13 / 21

第13話

 遣手婆のところまでたどり着く頃には、もう朝になっていた。  裏手に回って裏口から勝手に入る。 「ばーさん、ばーさん!」と声を荒げて回っていると、遣手婆が出てきて俺の顔を見るなり目を見開いた。 「どうしたんだ!」  遣手婆の顔を見た途端、我慢してたものがとめどなく溢れてきて、その場にぺたんと座り込むと、うわああ、と泣き始める。 「ああ、可哀想に」  遣手婆が俺の前に座ると、俺を抱き寄せる。  遣手婆の肩に顔を埋めてぐずる子供のように泣きじゃくった。  涙も出なくなり、俺は遣手婆の腕の中にいるのが気まずくなっていた。 「もう気が済んだか?」 「うん、ごめん」 「なにがあった?」 「……思い出した」  肩から顔を上げて、涙や鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を拭いながらそう呟く。 「そうか。そんな気はしてたんだ。お前がパニックになってくるときはいつもそうだからな」 「……前もあったっけ」 「あったさ」 「覚えてない」 「そうだろうな」  まったく、と言いながら頭を撫でられる。 「奥で寝ていくといい」 「ばーさん、俺、死ぬかもしれない」 「なんで」 「帝の手叩いちゃった」 「でも、帝の側近は追いかけて来なかった。大丈夫だろう」  言われてみればそうだと思い、俺はその場に横になった。 「あー……最悪だ」 「寝るなら奥で寝ろ」 「ばーさん連れてって」 「よぼよぼの婆が武官連れていけるわけないだろう! 歩け!」  ガシガシと足を踏みつけられ、俺は渋々起き上がり、奥の部屋へと向かった。  遣手婆の寝台にごろんと転がり、布団をかける。    遣手婆がそれを確認すると部屋を出ていった。  一人になった部屋で、俺は目を閉じる。  瞼の裏で、綺麗な青年が一人、俺の前に立って笑顔を見せていた。 『お前が相談役になってくれるのか?』 『そうです!』と、俺は返事をする。 『そうか! お前となら仲良くできそうだ。よろしくな』 『はい、皇太子殿下!』  その日は、晴れた日だった。  気持ちのいい天気で、皇太子殿下はあまりにも美しく輝いていた──。​

ともだちにシェアしよう!