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第1話
カーテンの隙間から差し込んだ朝の光で強制的に目が覚める。
光を遮るよう掛け布団で顔を覆い、二度寝の態勢に入りかけたところで自分を叱咤し、寝起きで重たい体をゆっくり起こした。
まだ眠い……。
気を抜いたら閉じてしまいそうな目を擦り、ぐっと伸びをしてからベッドを抜け出す。部屋のカーテンと窓を開け放ち、正面の家の屋根から覗く朝日に目を細め、僕は大きな欠伸をした。
「ノア、おはよう! おっきい欠伸ねぇ」
下の方から自分の名前を呼ばれたので見下ろせば、お隣、八百屋のおばさんがこちらに手を振っていた。家の裏の井戸で水を汲んでいるところだったらしい。
僕の寝室は二階にあって見えにくいし、朝も早いから誰もいないだろうと思っていたのに……油断した。恥ずかしいところ見られちゃったな。
「おばさん、おはよう。昨日うっかり寝るのが遅くなっちゃって、まだ眠たいんだ」
「どうせまた薬の調合に夢中になってたんだろう」
図星をつかれ誤魔化すようにえへへと笑えば、おばさんは呆れたようにため息をつき「無理できるのは若いうちだけだからね」と言って表へ戻っていった。
昔から夢中になったら時間も忘れて没頭してしまうタイプで、自制しなきゃとわかってはいるんだけど、自分の質というのはそう簡単には変えられない。そんな僕を止める人も今は傍にいないから、ついついやりすぎてしまうのだ。
寝室の窓を閉め階段を降り、身支度を整えて外に出る。
外は既に各々の店の開店の準備を進める街人たちで賑わっていて、挨拶を交わしながら僕も自身の店前に看板を立てかけた。
ここはとある大国の、国境からほど近い位置にある小さな街だ。自然が豊かで景観もよく、ゆっくり過ごしたい観光客などが度々訪れるちょっとした観光地にもなっており、小さい街ながらもそこそこの賑わいを見せている。
そして僕は、この街で唯一の薬屋を営んでいる薬師だ。
毎日何かしらの薬を求め人が来たり他の街に薬を卸したり、薬が枯渇しないよう薬の調合をしたりと、朝から晩までそれなりに忙しい日々を過ごしている。
今日も仕事は山積みなため店の前の掃除をさくっと終わらせ、その後自身の居住スペースでコーヒーとパンを軽く腹に入れる。僕の食事はだいたいいつもこんなもんだ。僕を気にかけてくれている街唯一の病院の医者にももっと食えと注意されているが、夜ご飯を食べるのもしょっちゅう忘れてしまう。そのため定期検診のときの医者の説教は永遠に終わらない。
僕自身も改善しなければと思ってはいるものの、今日も今日とて薬の受け渡し予約が何件か入っており、行商人も僕の薬を買い求めに来る予定だから休む暇もあまりないだろう。食事を忘れる未来が難なく想像できる。加えて寝不足もあるので、眠気に負けそうになったら目覚め薬を飲むしかなくなるかもしれない。自分で調合しておいてなんだけど、目覚め薬は美味しくないからできれば飲みたくない。
なんて、今日一日の仕事のことを考えていた時だった。
突然外から、ガシャーン、という何かが落ちる大きな音と共に、隣りの八百屋のおじさんの怒鳴り声が聞こえた。
八百屋のおじさんは陽気で誰にでも優しく気のいい人だ。奥さんであるおばさんとよく似ている。だからおじさんの怒鳴り声なんてものは滅多に聞いたことが無くて、僕はぎょっとして慌てて外に飛び出した。
店が立ち並ぶ通りの地面に、八百屋のおじさんが誰かを組み敷いている。比較的平和なこの街には似つかない光景だ。
「おじさん、どうしたの⁉」
「こいつが店のもんを盗んだんだ! 自警団に突き出してやる!」
慌てて駆け寄り問うと、おじさんは見たことない形相でそう答えた。
