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⑳再び、タヴァサの町へ

 乗り合い馬車に揺られ、向かったタヴァサの町。  あそこを出た時は不安と悲しみに押しつぶされそうだったけれど、今の僕の隣には、何よりも大切なひとり息子のメリルがいる。  ワクワクした表情で、隙あらば幌から顔を出し、馬車の外を覗こうとするメリル。  小さな彼の体が飛び出してしまわないよう、押さえつけるのに僕は必死だ。 「こら、メリル! いい子にしておくって、約束しただろう?」  何度目か分からない、まったく同じやり取り。  思わずそれに、苦笑した。  ちょっと不満そうに、唇をとがらせるメリル。  それがおかしくて、ついプッと吹き出す僕。  子どもというのは、そういうのを絶対に見逃さないものだ。メリルも、しかり。  さっきまでは僕に叱られ、ちょっと拗ねていたくせに、今はもう笑っている。  カバンの中には、およそ1週間分の旅支度。  それといつまでも返せないままでいる、例の手切れ金が入った袋が入れられている。  というのも僕はルーファス様のご結婚の話を聞けば、すぐにこれを送り返すつもりでいたのだ。  なのに待てど暮らせど、そんな噂は流れてこない。  それを不思議に思いながらも、いつまでもこうして僕が持ったままにしておくというのも……。  どうしたものかと考えていた矢先に届いた、クリスからの結婚式の招待状。  だからこの機会にマクドゥガル公爵家をこっそり訪れて、門番にでも渡して返してしまおう。  正直かなり気が重かったけれど、このまま持ったままにしておくよりはよほどいい。  ふぅと小さく、ため息を吐き出す。  するとメリルは、ちょっと心配そうに僕の顔を見つめた。 「お母さん……?」  メリルにしてみたら、はじめて訪れる土地なのだ。  不安にさせるわけには、いかない。  そう思ったからあわてて笑みを浮かべ、彼に聞いた。 「メリル! もうすぐ着くよ。せっかくだし、屋台でなにか食べて行こう。メリルは、なにが食べたい?」  僕の質問に、キラキラと瞳を輝かせるメリル。 「ほんと!? えっと……。なにがいいかな? 飴細工のお菓子とか、肉の串焼きなんかもおいしいよってお隣のロドニーじいさんが言ってた! どっちがいいかな……」  真剣な顔のまま、迷うメリル。  田舎ではそんなのを口にする機会がないものだから、心から楽しみにしているのだということがその声と表情からも伝わってくる。  普段は節制をしているが、こういう時くらい気前よく、この子の食べたいものを食べさせてやりたい。 「仕方ないなぁ。今日は特別に、両方買おうか? その代わり結婚式の間は、おりこうにしておくんだよ?」  僕の言葉に、メリルがはーいと元気よく嬉しそうに答えた。 *** 「久しぶりだね、クリス。結婚、おめでとう!」 「久しぶり、ノア! 今日は俺のために戻って来てくれて、ありがとう」  およそ、5年ぶりの再会。  少し大人びた雰囲気になったクリスの姿を目にして、なんとなく不思議な気持ちになった。  だけどそれに関しては、クリスも同じだったらしい。 「それにしてもあの泣き虫だったノアが、今では母親とはな……」  メリルの小さな体を、ひょいと抱き上げて肩車をしてやるクリス。  いつもよりも高くなった視界に、メリルは大興奮だ。 「わぁ……、すごい! お母さんに抱っこしてもらうより、すっごく高いよ!」 「悪かったな、小さくて。ってこら、メリル! クリスの肩の上で、暴れるんじゃない!」  あわてて支えようとしたら、クリスはククッとおかしそうに笑った。 「本当にお前、母親になったんだな。……でもそのことを、あの人は知らないんだよな?」  彼の問いに、静かにうなずいた。  ふぅと小さく、ため息を吐くクリス。  彼はまだなにか言いたそうにしていたけれど、それには気付かないふりをしてクリスと夫夫になるユリウスに声をかけた。 「おめでとう、ユリウス。しかし君とクリスが、結婚とはね。末永く幸せに!」 「ありがとう、ノア。クリスの親友の君がお祝いに駆けつけてくれて、僕も本当にうれしいよ! メリル君とふたりで、楽しんでいってね」 ***  結婚式は、和やかな雰囲気の中執り行われた。  慣れない正装姿と緊張のせいでぎこちない動きのクリスとユリウスの仲睦まじい様子に、自然と皆の笑みが溢れる素晴らしい式となった。    大丈夫だろうかと少し心配していたのだが、メリルもちゃんとおりこうに、席に座っていてくれた。  だからあとで、たっぷり褒めてやった。  式の翌日はちょうど花祭りだったから、クリスとユリウス、そしてメリルとともに広場を訪れることに。  到着した日以上の人出に、目を丸くするメリル。    たくさんのご馳走を前に興奮するその様子は、親バカかもしれないがとても愛らしい。  出費は痛いがなかなかない機会なので、この子にもぜひ楽しんでもらいたい。  だけどちょうどユリウスが仲の良い友人を見つけ、僕らのそばを離れたそのタイミングで。……僕は再会したあの日と同じように白騎士団の制服に身を包み、祭りの警護にあたるルーファス様の姿を見つけてしまった。

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