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第14話

「なんで尚が?」 「俺の質問に質問で返すんだ」 前髪をゴムでちょんまげにして、透明チューブに入った氷菓を口に咥えて一口ちゅうっと吸った後、尚は大きな目を瞬いた。 Tシャツと短パンと言うラフな格好と、今が午前12時過ぎと言う深夜と言って良い時間。 こんな深い時間にこんな格好で居るという事はどう考えてもここに住んでるんだよな? どう考えてもこの超高級マンションが尚の家みたいなんだが? それとも――まさかの『お泊り』ってやつですか!? 「尚っ…」 「渚君、財布忘れてるよ」 口を開きかけた所で、尚の後ろから一人の男性が顔を出した。 40代半ば。尚と並んでも、尚が少し上を向く位だから多分身長は凌大と同じくらい。 凌大は185cmだから多分こいつもそれくらい。 「あっ、ホントだ!?」 「まったく、世話が焼けるな」 目尻に皺を寄せて、くしゃっと笑った顔は凄く優しそうだ。 尚の柔かそうな髪を撫でて微笑みかけると、尚も上目遣いで可愛い顔で微笑んだ。 何だ、何なんだ一体。この男との関係は? 微笑み合う二人の顔を見ていると、俺の視線に男が気付いた。 「あ、すみません。いくらですか」 尚の頭から手を放し、男は財布を開いた。 俺にも尚に向けた様な、目尻にくしゃっと皺を寄せた優しい微笑みで。 「6086円です」 慌てて貼り付けた様な笑みを浮かべながら答えた。 「6086円・・・。あ、すみません一万円札しかないんですけど」 「大丈夫です。おつりありますから」 「良かったぁ~、すみませんちゃんと用意してなくて。あ、渚君ピザ受け取って」 「うんっ」 単なるデリバリーの俺にまで気を使えるなんてこの人本当に良い人なんだ。 こんな高級マンションに住めるくらい金持ちでイケメンで、その上性格まで良いなんて、俺なんて絶対に勝ち目ないじゃん。 尚にピザを渡しながら、俺は早くこの場を立ち去りたいと思った。

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