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第25話 誘拐
「あいつはなんと言ったんだ?」
「玲の価値に相応しい身代金を用意しろと、その額で交渉するかを決めると。三十分後に電話するまでに決めろと」
「姑息な奴だな。単独か? カメラの分析は済んだか?」
この時までに、本宅に付いている防犯カメラの分析を進めていた。電話も全て録音機能が付いているので、早速分析をしている。分析していた者の一人が答える。
「木村が連れ出しています。はっきり写ってます」
東吾、そして祥吾も確認すると、木村が玲を連れて出て待機していた車に乗せるところが写っている。つまり、最低一人は共犯者がいると分かる。
「車は運転手だけか」
「見にくいですが、多分そうだと」
「これで木村の計画的犯行とは分かったな。夏休み、結人の留守を狙ったんだろう。祥吾、奪還の指揮はお前に任せる。久城にも直ぐ連絡しろ。玲の奪還は一家の総力戦だっ!」
東吾の言葉に皆が力強く「諾!」と返事する。
「電話の交渉は俺がする。義兄貴、見せ金にする現金の用意を頼む。広沢、お前は頭に詳細を伝えて、そのまま頭の指揮下に入れ。相川と佐伯は木村の潜伏先を割り出せ。奴の地元とか行きそうな場所を割りだすんだ」
祥吾が次々と指示を出し、皆が慌ただしくそれに従っていく。
結人は、圧倒される思いになる。これが、この人の、祥吾の本質なんだと。だけど、自分に対する指示はない。確かに今の段階で自分に出来ることがあるとは思えない。
「結人さん、ここは男たちに任せましょう。大丈夫よ、きっと取り戻せる。鬼神一家は甘くないわよ」
燁子の言葉に結人は頷く。考えたら燁子は玲の実の母。今一番玲の身を心配しているのはこの人なんだ。それなのに自分を励ましてくれる。やはり、この人は強い。女でも極道の人間だ。
それに比べて自分は、仮にも男。だが、ここでは女の側だ。それに甘んじるわけではないが、今は気持ちを強く持たねばならない。少なくとも燁子くらいの気概はいる。
結人は自分で自分の気を奮い立たせる。男の自分が燁子を気遣わねば恥ずかしい。
指定された三十分が近付いた時、三角によって現金の用意が出来る。若頭の久城により、奪還へ向けた実働部隊の準備も進んでいる。本宅は緊迫感にみなぎっている。安穏とした者は誰もいない。
そこへ電話が鳴り、誰しもがビクッと反応する。木村の番号だ。皆の見守る中、祥吾が出る。
「俺だ、金の用意は出来だぞ。現金で三千万だ。勿論、玲の価値はそれだけじゃない。だが、今現金で用意できるのはこれだけだ」
その後も会話は続く。なるだけ長引かせ、木村が主犯なら共犯の数。あるいは、木村の後ろに主犯がいるのか、探らねばならない。
と、その時、祥吾が怒鳴り声をあげる。
「馬鹿言えっ! 結人は駄目だ! 俺が行く」
えっ、驚いて結人は祥吾を見る。その後も祥吾の怒りに満ちた言葉が続く。相当の怒りだ。
なっだろう? 僕になんかあるの? 結人が疑問に思っていると、やがて祥吾が電話を切る。そして結人を見る。
「あいつ、とことんお前にこだわる。現金の受け渡しは結人以外応じないと言いやがる」
祥吾の言葉に、結人は唖然とする。
「汚ねえ奴だな。先生が腕力ないってのを見越した要求か」皆が口々に怒りを表す。まあ、そう言う事だろうと、結人自身も思う。
つまり木村は現金を受け取る時、相手に腕力があれば、そこで制圧されることを恐れているというわけだ。結人ならその心配はないと考えたのは誰にでも分かる。
「私が行くわよ。女の私なら木村も応じるんじゃないの」
いやいやそれは、さすがに情けなさ過ぎる。結人は腹をくくる。
「義姉さんこそ女の身で何かあったらそれこそ取り返しがきかない。木村の要求が僕なら、僕が行きます。大丈夫です。一応受け身くらいは出来るんで」
「木村はどういう手順で言ってきたんだ?」
東吾の問いに祥吾が答える。
「公園の中には、結人が一人で入る事、それが条件だ。破れば交渉決裂だと言った」
続いて祥吾は木村のだした条件を皆に説明する。
つまり、結人が一人で公園に入り、木村に現金を渡す。その後、木村が公園を出て、公園の外で玲を解放する。解放するときに公園で結人が待っていると伝えるから、結人はそのまま公園で待てと、それが木村のだした手順だ。
本当に玲を解放するのか? 祥吾の疑念に、木村は、信じないならいい、交渉決裂。玲は、中国マフィアに売り飛ばすだけだ。子供は高値で売れる。三千万にはなる。俺としては金になるならどっちでもいいと、そう言ったのだ。むしろ、中国マフィアに売り飛ばさないことを感謝しろとも言ったのだ。
祥吾としては、はらわた煮えくり返る思いだが、一応要求には応じた。ここで交渉決裂させるわけにはいかない。
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