確かに、付近の地面には八百屋で売っている野菜と果物が何個か転がっている。盗み出そうとしておじさんに捕まり取り落としたのだろう。
組み敷かれている相手はうつ伏せで倒れており顔は見えないが、体の大きさや抵抗して騒いでいる声からまだ年端も行かぬ子どもだということがわかった。そして、着ている服はボロボロの布切れ一枚。泥などで所々汚れているし、靴も履いていないから足も汚れている。
おそらくこの子は、家も親も持たない浮浪児だ。
この国はかつては争いも無い平和な国だった。
王族は平等を重んじる方々で、貴族や平民みんながなんの違いも苦労もなく暮らせる国にしようと心がけていた。そのおかげで平民からの人気が高く、細かい派閥争いはあったのかもしれないけど、貴族たちの統率もよく取れていた。
でもそれは、先代の国王陛下が崩御されるれる前までの話だ。
現在国を治めているのは先代国王と正妻の息子であるチャールズ陛下。
チャールズ陛下が即位したのは今から二年前。本当は陛下の実兄、第一王子のアルフレッド様が次期国王となる予定だったが、先代国王が隠居するタイミングでアルフレッド様が病気で急逝してしまった。
それからほどなくして先代国王も持病が悪化。あれよあれよという間に崩御され、第二王子であったチャールズ様が即位したのである。
そこから、陛下の独裁的な政権が始まった。
明らかに貴族優遇、平民が冷遇される法を発足。貧富の差が顕著となり、平民はある程度自給自足できているものの、少しずつ生活は苦しくなっていき金もなくろくに食べられない人も出てきた。
そのせいで捨てられる子どもも増え、子どもを受け入れる施設もパンクしたり経営が厳しくなり潰れたりと、自動的に孤児や浮浪児が増えていった。
国王は平民からバッシングをくらったがどこ吹く風。先代までの国王を支持していた貴族たちは力を失い、逆に現国王を支持する貴族が力を得てしまったことで先代支持の貴族も平民に手を差し伸べることができなくなった。
ここ数年で、国の治安は明らかに悪くなっている。そしてそこかしこで国王軍と数年前に現れた反乱軍のいざこざが増えてきて、そのせいで家が無くなってしまう人も少なくない。僕が暮らしているこの街にはまだ被害は及んでいないが、一歩出ればこの子みたいな子どもはたくさんいるんだ。
「…………」
僕は落ちていた野菜と果物を拾い、おばさんに袋を持ってきてくれるよう頼んだ。おばさんは一瞬目を丸くしたけど少し呆れたように息を吐いてから袋を持ってきてくれた。
「おじさん、僕がお金を払うよ」
「はぁ⁉」
ポケットから財布を取り出し、おばさんにいくらか聞いて丁度の金額を支払う。お金を払ってしまえば、この商品は僕のものだ。
「ノア、お前な、こんなことしたら味占めてこいつらつけ上がっちまうよ」
「もうこれっきりしないよ。次はちゃんと、自警団に突き出すから」
おじさんに解放してあげるよう頼むと、渋々といった感じで子どもの上から退いてくれた。
僕は蹲っている子どもに近付き、傍に膝をつく。
「大丈夫? 立てる?」
そう声をかけると、子どもはゆっくりと体を起こし顔を上げた。
目が合った子どもを見て、僕は息をのんだ。
その子の顔が、見たこともないくらい大変整っていたのだ。
ぱっちり二重の大きな目と、すっと通った鼻筋。各パーツの配置も完璧で、子どもだとは思えないほど完成されている。
そして先ほどは衝撃的な光景に気をとられて気に留めなかったけど、その子の伸ばしっぱなしの髪はこの国では珍しい白髪であった。肌も、今は不健康な生活をおくっているからくすんでいるけど色白で、大きな瞳は宝石のようにきれいな赤を携えている。
中性的だけど、たぶん男の子……だよね?
薄汚れた今の状態でこのレベルなら、いろいろ整えたらもっとすごいことになるんじゃ……?
