい! 」 それきり、僕の記憶が途切れた。 「……… 」 「 ……… 」 「 ちょっと、マジでどうすんのよ!」 「… まさか気絶するほど効くとは思わなかったんだもん 」 ん、なんだか人の声がするぞ? あれ、僕は何してたんだっけ? 重い瞼を開けると、どうやらカーペットの上に横たわってるみたいだ。 部屋の電気は明るく、眩しいくらいだ。 目がショボつく。 なんだか首が痛いよ。どうしたんだろう。 …… カーペットにポテトチップスのカスが刺さってるよ…… 。ガムかな、あそこの黒い塊。なんか、長い髪の毛が沢山落ちてる…… 。 このカーペット、白…… だったのかなぁ? 茶色の液体とか溢れたあとが沢山あるよ…… 。 僕の両手が結束バンドで縛られてる。 あ、足もだよ。とりあえず手のバンドは歯で噛みきれるかな? あー、誰かに監禁されたのかな。 また…… 。でも誰に? 部屋のエアコンは暖かく動いてる。どこか薄暗く寒い場所に放置するつもりはないらしい。 だんだんと目が慣れてきて、部屋の様子を伺うと、なんだろ、この洋服の山は…… 。洗濯済み? かろうじて僕の周りだけ何にもない感じだよ。 あとは、コンビニのビニール袋を縛って置きっぱなしのゴミが、ざっと20個?位転がってるよ。 僕の横にあるテーブルの上には、蓋のないグロス、丸まったティッシュ、使用済み綿棒や、飲み残しの怪しい色のペットボトルのお茶。 歯型のついたおまんじゅう。 テーブルベタベタな感じ。 生ゴミに、女性の香水と体臭の匂いがミックスされたゴミ屋敷だった。 「 ゴミ屋敷だよ…… 」 「 ちょっとあんた、失礼じゃないの!」 「 どこがゴミ屋敷よ! 」 「 掃除する暇がなかっただけよっ!」 声のした方を振り向くと、ジーンズにカットソー、ニットワンピース、1人だけキャバクラドレスの若い女性達が喚いていた。 2人は薄化粧でも美人だったが、キャバ嬢のメイクはキツすぎて可愛さを半減しているよ。 「……汚部屋? 」 マンションらしいから少し規模を小さく表現してみたよ。 「 いやマジ黙ってなよ、あんた 」 「 ほんとに龍さんの嫁なの? 」 「 うそっ!レイは信じないからね! 」 3人とも元気だな。緊迫感もないよ。 この汚部屋に、男の気配はなさそうだ。 壁掛けの時計は21時過ぎを指していた。 龍さんはアパートに僕がいないと気付いただろうか? どうやら、僕がチノパンの前ポケットにスマホを入れたまんまなのを見逃してるみたいだ。 運ぶ時焦ってたんだね。 酔っ払って介抱されているように見られたのかな、僕。 とにかく、なんとかしてトイレに行かねば! 目を盗んで警察に…… いや、龍さんに知らせないと。 「 トイレ行きたい!」 僕は切羽詰まったように叫んだ。 「 え? 」 ニットワンピースの娘が声を出した。 「 僕おしっこ漏れちゃうよ!はやく! 」 ミノムシ状態から立ち上がろうとする。 「 トイレどこ?」焦りを出す。 「 ちょ、あっちよ」 ジーンズの一番口調がきつい娘が僕が立つのを補助する。足の結束バンドを切るつもりはないようだ。 ぴょんぴょんと移動し廊下に出た。 廊下もゴミ袋や雑誌が雑多に積まれている…… 。 玄関ドアが見える。 よし、出口発見! まずはトイレだ。 キャバクラドレスの娘は、僕をトイレに押し込めるとドアを閉めた。 チノパンのボタンを外し、少しファスナーを開けて放尿している真似をしたよ。 ポケットからなんとかスマホを出すと、電話をかけようとした。 が、なんだこれ。 「 便器きったなっ! 掃除してるんかい⁉︎ 」 余りの汚さに僕叫んじゃったよ! 「 ちょっと、終わったの? 」 あ、ヤバイ!ワタワタとスマホを隠そうとしたが見つかった。 「 あ、こら!スマホよこしなさいよ! 」 キャバ嬢は僕のスマホを取ろうとして揉み合いになった。 足が結束されて避けられない。 バランスを崩しドアの外に2人で倒れこむ。 バターン!! 僕は毛虫みたいに這って逃げる。 足にしがみつくキャバ嬢。 「 こら、まてっ 」 僕の履きかけのチノパンとボクサーパンツに手を掛けて引っ張る。 ズズッ。 僕のチノパンとボクサーが膝まで引きずり降ろされた!ちんこ丸見えだよ! 「 スマホよこしなさい! 」 仰向けになった僕に乗り上げてくる。 「 レイ、まだなの? 」 リビングのドアが開き、2人が近づいてくる。 わー、ちんこ見られちゃう! スマホをちんこに当てて必死に隠す。 キャバ嬢がスマホを掴んで、ずらす。 「 えっ⁉︎ 」 3人の視線が僕のちんこに集中する。 腰の龍神の顔に視線が移る。 ガチャリ。 玄関のドアが開く音がして、廊下の4人が一斉にそちらを見る。 龍さんが猟犬みたいな目をして立っていた。 「 こっのアマッ~!!」 龍さんは吠えると、キャバ嬢の身体を掴んでリビングの方角に投げた。 ゴミの山に突っ込んでいった。 残りのジーンズの娘を廊下の端に投げ飛ばした。同じくゴミ袋に埋もれた。 残りのニットワンピースの娘の頭を掴む。首にも手をかけてる。 「 龍さんやめて!!死んじゃう!!」 僕は下半身ズル剥けのまま龍さんの靴にしがみついた。 「 おい、龍、やめてくれ。俺が悪かった 」 誰かが土足で近づいて龍さんを止めてくれた。 娘はドサリと廊下に落とされ、咳込んでいる。 龍さんが唸っていたが、僕の下半身に目が向くと、慌てて衣類を引き上げて隠してくれた。 チノパンのボタンをはめてから、僕の手足が結束バンドで縛られてるのを見てまた吠えた。 「 おい、お前ら何してくれてんだ? 」 廊下に横たわる娘の身体がビクリと飛び上がった。 止めてくれた男性は、僕の前にしゃがむと、ポケットからナイフを取り出して切ってくれた。 あ~楽になったよ。 「 ありがとうございます 」 礼を言うと、男性は龍さんに肩を抱かれて座る僕に言った。 「 はじめまして、龍の嫁さん。俺は龍青会組長の大学 |蓮《れん》だ。酷い目に遭わせて悪かったな 」 龍さんと違う迫力系イケメンが、僕を見下ろしていた。

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