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4.『愛されたがりと愛したがり』②(最終話)
オレの言葉に驚いたような目をして、黒崎さんが顔を近付けてきた。じっと見つめてくる瞳には凶暴な獣の衝動と、気遣いの理性がせめぎ合っているように見える。
この部屋は暖房が効いてて暖かい。お湯で拭かれても冷めたら寒く感じるはずなのに、全然寒くないんだ。オレが寒くならないように、黒崎さんは全部管理してくれてる。
それって、傍若無人な獣の衝動だけじゃ絶対に出来ない事だと思う。だからそれは、紛れもなく理性的な愛なんだろう。
「リリ、……愛してる」
「嬉しい。いっぱい愛して。そしたら逃げないよ」
「……ッ、リリ!」
黒崎さんにギュッと抱き締められたらクラクラするほどいい匂いがした。それがオメガの本能なのだとしても、そうさせるのはアルファの意志だ。発情期のオメガのフェロモンみたいに無差別じゃない。
ただ一心にオレというオメガを求めるからこそ溢れる黒崎さんの匂いが、オレを虜にする。
求められて、愛される。
ずっと欲しかったものはそれなんだって、オレはこの時ようやく気がついたんだ。
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黒崎さんの愛撫は一言で言えばすごく執拗だった。オレだって挿入はまだでも触り合いなんかはたくさんしてきたから、性感帯は結構開発されてる。
経験値という点で言えば結構上級者だと思ってたんだけど、黒崎さんの前では全然通用しなかった。
「っ……ぁ、……黒崎、さんっ……」
全身、舐められてない所がなくなるくらいたくさんキスされて、膝裏にちゅうっと跡を残される。気付いていなかった性感帯まで発見されて、しかもそこをより感じるように育てられて、オレはもう息も絶え絶えだった。
乳首もピンッて尖るまでたくさん舐めて吸われて、指でも弄られたからぷくんと腫れてしまった。耳とか、尻尾の付け根とかも執拗に舐められてブルブル震えるくらい感じてしまって、たくさん泣いた。
もうびしょびしょに濡れている穴に、いまようやく三本の指が入っているところだ。もう息が苦しくて、はー、はー、と荒い息を吐くだけで後ろをキュウキュウ締め付けてしまう。はやく、はやく、とねだるように見つめても黒崎さんはまだ服も乱していない。流石にネクタイは外しているけど、上げた髪もほとんどほつれてなくて完璧だった。
こんな時に思うのも変だけど、オレが同じ熊獣人だったとしても黒崎さんが近くに居たら惚れちゃってただろうなと思う。雄とか雌とか関係ない、圧倒的な存在感に魅入られるんだ。
以前の、オレに触れても股間がぴくりとも反応しなかった時の黒崎さんは、結構猫を被ってたんだなって判った。
あの穏やかな笑みと優しい口調に隠されて、ガードが堅くて本心が覗けなかったんだ。それが今は、本当の黒崎さんが剥き出しになっていて凄く、色っぽい。
笑みの消えた口元に、切れ長で鋭い目つき、それだけなら怖いだけだった。でも発情して額が少し汗ばんでいて、目尻は赤いし唇からは熱の籠もった息が吐き出す、そんな黒崎さんは官能的過ぎる。
シチュエーションドラマとかで年齢問わず黒崎さんに魅了されちゃう雌が増えそうだった。こんなの見せられないよな、いつもの黒崎さんがガード堅くてよかった、とちょっと安堵してしまう。
「……リリ?」
「ん、かっこうよくて、惚れ直してたところ」
へへ、と笑いながら言ったらキスが降りてきた。いまだにオレの手首はボア付きの手錠で繋がれていて逃げられないようにされてるんだけど、オレはもう黒崎さんから逃げるつもりなんて微塵もなかった。これは興奮材料のオモチャってだけ。
「んっ、ぁ、ふ、っく……」
