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第26話 誘拐

「なるほど、おそらくその要求からすると、木村が主犯で仲間も多くはないな。だから結人を指定したんだろう」 「ああ、俺も電話で話していてそれを感じた。多分あいつが主犯、仲間も一人かせいぜいが二人くらいだろう……結人が公園へ入る前に決着付けたいな」 「その公園はどこにある?」 「木村の地元の公園のようだな」 「そうだな、公園の地図を出せ」  地図アプリで、公園の位置関係、周りの様子を見ていく。木村の地元の公園のため、同じ地元出身の佐伯が説明役になる。  結果、公園としての規模はそこそこ大きいが、夜になると人が少なくなり、公園周りの人通りも少ない場所と分かる。 「木村はこの公園まで車で来て一人で降りて公園へ入る。その間協力者が車で待機、玲も車に乗ってるのだろう。金を受け取った木村が戻ったら、玲を降ろして逃走する。確証はないが多分そうだろう」 「俺もそう思う。先回りして張ってれば、木村が降りたところで確保できる」  祥吾の言葉に若頭の久城も同意したことで、方策が決まる。 「あいつが乗って来る車は、玲を乗せた車と同じのはずだ。それを張り込んで、降りようとしたところで一気に決着を着ける」 「木村ごときのことで若や頭が出ることはありません、俺と保住の二人で行きますよ」  若頭補佐の渋谷が言う。保住も同じく若頭補佐だ。二人で先鋭を率いれば十分だと。確かにそうかもしれない。 「いや、玲の親は俺だ。俺が連れ戻す。頭は残ってくれ」  祥吾の言葉に結人は見直す気持ちになる。日頃何かというとバトルを繰り広げる親子になったばかりの二人。だが、祥吾には玲に対して、親としての自覚もあるし、愛情もあるのだ。  祥吾がトップとして率いることが決まり、その後慌ただしく皆で、防犯カメラに映る当該の車を共有すると、緊迫の面持ちで本宅を出て行く。   「祥吾さん、僕はどうするの? 身代金は?」 「その必要はない。その前に取り戻す。お前はここで待ってろ」 「でも、玲が車に乗ってないってことはないかな」 「大丈夫だ。俺の勘だが間違いない。頭も同じ考えだ。親父もだろ?」 「ああ、そうだな」  祥吾に東吾も応じる。ならば、結人も信じて待つ以外ない。 「大丈夫だ。心配するな。必ず玲を連れて戻る。お前は姉貴と待ってろ」  祥吾が結人の肩に手を置いて言う。 「うん、分った。気を付けて」  結人の言葉に頷きながら、手を挙げて祥吾は車に乗り込む。結人は発進した車を見送る。 「結人さん、立っていても疲れるわ。座りなさい」  落ち着かず佇む結人に燁子が声かける。東吾と三角、若頭の久城は何やら忙し気な様子だが、結人には心配することしかできない。正直座っていられる心境ではない。  だが、今一番心配なのは実母である燁子と思い直す。燁子に気をつかわせたら申し訳ない。むしろ自分が気遣わねばならない。  結人が座ると、相川がお茶を出してくれる。 「ああ、美味しい。相川の淹れたお茶は美味しい」 「そうね、同じ茶の葉でも相川が淹れると美味しいのよ」 「お嬢も、先生も俺なんか褒めても茶のお代わりしか出ませんぞ」 「あらっ、じゃあお代わり」  気取らないやり取りと、美味いお茶で結人の気持ちはほんの少し軽くなる。 「先生、西川の叔父貴が先生と、話したいと言ってますが」  誰かと電話をしていた久城が言う。どうやら西川の叔父貴と通話していたようだ。なんだろう? 戸惑い気味に結人は電話に出る。 「はい、結人ですが」 『おおっ、先生なんやら大変だな、しかし若が出張ったんなら大丈夫だ。心配いらないぞ。後の始末はわしがするからそれも安心してくれ。来週予定通り来てくれ、待ってるからな』 「ありがとうございます。僕も来週予定通り行きたいと思っています」  結人は電話を久城へ返すと、燁子から質される。 「叔父貴なんて?」 「来週待ってるって、励まされました。あと、始末はわしがするから安心しろと」 「ああ、あそこはそれを請け負っているから」  燁子の言う意味が分からず、疑問を顔に出す。 「つまりね、とんでもないことやらかした人間には罰が必要でしょ。特に今回は子供に手を出すって、絶対やっちゃいけない事。それ相応の報いがいるでしょ。それを叔父貴が請け負ってくれるってことよ」  えっと結人は思う。それって、まさか……。 「ああ、大丈夫よ。まさか殺したりはしないから。そこは、うちはやくざとは違うから。漁船に乗せてこき使うのよ。蟹工船のような世界があるのよ。実入りはいいから、借金かかえた人も乗るんだけど、当然木村のような奴はただ働きよ。まあ、懲役のようなものね」  なるほど、そういう事か、久城が話していたのも、その件だったのかと思う。 「納得できない?」 「いや、まあ……」 「弁護士からするとね、でも極道の世界には極道のけじめのつけ方があるの」  確かにそうなのだろう。私的制裁ではある。これは明らかに法に反している。祥吾はいつも、うちは法に反することはしていないと言う。だが、こうしたことは、多分他にもあるはずだ。  しかし、今それを糾弾する気持ちにはならない。ここへ来て一年と少し。随分と染まったなと自嘲気味に思う。これからもここでやっていくには、清濁併せ吞む度量が必要だ。それが、鬼神一家の姐になるということと結人は思った。

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