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プロローグ(1)
「はい、弓岡 です。ああ、いつもお世話になっております。件の絵についてはどうなりましたか……」
青いシトロエンは、今日も快調に東京を走り抜ける。車内は振動も喧噪も感じることはなく、とても静かで穏やかだ。
けれども、それは運転席周りの話で、後部座席では司 がひっきりなしにスマートフォンやノートパソコンをいじっている。ソツなく仕事をこなしているように見えるが、攻 にとっては余裕が無さそうにしか見えない。
「司、そろそろ昼時だよ。どこかで食事でもしようか」
攻の誘いに司は腕時計を覗き込む。フランク・ミュラーのトノウ・カーベックス。司の高校卒業記念に攻がプレゼントしたものだ。7年経った今でも司の手首に巻かれていることに攻は満足する。
「攻さんだけで食べに行ってください。僕は仕事してますから」
素っ気ない返事。本当に仕事が忙しいのかもしれないが、攻は苛立って仕方ない。
「何か食べないと体に良くないよ」
「それでは食事の帰りにコンビニでおにぎりを1個買ってきてください。具は昆布で」
全然足りないじゃないか……。そう言いかけて攻は口を噤む。昔ならともかく、今の司は弁が立っていた。言い包められるに違いない。
ちょうど目の前には、老舗のシティホテルが聳え立っている。攻はそちらのほうへウインカーを傾けた。建物の前にシトロエンを横づけする。すぐにボーイが現れて、攻は鍵を預けた。
後部座席の扉を開けると、そこでようやく気づいたのか、司はハッとした顔で攻を見上げる。ポカーンと口を開けて、大きな瞳は驚きを隠せずにキョロキョロしていた。
夏なのに喪服のような黒いスーツを着て暑苦しく見える。カジュアルな半袖のポロシャツとハーフパンツ姿の攻と比べたら尚更だ。
「さあ、司。降りるんだ」
攻が手を差し伸べると、司はしばし逡巡した。けれども、この状況から逃れられないと悟って、慌ただしくノートパソコンをかばんに詰めると、手を取らないでシトロエンから降りた。
ボーイの手前、平静を装ってはいるが、内心で動揺しているのが傍目にも分かる。その様子は初めて出会った7年前から何も変わっていない。
(君は私の手のひらから逃げられないんだよ)
心の中でほくそ笑みながら、攻は司の背中を優しく押した。
*
「食事ならレストランですればいいのに……」
不満げな声で呟きながら、司はビーフシチューがかけられたオムライスを口に運ぶ。
「あんなに混んでいたら、落ち着かないだろう?」
ホテルの1階にあるレストランは混雑していた。うっかり司が座ろうものなら、顔見知りや好奇心旺盛なマスコミたちに声をかけられ、落ち着いて食事できないだろう。
「だからって、スイートルームまでリザーブしなくても……。お金がもったいないじゃないですか」
「私のポケットマネーだから心配はいらないよ。好きなだけ仕事にでも使えばいいさ」
攻と司の二人だけでは広すぎるスイートルーム。飾られた花のせいなのか、芳香剤なのか、攻がつけているムスクや司がつけているベチバーを覆うほどのフローラルが少し気になった。
二人ともすっかり食事を平らげて、お腹も膨れた頃。司はすぐにでも仕事を再開しようと、傍らのかばんに手を伸ばす。それを攻は、体を抱きかかえるように遮った。
「攻さん、何を……」
「司を抱きたくなった、と言ったら?」
司の頬が赤みを帯びてくる。伝わる激しい鼓動。きっとムスクの隙間から漂う雄の体臭に興奮しているのだろう。
「仕事が終わってからにしてください……」
「君のここは今すぐって、ねだっているよ」
攻が司の股間に手を伸ばすと、そこは硬く盛り上がっていた。
「攻さん、ダメですったら……」
「ズボンの中に漏らしたくなかったら、早く脱ぐことだ」
観念したのだろう。司は膨れっ面をしながら着ているものを脱ぎ始めた。攻もそれに合わせて裸になる。互いに一糸まとわぬ姿になると、攻は遠慮なく司を強く抱きしめた。
「さあ、今だけは仕事を忘れて存分に乱れるんだ」
「……い、イヤだ」
この期に及んでまだ抵抗するのが腹立たしくて、攻は肉つきの良い司の尻たぶを軽く叩いた。途端に甘い声が漏れる。
「また少し痩せたんじゃないか? もっと食べたほうが良いよ」
「僕は細身になりたいんです!」
攻が初めて司を抱いた時は、もっとふくよかだったはずだ。あの抱き心地と比べて、今の骨ばった体は少々物足りない。
「太るとスーツが入らなくなりますから……」
「それなら新しいスーツを買えばいいだけだ」
唇が重なり合う。口先では拒んでも司の舌は攻を求め、奥まで入り込んできた。幼さが残る顔に似つかわしくない、ふてぶてしい一物が元気よく攻の腹を叩く。その間にも、攻は指先を潤滑剤で湿らせ、司の秘所を丁寧にほぐした。
「さあ、ベッドへ行こう。それともソファで挿れて欲しいかな?」
「……ベッドがいいです」
そう言って、司は攻の腕を引っ張る。攻は愉快そうに口笛を吹いて、ベッドへと誘った。司を横たえて、その上に重なる。そして、全身を隈なく愛撫した。司の喘ぎ声が耳に心地良い。汗ばむほどに、司が放つ静謐な匂いが、攻の野性的な匂いに蝕まれてゆく。
「攻さん、そんなに焦らさないで。早く……」
もうしばらく司が乱れるのを見ていたかったが、時間は限られている。攻は己の破裂しそうな一物に潤滑剤を塗ると、ゆっくり司の中へ入っていった。
何年も攻を受け入れてきたそこは、すっかり一物の形にフィットしていた。形を変える邪魔者はもういない。攻は鼻を鳴らして腰を動かし始めた。もちろん、その間も司を抱き竦め、脇のあたりへ鼻先がくるようにする。そうすれば、司が早く絶頂に達するのを知っているからだ。
「攻さん……」
司がうわごとのように繰り返す。どんなに憎まれ口を叩いても、自分無しではいられない。攻はそう確信していた。
「司、君は私のものだよ!」
司の中で自分の一物が暴発する。何度抱き合っても、決して飽きることを知らない。他の男が相手なら、こんなにたっぷりと漏らしはしないだろう。
司も同じように、腹の上へたっぷり漏らしていた。自分で感じてくれたことを大げさなくらいに喜ぶと、攻は司の腹をタオルできれいに拭った。
「私はシャワーを浴びてくるからね」
ベッドでぐったりしている司にそう言い残して、攻はバスルームに向かう。もちろん、これも作戦のうちだ。少し時間をかけてシャワーを浴びてから戻ると、司は寝息を立てて眠っていた。風邪を引かないよう、剥き出しの裸体にブランケットをかける。
「……君には休息が必要だ」
司がいつも、食事や寝る間を惜しんで仕事をしていることは知っている。だからこそ、そばにいる攻がケアする必要があった。
本当は隣で添い寝してあげたいが、そんな余裕は無い。再びポロシャツとハーフパンツをまとうと、攻は司のノートパソコンを開き、やりかけの仕事に手をつけた。
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