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第23話 鬼神玲の保護者は結人

 ————  玲が鬼神玲として学校に通い始めて一週間が過ぎた。なんの波乱もなく穏やかな日々であった。 「兄さん、学校からお便り。授業参観のお知らせだって」  授業参観の言葉に結人は動揺する。そうだ、小中学校にはそういう行事があるんだ、忘れていた。どうしよう……。 「去年までは義姉さんが行ってたんだよね」 「うん、そうだよ」 「どうしよう、義姉さんに頼もうか?」 「えっ、兄さんが来てよ。僕の保護者兄さんでしょ。これ、保護者参観のお知らせって書いてあるよ」 「でっ、でも僕でいいのかな」 「兄さんがいい! 学校に来るのは兄さんがいい!」  きっぱりと言い切られた。自分が行くしかないのか。確かに鬼神玲になった玲の保護者は自分と祥吾。母親役は自分。学校関係は自分の役割でもある。当然授業参観もそうだ。  しかしと結人は思う。通常授業参観はおそらくほとんどが母親。そこに交じるのは目立ち過ぎないか……。  心配になった結人は燁子に相談する。 「あらっ、大丈夫よ。玲も結人さんがいいって言ったんでしょ」 「母親たちに交じって目立たないかなと思って」 「目立つから玲も嬉しいんじゃない。あの子結人さんが自慢だから」  明るく言い切られた。そうだ、この人も鬼神の人間だ。間違いなく玲の産みの母。ここは自分が腹をくくらなければ、結人はそう思った。  授業参観当日。結人は朝から緊張していた。玲が家を出る時「じゃあ兄さん、今日待ってるからね」と言われた時も引きつった笑顔しか返せなかった。  授業参観後、保護者だけ残って学級懇親会まであるのが結人の緊張に歯車をかけている。  祥吾には「じゃあ、頼むぞ」と爽やかに見送られた。  全くこっちの気も知らずにと、ため息つきながら車に乗り込む。学校に近づくにつれ心臓までドキドキしてくる。落ち着け、落着くんだと自分に言い聞かせる。  着くなと願ったが、車は無情にも学校に着く。沢村がドアを開け結人は降り立つ。ここからは一人だ。  結人は悲壮な決意のもと学校へと入っていく。教室に着くと、既に何人かの母親が来ていたので、軽く会釈して中へと入る。  結人が入ってきたことに気付いた玲が後ろを振り向きVサイン。玲、前向いてなきゃ駄目だよと視線で伝える。玲も分かったようで直ぐに前を向く。  その後、他の母親たちがどんどん入って来る。かなりの数だ。中には祖母らしき年配の女性もいるが男性は結人ただ一人。  思った通りだ。やっぱり居づらい。逃げ出したくなる。と、その時「鬼神くん」先生の声。結人はドキッとする。玲が指名されたのだ。 「はいっ」と返事した玲は、前へ出て行き、黒板に答えを書く。 「正解だね、良くできました」  良かった、玲偉いよ! 玲はニコッとして席に戻る。座る間際に結人へ再びVサイン。結人も大きく頷く。少し結人の気持ちも軽くなる。しかし、緊張の本番はこの後の懇親会だ。  子供たちが帰った後、保護者だけが残る。帰り際に玲から「じゃあね」と笑顔で言われた。一緒に帰りたかった。 「保護者の皆さまお子さんの席にお座り下さい。五十音順の席になっています」  結人も玲の席に座る。そして順番に自己紹介。結人は玲の兄と名乗る。すると、お若い方がと思ったらお兄さんなんですね。お兄さんが出て来られるのは偉いですね。と口々に言われ、恐縮する。褒められるとかえって恥ずかしい。  その時一人の母親が、冷たい表情で言う。 「お兄さんと言うことは鬼神一家の構成員ですか?」  構成員と言う言い方に悪意を感じる。鬼神一家が極道と知っていて、非難の意味が込められていると思うのだ。結人を褒めていた母親たちの顔色も変わる。 「私は弁護士事務所の代表をしています。といっても弁護士は私一人ですが」  結人の言葉で顔色が変わった母親たちの顔が称賛に戻される。「弁護士さんなんですね、お若いのに偉いですね」と皆が頷き合う感じだ。  悪意のある発言をした母親の顔は引きつっている。この人怖いな、名前を憶えておかないと、玲に悪影響があるといけない。  鬼神を極道と知っていて、反感があるのだろう。しかし、世間はそういうものでもある。ある意味これが現実でもある。  三角の名字は極道とは分からないが、鬼神ではそうはいかない。歴史が古いだけ、知る人は知っているのだ。自分は勿論、玲もその現実の中で生きていかねばならない。  その後懇親会を何とか乗り切り校門を出ると、迎えの車に乗り込む。 「先生お疲れ様でした」 「ああ、さすがに疲れた。男僕一人だったから」 「あーっまあ……そうなんですね」  沢村がさぞ気の毒そうに言う。  帰宅した結人は東吾への報告、そして祥吾にも同じように男は自分一人だったと言うと、二人からは苦笑交じりに同情される。  そして、悪意のある言葉を言われた件も伝える。自分はいいが玲に何かあるといけないから、二人の耳には入れておくべきと思ったのだ。  二人共、まあそういう輩はいるわなとの反応。ある意味慣れているといった反応。  そうか、これが極道に産まれ、そこで生きてきた者の反応かと結人は思った。  伊達に会長を、跡目を張ってはいない。  そしてもう一人、将来の五代目の反応。  結人はあの母親の子供はどんな子だろうと思って、それとなく聞いたのだ。どういう子? 仲はいいのかと。 「仲は別に良くも、悪くもないよ。ブスだし、ちょっといじわるな感じの子だから好きじゃないよ」 「ブスって、そんなこと女の子に言ったら駄目だよ」 「直接は言わないよ。でもブスだよ。多分、その子のお母さんもブスだよ」  まあ、美人ではなかったけど……。子供って容赦ないってか、まあ心配することも無いかも。 「今日来てたお母さんたちの中で兄さんが一番きれいだったね! 僕ね鼻が高かったよ! これからも学校へは兄さんが来てね!」 「さすが俺の息子だ。よく分かってるじゃないか!」  二人でガッツポーズまでしている。何結託してるんだ。こんな時は気が合うっていうか、全くと結人は思う。  これからもこの二人と生きていく道。前途多難な予感もしながら、面白そうだとも結人は思うのだった。  

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