そこまで考えたところで、僕ははっと我に返った。子ども相手に何を考えてるんだか。
見とれてしまっていたことを誤魔化すよう、袋に入った野菜と果物を子どもに差し出す。
「はい、これ。もう盗みなんかしちゃだめだよ」
「……ッ」
「あっ」
子どもは気まずそうに視線を逸らした後、僕の手から袋をひったくり走り去ってしまった。
おじさんは走っていく子どもの背中に「礼くらい言って行きやがれ!」と叫んでいる。それをいいからいいからとなだめると、「お前はお人好しすぎるんだよ!」と少し怒られてしまった。
まぁ、おじさんとしては気に食わないよね……。後で八百屋でたくさん買い物しよう。
「アルフレッド様が生きていたら、ああいう子も少しは救われていたんだろうねぇ」
八百屋のおばさんがため息交じりにそう言った。
アルフレッド様は先代国王と同じで、国民のことを第一に考え、他国との外交も上手くやる大変優秀で心優しい方であったと聞く。逆に現国王は奔放で、人の上に立つ器ではないとほうぼうで囁かれていた。即位してからは案の定の評価である。
たぶん、八百屋のおばさんのように思っている国民は少なくないだろう。
少年が去っていった方向を眺めながら、あの子もいつかは救われてほしいと、心の底から思った。
***
そんな騒動から数日がたった。
いつもと変わらぬ日々を過ごし、今日も今日とて店の開店の準備を進める。
そういえば、いくつかの薬草の在庫がそろそろなくなりそうだったな。
家の裏で薬草を育ててはいるが、やはり環境的に育てられない種類もある。それらはもっぱら森に生い茂っているから定期的に森に入って薬草を採取しなければならないのだが、これが結構大変なのだ。
森が街からだとちょっと遠く、薬草ごとに採取ポイントも異なるから結構歩く。そして獣も出るからそれなりに準備と警戒をして行かなければならないので、行って帰ってきた頃には日も落ちてくたくたになってしまっているのだ。なので、森へ入る日は一日店を閉めることになる。
近くにある病院に卸している薬もあるが、やはりちょっと特殊なものは店でしか扱っていないから、店を閉めることによってそれを求めている人にすぐ売ることができないのは申し訳ないと思ってしまう部分がある。せめて店番だけでもしてくれる人がいたらいいんだけど……みんなそれぞれ忙しいし仕事もあるから頼むことも難しい。
仕方ない、休業日を決めてその日は森へ出かけよう。
だいたい七日後くらいかなぁ、なんて頭の中でスケジュールを考えながら収穫できた薬草を干し、ご近所さんと挨拶を交わして表の掃除をしている時だった。
「ノア、おはよう」
そう声をかけてきたのは、ラフな格好の上に白衣を羽織った青年だった。
「レイさん。おはようございます」
彼の名前はレイ。この街で唯一の病院のお医者さんだ。そして僕のことを気にかけ、健康状態とかも診てくれている人でもある。
最近、前院長である彼の祖父の跡を継いでレイさんが病院の院長となった。
医者になるために勉強する学校を卒業してからずっとお祖父様のもとで修業をしており、お祖父様譲りの大変優秀な医者へと成長した。街の人もレイさんの腕を信頼していたから代替わりすることに特に反感もなく、以前と変わらず忙しくしているようだ。むしろ、以前より街の若い女の子やおばさんたちが来るようになってちょっと大変になってると、この前薬を卸しに行ったときに嘆いていた。
たぶん、レイさんが若くて見た目もかっこいいからだろうな。
そんな忙しい身であるレイさんが僕のもとに直々にやってきた、ということは、なにか問題が起こったのだろう。
もしかして、僕が卸した薬がよくなかったとか……?
