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第2話
「お待たせ」
慌ててきたのが分かる息遣いのまま、皆方が隣に陣取る。勝手に皆方の分のビールと自分のお代わりを頼む。ジョッキを抱えてやってきたおばちゃんに、皆方は「手羽」とお気に入りのつまみを頼んだ。
「おつかれ」
ガチとグラスを合わせるとグラスを傾けながら、美味そうにグラスを傾ける皆方を盗み見る。きゅっと目を閉じているせいで俺の悪行は知られることはない。
「はーこれがあるから頑張れる」
皆方は口元の泡をおしぼりで拭った。そんなところは確かに自分とおなじおっさんなんだなと感じるのだが、どうしてか俺にはそんなところもかわいく見えてしまう。
「舞がさー、彼氏と水族館に行ったって言うんだ」
「……はあ。大学生だろ? それがどうした」
舞は皆方の一人娘だ。くりっとした目は皆方にそっくりだが、プライドの高そうなツンと先の尖った鼻は元奥方似だ。まあ美男美女の両親から生まれただけのことはある、華やかな顔立ちをしている。彼氏の一人や二人、いて当然だろう。
「俺SNSとか全然分かんないからへーってくらいにしか思ってなかったのにさ、この間の飲み会の時に佐久田さんが色々設定して検索してくれたら、舞の普通親には言わないようなあれこれが見えちゃうんだよ」
「まあ親が見てるとは思わないだろうな。自分の親のレベルがよく分かってて、のぞき見されるなんておもってもないんだろうから」
設定して検索してくれた佐久田さんというのは、短大出たての女の子だ。皆方の娘と年が変わらない。そういうあたりの文化に詳しいなら、自分がされたくないようなことをするもんじゃないんだが。
「そう! だから見ちゃいけないよなーって思いつつ、見ちゃうんだ。ああーもうっ」
自己嫌悪で荒れる皆方に「ご愁傷様」と呟いて、ビールを飲む。テレビに目を移せばゲームは進んでいて、追加点のないまま八回表の攻撃に入っている。一点差。気の抜けない展開だ。
「俺らにも若いころあったしなー……」
「まあな」
突然おっさんに生れ立ったわけじゃない。皆方の娘と同じ年齢も通り過ぎてきたのだ。
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