1 / 13

第1話

 十年ぶりに同じ営業所の所属になった皆方(みなかた)は、俺と同期入社だ。新人の頃、揃って配属された先で随分と競わされた。現場で揉みに揉まれた上に、資格取得のための試験をいくつも受けさせられる。そうやって腕と頭と両方を鍛え、三年が経つころに一人前と言われる職場だった。  上からは散々煽られたが、皆方は元来気のいいやつで俺に対するライバル意識なんて微塵もないような男だ。いいように使われる毎日も、皆方と飲んで愚痴れば次の日にはまた「やってやろう」って気になったもんだ。  四十路も半ばに入って再会した時に、互いがやもめになっていたことを嗤いあった。  俺の離婚原因は家庭を円満にやれるだけの甲斐性が無かったというのに対して情けない理由だったが、皆方はというと奥方の堂々たる浮気のせいだった。 「好きな人が出来たって言うんだよな」  と、仕方なさそうに笑って見せたが、皆方が愛情故に奥方と離婚してやったことは明白だった。 「見る目がない」  俺がそう言えば、 「そんなことないよ。だって三年前だ。この人に出会うために生まれてきたんだって会った瞬間に分かったっていうんだから……そんな先の事見越して結婚なんかしないだろ。俺が結婚した時には……ちゃんと俺を愛してくれてたんだよ…………たぶん」  最後にたぶんなんて余計なものをくっつけるせいで、一層哀れさが増す。とにかく今となっては互いに気楽な一人暮らし。 「今日、上がれんのか?」 「え……あ、うん、上がる!」  いつも通り約束は木曜。あと一日頑張るための慰めの飲み会だ。  皆方は新規プロジェクトのリーダーを任されたために、営業所の中でもいちにを争う忙しさだった。所内に居る時は電話してるか、ちょこまかと走り回っているか(しかも、切羽詰まってきだすと「もう」なんてかわいいことを言いながらだ)している。  俺は同じ営業所とは言っても全く違う業務に就いているため、皆方がどんなに追い込まれていても手助けの一つも出来ない。ただ少し離れた席から焦る皆方を見るしかないのだ。  皆方が「上がる!」と言った言葉を信じて、繁華街のいつもの飲み屋に先に入った。  カウンターの端で「後からもう一人来るから」と告げ、つまみとビールを頼む。店の隅の小さなテレビでは野球中継が映し出される。贔屓のチームが優勢で、畳みかけるチャンスについつい見入ってしまう。

ともだちにシェアしよう!