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glass 04. 優秀なひと

 第二都市はすこしだけ特殊な都市だ。GlassとVeil、どちらかが優先されることのない、平等な都市。  だから、そこに三家の権力が関わることはよくないとされて、三家が学園に関わることはなかった。  しかし背に腹はかえられないということで、けれど一ノ宮と二条院ではよくないとなり、こういうときの三ツ木家だ。   「でもまさか、夕にぃがやるとは思わなかったな〜」  世那を空港で迎える前、学園長室で夕にぃから事情を聞いて、うれしいような心配なような、複雑な気持ちになる。夕にぃも「俺もだ」と言ってため息をついた。  夕にぃは、兄弟のなかで一番頭が良いけれど、目立つのを好まない縁の下の力持ちタイプだ。それでいうと瀬津にぃは目立つことが好きだけど、あまり頭は良くない。 「それでわざわざ呼び出したのは、この話をするためじゃないよね〜?」  夕にぃは効率的なことが好きな人。世那とは別で俺を呼んだのには、きっとなにかあるのだと思う。  夕にぃが頷く。そして面倒そうに息をついた。   「優芽、カラットからスカウトが来ている」 「…………えぇ?」  三ツ木家はカラットに入れなくて、それは暗黙の了解というか、覆らないものだと思っていたけれど、どういうことだろうか。 「といっても臨時だ。もっと言うと学園にいる間だけ」 「あ〜。なるほど」  なんとなく分かってきた。どうしても家柄は見られてしまうけれど、原則として、学園に通う生徒はフラットに見られる。だから、三ツ木家としてではなく、あくまで個人として、という意味なのだと思う。けれど、どうして俺なのだろう。 「あの子、慧はカラットの護衛対象になった」 「おぉ〜!」 「学園にもメンバーが配置されているが、見知らぬGlassがあの子に付きまとうのは良くないだろう」 「だから俺ってこと?」 「そういうことらしい」  夕にぃはどこか疲れた様子だ。夕にぃは規則を大切にする人だ。学園長といい、カラットへのスカウトといい、例外が多すぎて処理しきれないのだろう。俺もけっこう困惑している。 「慧くんの護衛ってことでしょ? 世那じゃダメなの?」 「世那も護衛対象だ。朝宮透が報復するなら、世那だろうからな」 「あぁ〜」  世那が報復される想像はできないけれど、と考えて、世那はのんびりしているから、不意打ちでグサリとかされたらもうダメかもしれないと思う。 「まぁ、こちらにはやく情報を渡すため、という意味が強いらしい」 「ああ。そういうこと」  カラットから情報を得るにはすこし手続きが必要で、ちょっとめんどうだ。だからメンバーになってしまえばいいだなんて、まるで理久さんが考えそうなことだ。 「発案は理久だ」 「やっぱり〜」  夕にぃよりも効率的なことが大好きな理久さん。やることに無駄がなくて、本当にかっこいい人だと思う。きっと無意味なこととか、しないのだろうな。 「じゃあ、今まで通り生活していればいいのかな?」 「問題ない。なにかあればカラットの方から指示があるはずだ」 「りょーかい」  ということで、俺は臨時のカラットメンバーになった。 ◇  カラットは情報収集に優れた組織だから、なんといっても隠密行動が上手い。どうしてもGlassの気配というのは分かるものだけど、カラットのみなさん、どこにいるのか全然分からない。けれどふいに現れたりもする。 「よっ! 優芽!」 「海景さん〜!」  どこから現れたのか。気がついたら俺の前にいた海景さん。今日も何を考えているのか分からない笑顔だ。 「理久から伝言!」 「え! なんですか〜」 「海景が暇しているから相手してやれ」 「ははっ! 言わなそ〜」  海景さんが理久さんの真似をして言う。  学園はひっそりと厳戒態勢だけど、毎日とっても平和だ。カラットのみなさんも随分減って、いまは数人しかいないらしい。みなさん、他の仕事も忙しいから。 「平和ですね〜」  俺がそう言ったら、海景さんは「いいことだ」と満足そうに頷く。けれど、探るような視線が周囲に向けられていて、これはもしかしたら、本当に何か情報があるのかもと思う。 「ねぇ、世那ってあんなに真面目な子だっけ?」 「あぁ〜」  海景さんが深刻な顔でそんなことを言ってくる。海景さんが心配するのも無理はない。世那はすごく変わった。  まずは授業にサボらなくなった。とくに薬学の授業はすごい。熱心に学ぶ生徒を次々に追い越して、いまでは成績トップだ。 「慧くんのため、なんだろうなぁ」  いままでの世那は、必要以上の力を得ないようにしているところがあった。妬みや恨みは嫌いだろうし、最低限で生きている、といった印象だ。けれど必要になったから頑張っているのだと思う。 「力の制御の方はどうなんですか?」 「んー、ちょっとは反撃してくるようになったかなぁ」  世那はGlassの力を使うことに抵抗があって、攻撃するということがとにかく苦手だ。やさしいなと思うけれど、それが甘いところでもあると理久さんは言った。  海景さんとの鍛錬は「攻撃をする練習」だ。なんというか、そんな必要のない世界になってほしいなと思う。 「はぁ。そろそろ護衛もどるかなぁ。理久に怒られちゃう」 「やっぱりサボってた〜」  海景さんは「じゃね」と言ってもういない。海景さんみたいな人、俺はちょっと怖いなと思う。敵に回したくない。  もしも海景さんと理久さんと対立したら、と思うと、朝宮透はずいぶんマシだ。言動が単純。  あのパーティーの日、朝宮透は急にいなくなったと思ったら、なぜか警備が手薄になっていたところから慧くんを拐った。  それに、俺たちは慧くんがパーティーに来ることを知らなかった。事前に調べていた招待客のリストから、慧くんだけが消されていたから。  考えたくないけれど、きっと厄介な人が敵にいる。人望なのか権力なのか、そういったもので人を動かせるひと。 「はやく本当の平和になってほしいな」  俺はぽつりと呟く。そのときがくるまで、俺は俺の役割を果たすことしかできない。  

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