なんて不安に思っていたら、それを察したレイさんは「あー、薬はなんの問題もないんだ」とフォローしてくれたあと、申し訳なさげに一枚の紙を差し出してきた。
「明日から二日間くらい、俺は病院を空けることになるって話をこの前しただろ?」
「あぁ、はい。隣街の病院へ手伝いに行くって言ってたやつですよね」
隣街は医者が一人しかおらず、レイさんや他の医者が時々手伝いに行っている。ついでに僕が調合した薬も卸したりしているのでそこそこ交流もある。
今回もレイさんが院長になったことの報告がてら行く予定だったらしいのだが……なにかあったのだろうか。
「実は城下町に出かけた隣街の人たちが、帰り道で賊に襲われてしまったみたいでな。けが人も多数出ててんやわんやらしい」
「そうなんですね……」
賊の被害も、ここ数年で増えてきている。身近ではいないが、亡くなってしまった人や行方不明になった人もいると聞いた。なんとも痛ましい話だ。
「どうやら薬師も賊の被害にあって、現状薬を調合できる人間がおらず薬も枯渇しかけているらしい。それで申し訳ないんだが……このリストにある薬を、至急用意できないだろうか」
差し出された紙を受け取り内容に目を通す。種類も量も結構あり、いくつかは今ある在庫で賄えそうだがもう何個かは調合しなければいけなさそうだ。しかも、森に取りに行かなければならない薬草もある。
ぎりぎり、ではある。だけど……。
「……出発はいつですか?」
「明日の早朝には」
「わかりました。今渡せるものは渡しますが、薬草採取と調合しなければならないものもあるのでちょっと時間をください。出発までには届けます」
レイさんを店内に招き、箱にぽいぽいと薬を入れていきとりあえず渡す。
「すまない。面倒をかける」
「いえ。こういう時こそ助け合いですよ」
お礼を言って出て行ったレイさんを見送り、僕はよし、と気合を入れて急いで森へ出かける準備をした。
店の表に臨時休業の札をかけ、八百屋のおじさんに念の為事情を話し早足に森へ向かう。
森に着いたのは昼時を少し過ぎたころ。さくっと採取してさくっと帰らなければ調合する時間がなくなってしまう。
いつもより駆け足で森を回り、最後のポイントへ辿り着いた。
ここは他の場所より陽が差し込みやすく、ひやっとしている森の中にしては少しあたたかい。だからか周辺に花も咲いているのだが、その花が結構綺麗だったりする。有毒のものもあるから薬には使えないんだけどね。
目的の薬草をせっせと摘みながら、近くに咲いていた白い花を見てふと、数日前に出会ったあの少年のことを思い出した。
あの子の髪の毛も、この花のように白くてきれいだった。顔も整っていて、他人の美醜にあまり興味はない僕でも美しいな、なんてみとれてしまったほどに。平々凡々な顔で真っ黒な髪の僕とは正反対である。
あの子は、今はどこにいるんだろう。持って行った野菜と果物は数日分はあったから飢えて死んでいる、なんてことはないだろうけど……。
いや、考えても仕方ない。今はとりあえず早く帰って薬の調合をしなければ。
一通り目当ての薬草の採取もできたので量的にも問題ないことを確認し、じゃあ急いで帰ろうと立ち上がったときだった。
少し先にある白い花に、真っ赤な液体が滴っているのに気が付いた。
「これって……血?」
僕が来た方向は反対側からだったから気付かなかったが、よく見てみればその血は奥に向かって続いている。
「動物のもの? いや、これは……」
点々と続く血の傍には、花を踏みしめたであろう小さな足跡があった。間違いなく人間の、しかも子どものものだ。おそらく二人分ある。
「…………」
今から森を出たら街に着くのはおそらく日が落ちるころ。レイさんが出発するのは明日の早朝で、調合しなければならない薬の量もそこそこある。リミットまで時間はあまりない。
でも……人間の、しかも子どもと気付いてしまったら、放っておけるわけないじゃないか。
僕は、続く血と足跡を見失わぬよう獣道を辿った。
血は新しいものだったし、子どもで十中八九けがをしているのでそう遠くへは行っていないはず。どうか無事でいてほしい。
「!」
そう願いながら数分歩いたところで、僅かだけれどでも……確かに聞こえた。
子どもの泣き声だ。
僕は泣き声のした方へ駆け出す。
聞こえるそれはひとつだけなのが気になるが確実に近づいてる。
泣き声が間近へと迫ったとき、僕がたてたがさっという音に反応するよう、泣き声もぴたっと止んでしまった。たぶん獣だと思って咄嗟に声を殺したのだろう。
「大丈夫、僕は人間だよ。どこにいるか教えてくれないか?」
