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第24話 誘拐
世間は夏休み、もちろん玲も夏休みだ。かと言って祥吾と結人は常と変わらないが、来週は昨年同様西川の叔父貴の地元へ遊びに行くことが決まっている。結人と玲はそれを楽しみにしている。
当番弁護士としての仕事を終えた結人は、夕方帰宅した。いつもならいち早く察知した玲が迎えに出てくるのに、それがない。離れにいて気付いていないのか? と離れに行き「玲、ただいま」と声かけるが無反応。
母屋の若い衆たちのところか? 母屋にいって声かける。
「玲、ただいま。兄さん帰って来たよ」
すると相川が厨房から出てくる。
「先生、お帰りなさい。坊ちゃん離れにいなさるんじゃ」
「いないんだよね、だからこっちかと思って、親父さんとこかな?」
しかし東吾のところにもいない。結人は直ぐに若い衆が詰めている部屋へ行く。
「玲がいないんだけど、どこへ行ったか知っているか?」
知っている者は誰もいない。皆でもう一度本宅中を探すがどこにも玲の姿はない。
どこへ行った? 誰も知らないなんて……、とにかく祥吾へ知らせないと。
「玲がいないんだ!」
『いないってどういうことだ?』
「僕、さっき帰ってきたんだけど、本宅中どこにもいない、行方を知る者もいないんだよ! どうしよう」
『分かった、直ぐに帰る。お前はそこを動くな、いいか絶対に外へ探しに出たりするな、絶対だぞっ!』
祥吾は念押して電話を切る。同時に車へと向かいながら広沢に問う。
「GPSはどうなってる?」
「本宅のままですね。坊ちゃん靴履いて出てないようです」
玲の通学用の靴にはGPSを付けている。校区外に出れば通知があるようになっている。しかし、今は夏休み。別のものを履いて出たのか?
「そうか、ならばとにかく帰って状況を聞かねば判断できないな」
祥吾の気は焦った。いなくなった玲も心配だが、結人が探しに出たりするのも心配だ。沢村には、絶対に結人を外へ出すなと命じたから大丈夫とは思うが……。
東吾へ電話すると、既に三角は心当たりを探すべく出かけていることと、燁子にも既に連絡し、心当たりを当たっていることが分かる。
慌ただしく帰ってきた祥吾に、結人は駆け寄る。
「祥吾さんっ」
「ああ、大丈夫だ。今、義兄貴と姉貴が心当たりを探している。で、どういう状況だったんだ?」
「どうやら、木村が連れて出たらしい」
祥吾の問いに、一緒にいた東吾が答える。祥吾が帰ってくるまでに粗方の状況を調べていたのだ。
その結果、三時のおやつを食べて、その後若い衆と遊んでいた。だいたい四時頃まではいたことを相川が記憶している。その後結人が帰宅した五時までの約一時間の間にいなくなったと思われる。
同時に、住み込みの若い衆で木村だけ不在な事が判明した。つまり、木村が連れて出た可能性が高い。
「木村が? 春に新しく入った奴だな。相川、木村は佐伯の紹介だったか?」
「はい、そうです」
佐伯は一家に入って五年目、住み込みの若い衆の一人。高校生の時まではかなりやんちゃしていたが、一家に入ってからは真面目に役目をこなしている。相川も目をかけている若い衆の一人だ。
その佐伯の高校の先輩が木村だ。木村は洋食レストランで修行していたため、洋食、そして菓子作りの腕がある。そこを相川も気に入り、春から住み込みで入れたのだ。
木村は盃をまだ交わしていない。それは三年ほど勤めて、認められてからになる。佐伯も昨年交わしたばかりだ。
「怪しいところもなかったんだよな」
「はい、菓子作りも上手くて重宝してたんだが……」
「木村が意図的に連れ出したのか、何かに巻き込まれたのか、判断つかんな」
そこへ三角と燁子が相次いで姿を現す。二人共一様に深刻な顔つき。玲が見つからなかったと知れる。
「いなかったか……どこ行きやがった」
夏とはいえ日は落ちてる。こんな暗くなるまで帰ってこないとは、益々心配は募る。その時厨房の電話が鳴り、相川が急いで取る。
「お前! どこにいるっ? 坊ちゃんは?」
その声に皆が顔色変えて近づく。
「若と、話したいと言ってます」
「俺だ、お前どこにいる? 玲も一緒なのか? はーっ、てめえどういうことだっ!」
皆が緊迫の表情で祥吾を見守る。祥吾の受け答えで、木村が何を言っているのかだいたい分かる。ことは深刻だ。
祥吾が電話を切る。
「玲は木村に誘拐された。身代金を要求しやがった」
「けっ警察にっ」
血相変えて言う結人。
「待ってっ、極道が警察に頼れるか」
「そんな! 誘拐されたなら警察に届けないと! うちは日頃法令を守ってる、別に警察と敵対してるわけじゃないだろ」
「そうだが、極道には極道のやり方があるんだ。警察に頼るなんざ極道の風上にも置けない。俺が解決するから大丈夫だ」
まだ納得出来ず食い下がろうとする結人。
「結人、ここはわしらにまかせろ。で、木村の要求はいくらだ?」
東吾が言うのに、相川がその場で土下座する。
「すみません! わしの見極めが甘かったせいで」
「ああ、詫びはいい。それよりも今は玲を無事に取り戻すことが先決だ。極道の矜持として素人には手を出さない。ましてや女子供には絶対に手出ししないんだ。それを子供をだしに金を取るなんぞ、絶対に許せねえ、絶対にだっ!」
東吾が断固として言い切った。その表情は怒りに燃えている。
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