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第3話
「やってたよな?」
「ああ」
「人生で一番ってくらいやってたよな?」
「間違いない」
派手なやつらばっかりじゃない。地味で狭いコミュニティのやつだって、相手さえいればどっぷりと性の世界に浸っていたものだ。大学生となれば行き場も時間もある。どちらかが一人暮らしをしていれば半同棲になるのも時間の問題で、一日中部屋でだらだらと過ごしたことも数えきれないほどある。
割に淡泊に見えるこの男も似たような青春を過ごしてきたかと思うと、笑いが滲む。
「お前は息子だけだからって……」
「おう。セーフセックスはちゃんと教えてる」
一時期は会っていなかったが、年頃になり息子たちが手に余り出すと元嫁は俺に連絡してきた。男同士でしか教えられないことを教えてやって欲しいのだと。
数年空くと最初は白々しいもんだったが、回数を重ねて会ううちに向こうにも親父という感覚が芽生えてきたのか、母親に言えないようなことを聞いてきた。隠すよりもオープンに与えたほうがいいという教育方針で、AVも見せてやったし、避妊具も買い与えた。
気持ちいいことをやりたいって欲求を押さえてやるより、相手を傷つけないことを教えるほうがずっといい。おかげで失敗もなくやっているようだ。
「この割り切れなさはなんだろうな」
「さあ」
そっから先は仕事の愚痴がはかどる。なにぶん仕事量に対して人員が足りない。どうやっても一番仕事を把握しているリーダーの皆方にしわ寄せがくる。それを分かっていても今の体勢ではどうしようもないというところだ。
「採用かけてんだろ?」
「んー……けど上がつまんない理由ではねる」
「そうなのか?」
「いいんだよ別に。現状で全く使えなくても。とにかく普通の考えの出来る普通の子が来てくれればさ……」
飲みたがる割に強くない皆方は三杯目のビールで撃沈寸前だ。段々と顔がカウンターテーブルに寄って来る。そろそろ帰るかと勘定を済ませ、皆方と連れ立って店を出た。
でろんと大きな瞳を蕩かせた男は千鳥足で進みながら「癒されたい」と呟く。そしてその視線はと言うと飲み屋の一本裏の筋にあるピンクのネオン輝く通りに向けられていた。
癒し、な。
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