呼びかけるが声はしない。人間だとしても襲われないとは限らないから警戒しているようだ。
「包帯と薬を持ってる。けがしてるよね、治療させてほしい」
返事はない。
「……お願い、このままだと手遅れになっちゃう!」
出血量はそこそこあった。これ以上何もせず放っておいたら確実に子どもの体じゃ耐えられない。死にそうな人がいるのに何もできず見殺しにするのだけは、絶対に嫌だ。
その思いを込めてもう一度、「お願い」と呼びかけた。
「――ここ」
「!」
「ここ、ここ! たすけて!」
すると幼い必死な声が響いた。僕は急いでその方向に向かい木の影を覗き込む。
「っ!」
そこには、地面に座り込んで目に涙をいっぱいにためこちらを見上げる小さな女の子と、傍らに服を赤く染めた白髪の、あの時の少年が倒れていた。
「おにいちゃんおきないの、たすけて!」
倒れている少年に駆け寄り、とりあえずまだ息があることを確認し服を捲る。
腕や胴体に引っ掻かれたような傷がいくつかありそこから出血しているようだった。動物に襲われたのだろう。一緒に居たはずの女の子に傷一つないのを見るに、守りながら抵抗し追い払ったんだ。
鞄から、いつも森に入るときに持ってきている医療用の道具を取り出し、傷口にガーゼを押し当て止血する。
意識はないが少年の息は荒く表情も苦痛に歪んでいて相当辛そうだ。この子の妹であろう女の子は懸命におにいちゃんと呼びかけ手を握っている。素早く手当てをしながら、僕も心の中でがんばれと呼びかけた。
ある程度止血を終え包帯を巻き、鞄から薬を取り出し意識のない少年に飲ませる。自分の兄が得体の知れないものを飲まされているからか、女の子が不安げにこちらを見上げていた。
「大丈夫、血と痛みを止めるお薬だよ」
と言ってもまだわからないかもな、なんて思っていたが、女の子はほっとしたように息を吐いて少年に視線を戻した。
この子くらいの年齢の孤児は生まれた時からそうであるとは思うんだけど……。いや、今はそんなことを気にしている場合ではない。
薬は飲ませたもののただ応急処置をしただけだ、医者に診せなければ悪化してしまう。
「少し遠いけど、僕の住んでる街に医者がいるからそこでお兄さんを治してもらった方がいい。不安だろうけど……一緒に来てくれるかな」
優しい声色でそう言えば、女の子は大きな瞳で僕の顔をじーっと見つめたのち、うん、と頷いてくれた。
「ありがとう」
女の子の頭をひと撫でし、僕は少年をおんぶする。身長のわりに体重は軽く、孤児である彼らの境遇に心が痛んだけど、長い距離を移動する今ならばありがたいと思おう。
「速めに歩くけど、離れないように僕の服か鞄を掴んでて。疲れたら少しだけだけど抱っこもできるから言ってね」
「うんっ」
女の子は、僕の服の裾をぎゅっと掴んだ。
「よし、行こう」
そうして僕たちは歩き出した。
おぶった少年は、先ほどより呼吸は落ち着いているものの時折苦しそうに小さく呻き声をもらしている。
この子のこと、死なせたくない。
どうか……手遅れになりませんように。
―――
「……私のせいで、貴方には辛い思いばかりさせてしまっていますね」
椅子に座り編み物をしていた美しい白髪の女性が悲し気な声色でそう言った。
髪の毛と同じく色素の薄い睫毛の影が、目が伏せられたことにより日に焼けていない透き通るような白い頬に落ちる。
「いいえ。俺はお母様と一緒に居られるだけで幸せです」
隣りで同じく編み物をしていた俺がすぐにそう返すと、女性は目を丸くし、そして柔らかな笑みを浮かべた。
彼女のしなやかな手が、俺の頭を優しく撫でる。
「エディ――私の愛しい子。貴方は……貴方だけは、ずっと幸せに生きていて」
心優しい彼女はこうやって、いつも俺の幸せを願ってくれていた。
でも俺は、その願いを聞くたびに悲しい気持ちになった。
だって彼女の願う俺の幸せの中に、彼女自身の姿はないから。
俺は、貴女にも幸せになってほしかった。
今まで辛い思いをしたぶん、俺がたくさん笑わせてあげたかった。
お母様、ごめんなさい。俺に力がなかったばっかりに、貴女を守りきることができなかった。外に出ることを諦めていた貴女を、連れ出してあげることができなかった……。
お母様……ごめんなさい。こんな弱い息子で、ごめんなさい……。
***
額を柔らかい布で拭われる感覚に、じょじょに意識が浮上する。
冷たくて、気持ちいい。
重たい瞼をゆっくり上げ何度か瞬きをして焦点があったとき、こちらを覗き込むように見ていた黒髪の青年と目が合った。
……誰だ、この人?
