26 / 55
pure 01. いい感じです
春です。春休みはさらりと終わってしまって、もう新学期。わたし、二年生になりました。けれど大変です。
「ち、ちこく、ねぼうだぁ」
新学期早々、わたし、寝坊しました。
簡単に髪を整えて制服を着て、バタバタと寮を飛び出します。人がまばらになった寮の前、ふりむいたけいくんが、あきれたようにわらいます。
「けいくんごめん!」
「別にいいけど、寝癖」
「えっ! ど、どこだろ」
頭をぺしぺしおさえていたら、けいくんが寝癖を治してくれました。簡単に治る寝癖でよかった。
早歩きで学園にむかったら、ギリギリセーフでした。お城の階段をのぼって南の校舎が二年生です。そして西の校舎につながる廊下の柱に、ちょっとだけ人集りができています。西の校舎は三年生。もしかして、
「けい、おはよ」
やっぱり。お馴染みの光景、なのですが、いままでと違うのは、けいくんが駆け寄っていくところ。けいくんが世那先輩を見上げて「おはよ」と言っています。なんだかうれしそう。
「音音ちゃん、おはよ〜」
「あ、優芽先輩! おはようございます」
優芽先輩、なんだか眠そうですね。もしかして寝坊ですかね。わたしとおなじだ。
「ん? なぁに、俺の顔なんかへん?」
ついニヤニヤしてしまったみたいです。顔を勢いよく横に振ります。変だなんて、今日も美しいですよ。優芽先輩も世那先輩もけいくんも。
そうこうしていたらチャイムが鳴ります。
「けい、またあとでね」
「……ん」
けいくん、こころなしかすこしだけ寂しそう。それもそうですね。世那先輩、春休みのあいだは第一都市の方に行っていまして、会うのはひさしぶりなのです。
けいくんが世那先輩の袖をちょっと握ったら、世那先輩が愛おしそうにほほえんで、けいくんと視線をあわせて、なにやら伝えている。聞こえないけれど、けいくんがくすくすとわらっています。ええ。なんてしあわせな光景。
世那先輩と優芽先輩が西校舎の方に去っていって、わたしたちも教室へ向います。
なんだか、いい感じです。
◇
それは昼のあとでした。教室にもどってきたけいくん、どこか様子がおかしくて、ぼんやりしているというか。たまに息をついて、なんだか憂いのある表情、すごくきれいだからドキッとしちゃいますね。
「け、けいくん。あの、なにかあった?」
わたし、おそるおそる聞いてみます。けれどけいくんは「なにも」と言います。そんなことないと思うけどな。
そう思っていたら、けいくんはそっと口を開きました。
「……なんか、あいつが、」
けいくんそれだけ言ってやめます。世那先輩がなんですか! 気になりますけど「なんでもねぇよ」と言われてしまったので見守ります。いったいどうしたんでしょう。
その答えが分かったのは放課後、けいくんと寮までの道を歩いているときでした。
けいくんがどこかを見ているので視線を追いかけてみたら、遠くの方に世那先輩と、世那先輩を囲むVeilたちがいました。世那先輩、埋もれている。
「あれ、今年の一年生なんだよねぇ」
「あ、優芽先輩!」
いつのまにか優芽先輩がとなりにいました。びっくりしました。
でも、そうか。一年生。
わたしたちは世那先輩がけいくんにしか興味がないこと、もう毎日のように見てきましたから知っていますけど、一年生には分からないですよね。三家の番、とくに世那先輩の番になりたい人なんてたくさんいますもんね。
けれど、けいくん舌打ちしました。ひさしぶりにきいたなぁ。そしてため息もつきます。
「……おとね、先帰ってて」
「あ! うん! えっと、がんばれ!」
つい応援してしまいました。でもけいくん、ちょっと頷いて、世那先輩を取り巻く人混みの方へ歩き出しました。勇ましい。
優芽先輩も「かっこいいね〜」と言っています。
「じゃあ、俺は音音ちゃんを寮まで送るね」
「え、え! だ、大丈夫ですよ!」
「いいからいいから〜」
そして、わたしは優芽先輩に背をおされるまま、歩いていきます。けいくんはちゃんと世那先輩を助けられたでしょうか。どうかな。
「音音ちゃん新学期はどう〜?」
「た、たのしいですっ」
優芽先輩と他愛もない話をして、あっというまに寮です。なんだか平和です。とても平和。
ともだちにシェアしよう!

