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第30話

「じゃあ、キーホルダーも買えたし。帰りますか」 全員の手にキーホルダーが行き渡ったところで、堤谷が提案した。 空はまだ青々としてはいるが、四時半を過ぎているので、帰るには丁度いい時間だ。 遊び足りなければ、駅付近で遊んでもいいし。 「あ、駅の近くで、プリクラだけ撮らない?」 菖蒲が水流さんの服を握り締めながら提案する。 多分、ちょっと勇気出したんだろうな。 「おぉ、良いな。やっぱ何かしら形に残したいよな~」 堤谷が食い気味に賛成する。水流さんと木谷さんも『いいねいいね』とキャッキャして。 思いやりが溢れていて、何か良い光景だ。 でも、六人が入るとギュウギュウなのでは? 「じゃあ、ここにする?何か、大人数でも入れるらしいよ。八人まで撮れるって書いてある」 水流さんも同じ事を考えていたようで、大人数用の機械を探してくれたようだ。 話しながらゆっくり歩いていたからか、自転車を返す場所に着くころには五時を回っていた。 駅に着くころには、五時半頃かもしれない。もう夕方だな。 ――凄く楽しかったね。 ――ネモフィラ綺麗だったね。 ――ポピーも綺麗だった。 ――シャボン玉見られてラッキーだったね。 皆が、キャッキャしながら振り返る楽しそうな声が、風のように聞こえてくる。 ――キーホルダー買えてうれしい。 ――ゲームも堪能できた。 ――久しぶりの自転車も気持ち良かった。 ――お昼のアレが美味しかった。 ――アレも美味しかった。 なんて、今日一日の楽しかった事を色々と振り返りながら、ゆっくり駅に向かって歩く。 平和だ。まぎれもなく平和だ。 キャッキャする女の子に、相槌を打つ男の子。 他の場所ではまだ帰りたくないと駄々を捏ねる子供に、どうにか帰らせようと色んな提案をして苦心する親。 ちょっと大人のカップルも居たり、孫を眩しそうに見るおじいちゃんの姿があったり。 前世ではこういう事を意識した事が無かった。 稔の事ばっかり見ていて、他の事を見ようとしてなかった。意識すらしてなかったと思う。 空の色とか、木々の騒めきとか、見知らぬ人達の声とか。 なんでだろう。何も見えてなかったし聞こえてなかった。 こんなに、世界は色んなもので溢れているのに。 「どうした?稔」 ボケーッと周りを見ていたら、和樹が心配そうに話しかけてきた。 「いや、何でもない。ちょっと、ボーっとしてただけ」 いや待てよ。 確かに、前世で俺(和樹)は、稔しか見えてなかった。 でも、今の和樹はどうだ? 今の和樹は、俺(稔)の事しか見えてないか? いや、そんなこと無いだろ。 だって、木谷さんが遅れたらすぐに気付いていた。 朝は声をかけていたし、さっきは並走していた。 水流さんとだって、物凄い仲良くなっていた。 そもそもだ。 前世の俺(和樹)は堤谷とこれほど仲良くはなかった。 今の和樹ほど話をしていた記憶もない。 稔以外の人間に興味なんて無かったから。 稔にしか興味ないけど、稔を俺(和樹)の側に縛り付ける権利は無い。 そう思っていたから、堤谷が一緒に居るのを我慢していただけで、談笑なんてしなかった。 和樹は、俺のはずなのに。 俺は、和樹だったはずなのに。 なんで、今の和樹は昔(前世)の俺と違うんだ?

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