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①出逢い

「あなたはたしか白騎士団の団長の、ルーファス様……ですよね? なんだか具合が悪そうですが、大丈夫ですか?」  地面にうずくまるようにして座り込み、浅く荒い呼吸を繰り返す彼に声をかけた。  すると彼は少し困ったように笑い、震える声で答えた。 「あぁ、ありがとう。すまない、心配をかけてしまって。普段は体調を崩すことなんて、ほぼないんだが。……本当に、不甲斐ないな」 「無理はなさらないでください。……その様子だと、相当お辛いですよね?」  僕の言葉にそうだとも違うとも言わず、彼はただまた微笑んだ。    うっすらと開かれた、形のよい唇。  後ろでひとつに結ばれた、まるで絹糸のようにつややかな黄金色の長い髪。  深海を思わせる、美しい碧色の瞳。  ただでさえ色っぽい彼の顔はいまは熱に浮かされたような状態なため朱をさし、さらに色気を増している。  彼の名は、ルーファス・マクドゥガル。ここアースクレア帝国では知らぬ者がいないほど有名な、白騎士団の若き騎士団長様だ。  ちなみに恒例の花祭りでは投票の結果、三年連続で結婚したい騎士様一位を獲得した美丈夫でもある。    そして、この状況から見る限り。……きっと彼は、何者かの手により媚薬を盛られたのだろう。  さっきオメガの女の子たちがこそこそとそんな話をしていたのをうっかり聞いてしまったから、おそらくほぼ間違いない。    それにしても年に一度の祭りのために警護役として駆り出された騎士団長様に、媚薬を盛るとか。  ……普段は僕らのような身分の低い町人は彼みたいな高貴な人と知り合う機会がないとはいえ、いくらなんでもやりすぎだろう。  運良く見初められたらなどと夢見る乙女にしては、やり口が汚すぎる。  不敬罪で捕まっても、知らないぞ!  ふぅと小さく息を吐き、軽く左右に頭を振る。  まったく。……この町の娘たちも、本当にひどいことをする。  いくらルーファス様が魅力的なアルファだからって、これはさすがにやりすぎだ。 「ルーファス様……。こればっかりは、仕方ありませんよ。おそらくあなたは、媚薬を盛られたんだと思います。なのでもしよかったら、落ち着くまでうちで休んでいってください。すぐそこなんで」  ***  自宅へと案内し、椅子に座らせると、彼はシャツのボタンを2個ほど外してふぅと小さく息を吐き出した。  その表情は同性の僕でもドキッとしてしまうほど色っぽく、艶めかしい。  思わずゴクリと、唾を飲み込む。    だけど何事もなかったような顔をして水差しからコップに水を移し、椅子に座ったままぐったりとした様子の彼に手渡した。  それを少し口に含み、それから彼は頭を抱えた。   「ありがとう。えっと……。君、名前は?」 「ノアです」  いちいち彼に伝える必要はない気もしたが、答えない理由もなかったため素直に答えた。 「ノアか……。いい名だな」  にっこりと微笑んで言われたが、媚薬のせいで瞳を潤ませ、紅潮した顔で名前を呼ばれると、なんだかこちらまでドキドキしてきてしまった。  しかしそこで、はたと気付く。  ……そういえばそろそろ僕は、また発情期を迎える頃かもしれない。 「それにしても、媚薬ごときでこんなふうになってしまうなんて……。薬物への耐性も、訓練でそれなりについているはずなんだが……」  戸惑ったように言われたが、それも仕方のないことだと思う。なのでことの真相を、少し迷いながらも告げた。 「おそらく盛られたのは、一種類だけじゃないんじゃないですかね? ……何人かの女の子が、他にもやった人間がいるとは知らずに各々盛ったんだと思いますよ。だから体内で、それらが混ざってしまったのかと」  ちょっと苦笑してそれだけ告げると、彼は唖然とした様子で瞳を見開いた。  それがおかしくて、ついクスリと笑った。  地べたに座り込み、動けなくなっていた彼の姿を目にしたから心配になり自宅へと招いたものの、同性だからこそよく分かるが、この状況。  ……薬の影響で、たぶん何回か抜かないとどうしようもないのではなかろうか? 「えっと……。では僕は、ちょっと出かけてきます。その間、自由に過ごしてもらって大丈夫ですから」  暗に自分でさっさと処理をして出ていけと伝えたつもりだったのだが、それは残念ながらうまく伝わらなかったようだ。  彼は困惑したように、ただ僕の顔を見上げた。  でもこれ以上ここにいたら、アルファである彼の放つ色香にやられ、僕まで発情してしまいそうだ。  助けるつもりだったのに、オメガの僕がいまは媚薬のせいで抵抗できない彼を襲うことになるとか。  ……そんなの、申し訳なさすぎる。 「……そこで抜いてもらって、大丈夫ですから。僕は終わる頃を見計らって戻るので、済んだらそのまま出ていってもらえたら」  なんで僕が、こんな恥ずかしいことを言わなければならないのだろう? それもこれも、全部彼女たちのせいだ。  あとでしっかりあの子たちの親に伝えて、説教してもらおう!   「いや、それはさすがに申し訳ないから。君の家なんだから、俺が出てい……」  彼が最後まで言い切るより早く、半ばヤケクソで、叫ぶように答えた。 「だから! そんな状態のルーファス様を外に放り出したら、たいへんなことになるって言っているんです! 媚薬を盛った女の子たちが、今も手ぐすねを引いて待っているんです。このまま外に出たら、あなた確実に襲われますよ?」

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