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glass 03. ほほえみ
あの夜の事件から、フィルストーン学園は休校になりました。わたしたち学生はしばらくのあいだ寮から出ることも許されなくて退屈でした。それにけいくんが心配で、わたしとツキちゃん、ずっと不安でした。
けれど、ようやく学園内なら自由に行動していいとなって、優芽先輩が色々おしえてくれました。
世那先輩とけいくんが飛行船から飛び降りたと聞いたときはもうだめかと思った。世那先輩は怪我をして眠っているけれど、けいくんは無事だと聞いて、世那先輩本当にありがとうと思いました。けいくん、世那先輩が目を覚ますまで第一都市にいるみたいです。
「はい、音音ちゃん、これお返事!」
「……!」
そんなけいくんからお手紙のお返事が届きました。綺麗に折りたたまれたお手紙を、おそるおそる開きます。そしてツキちゃんとふたりで覗きこみます。
『ちゃんと飯食えよ。あと、ツキのせいじゃないって伝えておけ』
ツキちゃん、いまにも泣きだしそうな顔をしています。実は、ツキちゃんずっと気にしていました。絶対にツキちゃんは悪くないけれど、でもきっかけはツキちゃんで、だから見透かしたかのようなけいくんは、さすがです。
けいくんの無愛想ながらやさしいお手紙に、ついわらってしまいました。とてもけいくんらしい。
はやく世那先輩の目が覚めて、学園も落ちついて、また日常がもどってきたらいいですね。
◇
学園が無事に再開することになりました。そしてついに、けいくんが帰ってきます。わたし、緊張する。
わたしとツキちゃん、そして優芽先輩は、空港でけいくんと世那先輩をお迎えすることになりました。
「音音ちゃん、きっとびっくりするだろうな〜」
優芽先輩が言います。いったいなんのことでしょうか。わたしたちは首を傾げますが、優芽先輩はにこにことわらうだけです。
「あ! おりてきた!」
優芽先輩、ハッチが開いたばかりの飛行船に手を振ります。わたし、目をこらしたら、とてもきれいな容姿の方がふたりいました。ひさしぶりだなあ。圧巻ですね。
けれど、なんというか、どことなく、なにかが。
会話は聞こえませんけれど、ふたりの雰囲気がやわらかいというか、これは、もしかして。
「けい、学園長に呼ばれてるから先に行くね」
「うん」
「またあとでね」
「わかった。行ってこい」
「行ってきます」
そして世那先輩、離れるのが惜しいみたいに、けいくんのほっぺに口付けして、けいくんもまた、世那先輩の腕をぎゅっとつかんでいます。
これは、もう、どこからどうみても。
わたしとツキちゃん、肩を組んでおどりだしそうなのをぐっとこらえて、けいくんを迎えます。
「えっと、けいくん、その、世那先輩と、」
わたし、しどろもどろに尋ねたら、けいくんはすこし照れたように視線をそらして、
「……恋人、になった」
と言いました。いけない。ツキちゃんと肩を組んでおどってしまった。いやあ。そうですか。くっついてほしいとかじゃなかったけど、やっぱりうれしい。そうですかあ。
ツキちゃん、泣いてる。やさしい子ですね。いけない。わたしも鼻水が。
「じゃあ、学園に行こうか〜」
優芽先輩がわらいながら言います。世那先輩は本当に先に行ってしまったみたい。もうどこにもいませんね。わたしたちは、のんびりと歩きながら学園にむかいました。
学園は色々と変わりました。全体的に人が減りました。さっそく全校集会が開かれましたが、先輩が何人かいなくて、先生も何人かいません。
そしてみんな、たったいま登壇したひとに釘付けです。ありえないくらいうつくしいひとがいます。とてもきれいな金色の髪を高いところで結い上げた女神様みたいな方。けれどどこかで見たことがあるような。
「生徒諸君。学園長を務めることになった、三ツ木夕だ」
あ、声は男の人でした。ん? 三ツ木? ということは、優芽先輩と世那先輩のお兄様! みんなざわついています。この学園にはいま、三ツ木家の方が三人もいる。
「学園で起きた誘拐事件だが——」
三ツ木夕さん、学園長先生が片手をあげながら言います。静粛にということなのでしょうが、なんというか覇気がありますね。
「一部の生徒、教師、そして元学園長が関わっていたことが分かった」
みんな、またざわめきます。こればかりはしかたのないことです。学園長先生が言うには、あのパーティーこそが、優秀なVeilを探し、そして拐うことを目的にしていたそうです。怖い。
「主犯格の男は逃亡中。くれぐれも注意してほしいが、現状、学園は安全だ。引き続き学業に励むといい」
学園長、戸惑うみんなにぴしりと言いました。あまりにも端的に簡潔に完璧にといった感じで、みんなちょっと呆然とします。学園長は、もう新しい先生の紹介をはじめました。わたしたちはぼんやり聞きます。
でも、どうやら、学園は安全らしいです。
◇
けいくんは変わりました。本当に変わった。そして世那先輩も変わりました。
「けい、おはよ」
「ん」
「登校するのひさしぶりだね。緊張してる?」
「……してねぇよ」
「ふふっ。俺は緊張してるけどね」
「うそつけ」
な、なごやかだあ。わたし、けいくんからそっとはなれます。わたしお邪魔です。
「びっくりでしょう?」
「あ、優芽先輩」
はなれたら優芽先輩がいました。けいくんと世那先輩にやさしい笑みを向けています。
たしかにびっくり。けいくんがうれしそうな顔をしているのも驚きですが、それよりも世那先輩。すごくしあわせなんだなってわかりますし、それに、けいくんへの距離感が自然になりました。ものすごく自然。
「よかった、よかったなぁ」
わたし、つい呟いてしまいます。優芽先輩が小さく笑って「ほんとうにね」と言いました。
こころなしか、周りのみなさんもあたたかい顔をしている。そうですよね。毎日、ここで見守っていましたから。
「けい、またあとでね」
「うん」
そう言って、けいくんは世那先輩を見上げて、ふわりと微笑みました。
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