口を開けてキスを受け入れて、太い舌で口の中をいっぱいにされる。とろとろ零れる唾液まで啜られて、そのまま膝を持ち上げられた。グイッと黒崎さんの腰がソコに押しつけられる。
「……ッ……~~~ッ」
流石に太い、甘く見てた、苦しい。勃起状態だからか前にみた時よりずっと大きな亀頭が、メリメリとオレの中に侵入してくる。オレは息も吐けなくなって口をはくはくと動かした。
「……ッ」
慎重に腰を進める黒崎さんの額から、ぽつりと汗が滴った。すごく我慢してるんだろうなっていうのが伝わってきて、くすぐったくて愛おしくて、堪らなくなる。ゆっくりと時間をかけて入ってくる黒崎さんのモノは内壁を傷つけないギリギリのところを保っていた。
圧迫感はあるし、痛みもないわけじゃないけど、裂けていないなら気にせず進んで欲しい。オレだって黒崎さんでいっぱいになりたいって、ずっと思ってたんだからさ。
「リリ、大丈夫?」
「へーき。でも、まだ動かないで、んんっ……おなか、いっぱい過ぎて」
コツンと奥に当たる感じがして、黒崎さんが止まった。たぶん半分くらいしか入ってない気がするけど、初めてだったら裂けなかっただけでも及第点かな。気持ち良さより苦しさの方が勝るけど、充足感だけは凄くあった。だって黒崎さんだけだ、無理って言わないで根気よく慣らしてくれたの。
すごく大変だっただろうし、臨戦態勢のモノも苦しそうだった。それでも裂けないようにゆっくり入れてくれたし、オレが苦しさだけに集中しないようにたくさんキスして身体も撫でてくれた。
「っ……あ、……」
ぐん、てまた中の圧迫感が増した。ビクン、と震えて上目に黒崎さんを見上げると、汗を拭いながら落ちてきた髪を掻き上げてるところだった。はぁ、と吐く息さえゾクゾクするほど色っぽい。そんな黒崎さんが苦笑しながらオレの頭を撫でてきた。
「あんまり煽らないでくれ」
「黒崎さんこそオレのこと魅了しっぱなしなのに……気付いてないの?」
「俺が? 知らなかった。リリがそうなってくれるなら嬉しいけど」
膝に抱き上げられて、腰を支えられながらゆっくり揺らされる。ベッドの揺れを利用して突かれるのは負担が少なくて、ずっとぎゅうって抱きついていられるから良かった。
はぁ、はぁ、と快感と共に上がっていく息を黒崎さんの首のあたりに吐き出していたら、またキスされた。
流石に黒崎さんは上のシャツだけ前をはだけさせていて、逞しい胸筋が直にオレの胸に触れている。ドクドクと激しく脈打つ二人分の鼓動が、お互いの興奮を伝えてきた。
それでも激しさのない、緩い突き上げしかしてこない。理性のバケモノなのかなこの人。いつかそれが崩壊した獣みたいな黒崎さんが見てみたくもあるけど、たぶんそれは今日じゃない。これからだっていくらでも時間はあるんだからね。
緩い快感続いてふわふわ心地良くなってきた頃に、やっと中にとぷりと吐き出される。
オレはその間に二回くらいイッていて、股間はとろとろに濡れていた。いっぱいになっていた中からずるりと性器が引き抜かれ、こぷっと白濁が少し零れた。
「ねー、黒崎さん。オレ思ったんだけどね」
「うん?」
また濡れたタオルでオレの身体を拭き始めた黒崎さんに、甘えたように話しかける。腰が痛くて今日は起きるのも無理そうだったから、もう全部黒崎さんにやってもらおうと思ってた。頼って甘えるほど喜んでくれる恋人って、なにそれ凄い、としか言いようがない。
「オレ、ずっと愛されたがりだったんだよね」
ぴくりと一瞬止まった黒崎さんの手が、ゆっくりまた動き出してオレの太腿に散った精液を拭いとる。
「愛されたいくせに、愛するのは凄く疎かにしてた。求めて求めて愛してくれないって嘆いて、でもオレだって相手に愛してるって態度で示したかなと思ったら全然覚えが無かったんだ」
