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glass 05. 変わる

 昼下がりの時計塔。俺は昼食のあと、いつも眠ってしまう。そして目を覚ますと世那は本を読んでいる。 「あ、起きた?」  世那が本を閉じて、俺の髪をそっと整えてくれる。「よく眠れた?」と笑いかける世那の唇に口付けると、世那は顔を赤くする。その顔に俺は満足する。 「よく眠れた」 「そっか……」  最近わかったことだが、世那はよく照れる。しかしそれは俺の前だけだと知っている。だからその表情を見ることは特別で、しあわせなことだと思う。 「それ、なんの本?」 「植物の本だよ」  世那がペラペラと本をめくる。覗き込むと、そこには植物の挿絵と薬効が記されていた。 「あ、これ」  俺はとあるページに目を止めた。世那が付箋を貼っているページだった。 「しってるの?」 「孤児院の近くにたくさん生えてた」 「へぇ。めずらしいね」  ギザギザとした葉の草だ。たまにシスターが採ってきて石鹸に混ぜたりしていたから香りがいいのかと思っていたけれど、効果の欄には意外なことが記されている。 「……匂いを消す?」  そこには、動物が天敵から逃げるとき体に擦りつける、みたいなことが書かれていた。 「これ、解毒薬につかえるかなって」  世那は言った。  紗良が教えてくれたことだけど、俺が飲まされていた薬は解毒薬が無いものらしい。対処法は効果が切れるのをまつだけ。  世那がどうして薬学に熱心なのか、その理由を、俺はあたりまえに受け入れていて、なんだか不思議な感じだった。愛されることを疑わないなんて。 「……俺も、薬学の勉強しようかな」 「ふふ。いっしょにやる?」  世那が本を傾けてくれる。薬学の授業は来年からだから一緒に受けることはできないけれど、こうして一緒に学べるのは嬉しい。というよりも、世那となにかを共にすることが、俺は嬉しかった。 ◇  午後の授業は美術で、俺はおとねと学園を描いていた。改めて見上げるとなかなかの迫力だ。 「けいくん、なんかとても、うれしそう」  ぼんやりと学園を見上げていたら、おとねか呟いた。 「……べつに、うれしくはないけど」 「あ! くちにでてた!?」  おとねがワタワタして筆をふりまわすから、とりあえずやめさせて、落ち着くのをまつ。 「えっと、最近のけいくんがね、すごく、なんていうか、しあわせそうで、うれしい」  おとねが本当に嬉しそうに笑う。それなら、おとねもそうだ。ツキや優芽と話しているとき、すごく幸せそうに見える。 「おとねもそうだよ」 「えぇ、そうかなぁ」  おとねとぼんやり学園を見上げる。いまだけじゃなくて、孤児院のときも、おとねやシスターがいたから、俺は世界を恨まずに済んだのだと思う。 「いつも、ありがとな」  俺がそう言ったら、おとねはまたワタワタとして、しばらくしたら、そっと笑った。 ◇  夜がやってくる。  世那と一緒に眠っていたときが恋しくなるくらいには、まだ夜が恐ろしかった。ふと目が覚めたときに嫌な汗をかいていることも、そんなときに世那のぬくもりを探すことも、毎日のことだから慣れた。  窓を開けたら夜風がやってくる。もう風は冷たくて、いつのまにか冬が近い。あっというまにおわっていく。 「……へんなの」  一年前の自分が消えてしまったわけではないのに、たしかに変化しているのは、世那と出会ったから。  まだ夜は恐ろしいけれど、そんなときに世那を思い出すのなら、わるくない。  

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