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俺は、女に興味がない。 ついでに言うと、馴れ馴れしく群れるのも騒がしいのも苦手だ。 だからこんな状況、普段なら絶対に断っているのだが、しつこく誘われて渋々ながら参加していた。 「ハァ……、帰りてえ……」 溜め息混じりに辺りを見回し、隣り合う者と適当に話を合わせ、拷問のような一時が過ぎるのをじっと待つ。 艶やかな夜桜の下、美しい景色そっちのけであちらこちらから賑やかな声が響いており、此処も例外ではない。 「柏木 久弥(ひさや)! いっきま~す!!」 陽気な声に視線が集中すると、缶飲料を片手に勢い良く立ち上がり、彼は一気に酒を煽る。 総勢10数名の男女から拍手喝采を浴び、殆どの者がすでに酔っ払い、飲めや歌えやで収拾がつかなくなっている。 「トリ~! 手ェ止まってっぞ~!」 酒を飲み干して満足したかと思えば、ふらふらと覚束ない足取りで移動し、冷えた缶ビールを眼前に突き出してくる。 トリっていうのは、俺のこと。コイツが勝手に呼び始めた。 久弥の頬は赤く、だいぶ上機嫌に酔っているようであり、今にも寝てしまいそうなくらいに蕩けた表情をしている。 「お前、飲み過ぎ。酒弱いくせに」 呆れたように言い返すも、差し出された缶飲料を素直に受け取ると、久弥はにんまりと満足そうに微笑む。 「は~い! これから烏丸(からすま) (れい)君が一気飲みしま~す!」 「うざ、無理だって。酔っ払いはあっち行ってろ。あと、お前はもう飲むな」 「え~、なんでだよ~。つめた~い。いつもはもっと俺に優しいのに~」 「ああもう、引っ付くな。暑苦しい」 暢気に笑いながら酒を進めてくるが、端からこんなところで酔い潰れるつもりはない。 そろそろこのような場所から抜け出して、一人で落ち着いて飲み直そうと思っているくらいなのだ。 前述した通り、女には興味がないので、話し掛けられたところで必要以上に仲を深めようとは思わない。 まあな、可愛いなくらいの感情は俺にだってあるけど。 缶飲料を口に付け、面々を一人ずつ見つめながら、とりわけ目立つ青年が目に留まる。 久弥は顔は良いけど、無類の女好きだからな。 そもそもココにいる男連中を狙おうなんて思ってもいないし、どうだっていい事だ。 「ちょっとトイレ行ってくる」 缶を置き、殆ど周りに聞こえていないであろう事を承知で、さっさと立ち上がろうとする。 「あ~、やば。なんかぐるぐるしてきた~」 上手く抜け出せると思いきや、傍らで飽きもせずに飲んだくれていた久弥が、情けない声を響かせながら突如として自分の方へと倒れ込んでくる。 「おい、久弥。何やってんだ」 「ん~、コレなに? 枕? あ~、俺。家に帰ってたんだあ。おやすみ」 「おいバカ、寝るな。起きろ」 勘弁してくれよ……、やっと逃げられると思ったのに。 膝の上に倒れ込んだ久弥が、むにゃむにゃと気持ち良さそうに寝息を立て始めている。 「久弥~……」 耳朶を引っ張ったり、頬をつねってみたりするも、依然として安らいだ様子で横たわっている。 無理矢理に膝から突き落とす事も考えたが、幸せそうな久弥の寝顔に気を削がれ、肩を揺すって名前を呼ぶくらいしか手立てがない。 「ハァ、仕方ねえな……。何でこんな事になったんだ」 膝枕とか恥ずかし過ぎるだろと思いつつ、眠る久弥を無下にする事も出来ず、彼が目覚めるのを待っているしかないらしい。 つい先程まで騒がしくしていたかと思えば、今や人様の膝を占領し、心地良さそうに寝息を立てて眠っている。 何となく腕を伸ばし、さらりとした髪に指先が触れると、くすぐったそうに僅かに身動ぐ。 そんな目で見てないとは言いつつも、久弥の甘やかな顔立ちや人懐こい性格は親しみやすく、心を開ける数少ない一人であった。 正直に言えば好みだけど、だからといって久弥とどうこうなりたいとは思っていない。

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