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veil 12. 世界に硝子が落ちても

 さらりとなびく白と、黒の髪のすきまから、夜をながめるけいの瞳が見え隠れする。ゆるくまぶたを落とすようにまばたきをして、そこから、しずかに涙が伝うのを見た。 「けい、」  どうしたの、と聞こうとして、けいの匂いは悲しみではなく、むしろあたたかいものであることに気がついた。 「俺、泣いたことってないんだよ。母さんが死んだときも父さんに捨てられたときも、泣けなかった」  また、きれいなしずくが、けいの柔い肌をこぼれる。そっとベールのむこうに触れて、けいの頬に手を添えたら、けいは手を重ねて、めをつむった。 「世那のこと考えると、かってに泣いてる。意味わかんねぇ」  そう言いながら、けいはどこか呆れたように笑う。ぽろぽろと伝う涙は、まるで大きな感情があふれているみたいで、愛おしかった。 「どんなこと考えてたの」 「……おしえねぇよ」  けいは楽しそうに笑って、頬に添えられた手をぎゅっと握ったら、その手によりかかるように、ささやくように、 「そばにいてよ」  と言った。白いベールがふわりともちあがり、はためき、その小さな願いが、壮大な祈りのように広がった。  けいはゆったりと目を開けて、俺の手をそっと両手でにぎりなおしたら、また涙をぽたりと落とした。 「……やっぱり世那の番になりたいな」  昨年と同じ、けれど違う温度の涙で、けいは言う。そのあたたかい声と表情と、さわやかな甘い香りに、鼻の奥がくしゃりとした。    俺は、そっとけいの右手をとる。すこしもちあげたら、ふんわりとしたブラウスの袖口はゆるくさがった。  晒された手首の薄い肌に口付けをして、肘のあたりまで袖をさげたら、腕の内側を、唇のやわらかいところではさむように、やさしく吸った。 「予約」  そう言って、目を合わせたら、けいの瞳は揺れて、すこしずつ視線は彷徨うように逸らされた。けいの頬がどんどん赤くなる。 「あれ、また泣いてる?」 「……うるせぇ」  けいは涙を左腕でぬぐおうとして、たっぷりのフリルで飾られた袖を見てためらって、とうとうそのままにした。 「……世那に情けねぇ姿しか見せてない」  なんて悔しそうに言うから、つい笑ったら、じとりとにらまれた。  情けない姿を見せてくれる、それがどんなに嬉しいことなのか、けいの表情のひとつひとつを見つけることが、どんなに幸せなことなのか、けいの涙をぬぐいながら、そんなことを噛み締めた。 「俺もだよ。情けないとこばっかり」 「…………そうか?」 「うん。怖がりになった」  けいのために強くなれるけど、弱くなってしまうことを知った。想いは重なるほどひとつになって透明になって、質量だけはふくらんで、それが肌を切り裂く痛みになったり、身体を包むやさしさになったりすることも。 「いっしょに、生きよ」  痛みもやさしさも、ぜんぶ、愛おしくなるくらい。  けいは「うん」と言って、またきらきらとした涙をこぼした。  

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