「よかった……今医者を呼んでくるから、待っててね」
ほっとした表情を見せた青年は早口にそう言って、どこかへ行ってしまった。
首や体を動かそうとしたが、痛みでなかなか動かせない。
ここは、どこだろう。俺は何故こんなところに?
目覚めたばかりで朦朧としていた意識がだんだんはっきりしてきて、状況を冷静に考えられるようになってきた。
確か俺は食料を調達するべく妹と――ニーナと森に入った。そうしたら大きな動物が襲い掛かってきたから、ニーナを庇いながら抵抗して、ひっかかれたりしたけど漸く追い払えて……。
それ以降が、思い出せない。けがをして、意識を失ってしまったのだろうか。
そうだニーナ……ニーナはどこだ。もしかしてまだ森に?
痛む体に鞭打ってやっとのことで起き上がる。
ようやく見渡せた自分のいた場所はどこかの室内のベッドの上で、やはりここに見覚えはなかった。
だが今は室内の様子などまじまじ観察している場合ではない。ニーナがまだ森の中にいるかもしれないのだ。
ベッドを降りて、思ったより力が入らない脚に驚きつつも、壁を伝いながら部屋のドアまで辿り着いた。そしてドアノブに手をかけひねったとき。
「わ! び、びっくした……!」
開いたドアの向こうには先ほど俺の顔を覗き見ていた青年がいて、後ろにはこれまた見知らぬ青髪の男が目を丸くして立っていた。
「おにいちゃん!」
俺も驚いてその場で固まってしまっていたが、聞き覚えのある幼い女の子の声にはっとして視線を落とすと、そこには妹のニーナがいた。
「ニー――ぃ⁉ ……っぐ、うぅッ」
妹に駆け寄ろうと体に力を入れたことによって体に激痛が走り、俺はその場にへなへなと蹲る。逆にニーナがこちらに駆け寄ってきて「だいじょうぶ?」と声をかけてくれているが、今までに経験したことのない痛みに耐えるのに必死で答えられない。
「あーもう、無理するからだ。ノア、運ぶから手伝ってくれ。痛いかもしれないが我慢しろよ」
そうしてあれよあれよという間に抱えられ、先ほどまで俺が寝転がっていたベッドに再び寝かせられる。
青髪の男が俺の体に少し触って、次に聴診器を胸に押し当てた。
俺は今、診察をされている、のだろうか。ということはこの人は医者?