ころん、と黒崎さんの方に寝返りを打って手首を差し出す。手錠のついた腕を持ち上げて、拘束されてて離れない手首をそのままに、両腕の隙間に黒崎さんの頭をすぽっと通した。そのまま、抱き締めてちゅっと鼻先にキスをおとす。
「やっと納得した。そりゃ捨てられるわ。愛してくれない相手に、愛を注ぎ続けるのは誰でもしんどいもんな」
「……リリはそのままでいいと思う」
「へ?」
黒崎さんは首の後ろに手を回して、オレの手首の手錠をカチリと外してしまった。それがシーツに落ちるのと同時に、唇が重なる。ちゅ、ちゅ、と軽く触れ合わせるだけのキスが何度もくり返されてくすぐったくなった。腰を支える大きな手にぐっと力が籠もって、黒崎さんはオレの目を覗き込んできた。
「そのままでいいよ。俺がその分を補充するから。リリはただ、俺に愛されて」
その瞳に映るのは、どろりとした濃い執着だった。でもオレにはそれがとてつもなく大きな愛に見える。
欲しかったのはこれだったんだって、黒崎さんが気付かせてくれた。だからオレはもう、絶対にこの番を離さない。
「黒崎さん、今週末オレの実家来られる?」
「ご挨拶に行こう。本当はリリを部屋から出したくないけど、俺が車を出すから」
「あっ、あと実家から見合い相手に断わり入れて貰わないと」
「それは俺がしっかり話をつけておくよ。安心して?」
にこ、と穏やかな笑みを浮かべた黒崎さんに、俺は沈黙した。その顔をする時の黒崎さんは猫を被ってる。なんかオレに隠したい事実があるんだろうな、知り合いだって言ってたからそういう事かな。喧嘩とかしないよね、アルファ同士って仲悪いとか聞くけど。あまり大ごとにならないといいな。
「リリは何にも心配しなくていいんだよ」
イケメンでスパダリのアルファにそんなこと言われて平気なオメガがいるかな。いないと思うな。ちょっと執着が監禁拘束寄りだけどそれもまた黒崎さんの魅力だから、仕方ないよね。だいぶ黒崎さんに毒されてるオレはそんな風に思いながら、笑った。
「心配? してないよ。よろしくお願いします、黒崎さん」
‡
週末に家に帰って家族に黒崎さんを紹介したら、次は婚約の手続きと引っ越しの準備だ。アパートに残ってるものは別に必要なものでもないから捨ててしまっても良い。大学はどうしようかな、黒崎さんは部屋から出したくないって言うだろうから休学か退学の相談しよう。
こんな生活に弟はなんて言うだろう。結婚については、両親は喜んでくれるだろうけど。弟は何か察して黒崎さんに探りを入れるかも知れない。でも、黒崎さんの猫っ被りワザはすっかりオレも騙されたから、きっと大丈夫だ。弟も丸め込まれちゃうと思う。
愛されたがりでメンヘラなオレがようやく見つけた、無償の愛を与えてくれる彼氏だよ。そうオレからちゃんと説明して、納得してもらって黒崎さんのマンションに戻ろうかな。
黒崎さんの巣は、『オレと黒崎さんの巣』になった。ここに閉じ込められて真綿に包まれるみたいにぎゅっと大事に慈しまれて、オレは黒崎さんの愛で窒息してしまいたくなる。
息もつけないくらいの愛が、オレの望んでたものだった。ようやく見つけた番に毎日とろっとろに甘やかされて蕩けるまで愛されている。こんな未来が用意されていたなんて、十人分の別れ話に泣いていた過去のオレに教えてあげたい。
うなじを噛んでもらったら、今度はそこに黒崎さんの望む首輪を付けて貰おうと思う。
余談だけど、黒崎さんはケーキ作りを始めた。
オレの口に入るものは全部管理したいから、甘味好きのオレの胃袋を掴むために、有名パティシエよりお菓子作りが上手くなってくれるんだって。
黒崎さんなら本当にやってしまいそうな気がするから、オレは楽しみに待っている。
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