ちらりと視線を移した先には、心配げに俺を見ているニーナと、ニーナに服をぎゅっと掴まれている黒髪の青年が立っている。
ニーナが自分から近付いていく人間は少ない。今となっては俺だけだろう。だからあの青年にニーナが自ら近付いて縋るよう服を掴んでいる姿に、正直驚いていた。
たぶん、あの黒髪の青年と医者らしき男は、何かしらの偶然で俺たちを助けてくれた。そのれもあり、ニーナは青年に心を許しているのだろう。しかし……本当にあの人、この医者を含めて、信頼してもいい人たちなのだろうか。幼いニーナを騙して、何か悪いことを企んでいるんじゃ……。
落ち着かせるようニーナの背を撫でている青年を見ていたら、視線に気付いたのかこちらを振り向いた。見ていたのがばれてしまい少し狼狽えていたら、彼の金色の瞳が優し気に細められた。
――あれ、あの人のあの瞳……どこかで見たことある気が……。
「熱は少しあるが他は大丈夫そうだな。もう無理して動くんじゃないぞ」
青髪の男がそう言って立ち上がったので、俺ははっとして慌てて青年から目線を逸らす。青髪の男はベッドから離れ、入れ替わるようにニーナがこちらに駆け寄ってきた。
「おにいちゃん、だいじょうぶ? まだいたい?」
「ううん……今は、大丈夫」
ほっと息を吐いたものの、まだ不安そうに眉を下げるニーナの頭を撫でてやる。随分と心配をかけてしまったようだ。
「お前の薬のおかげで傷は順調に治ってきてる。引き続き、包帯の交換とかはしてやってくれ。痛みがひどいようだったら鎮痛薬も飲ませてやるといい」
「わかりました。ありがとうございます、レイさん」
「また何かあれば呼んでくれ」
ニーナの後ろで何やら会話し、青髪の男の方が黒髪の青年の頭をひと撫でして部屋を出て行った。
ぼーっとその光景を眺めていると、青年がこちらに視線を戻しまた目が合う。するとふわりと穏やかに微笑まれ、俺の心臓が少しドキッと高鳴った。
「おにいちゃん、ノアがね、わたしたちをたすけてくれたの!」
俺が青年を見ているのに気付いたニーナが、彼の手を引きベッドの横まで連れてくる。
ノア。それが、彼の名前なのだろう。
あぁそうだ、思い出した。
数日前、俺は街で食べ物を盗もうとしたが店主にばれてしまい捕まってしまった。当たり前だが大人の力には勝てず、自警団に突き出されるのを覚悟したとき、彼が俺を助けてくれた。
「あ、その、俺は……」
起き上がろうとしたのだが、それを察した青年、ノアに肩を押され止められる。
「大丈夫、そのままでいいよ」
低くはないけど落ち着いた声音に、不思議と安堵して緊張が解けていく。
「無事に目が覚めてよかった。きみの妹のニーナが、頑張って僕に助けを求めてくれたんだ」
褒めるように頭を撫でたノアを見上げたニーナは、えへへと頬を少し赤に染めて笑った。
こんなに安心しきった笑顔を浮かべるこの子を見たのは、久しぶりな気がする。ノアには本当に心を許しているんだな。たしかにノアからは悪い心を感じない。なんとなく雰囲気が、ひだまりのようなあの人に似ているからだろうか。
そこまで考えてからはっとして、俺は心の中で首を振る。
いや、しっかりするんだ、俺。こうやって優しい顔して近付いてくる悪い人間はたくさんいる。簡単に信じてはいけない。ニーナを守れるのは俺だけだから、俺がちゃんと見極めなくちゃいけないんだ。
「傷が治るまではここにいるといいよ。僕はこう見えて薬屋だから、治療も――」
「なんで俺たちにここまでしてくれるんですか?」
ノアの言葉を遮って言い放った俺の問いに、彼は目を丸くした。
止められるのも無視してゆっくり体を起こし、ノアを真っ直ぐに見やる。
「なにか、目的があるんですか」
人間は損得勘定無しに誰かを助けるなんてことは滅多にない。しかも俺たちは彼にとって見知らぬ浮浪児だ。助けたりなんかしたら厄介ごとに巻き込まれる可能性だってある。そんなリスクを背負ってまで俺たちを助けるのは、何か企んでいるからとしか思えない。
疑心ゆえの強い語気に面食らっていたノアだったが、焦った様子もなく、なにかを思い返すように目を伏せた。
「数年前まで僕も、そうだったんだ」
「え?」
「僕もきみたちと同じ親のいない孤児だった。だからきみの、自分以外の人を信じられない気持ち、わかるよ」
「!」
そんな、まさか……。
家もきれいな服も持っていて、他人に物を買い与えられるお金もある、この人が?
「今僕が暮らしているこの家は、数年前行き倒れていた僕を拾ってくれた人の家なんだ」
ノアは近くにあった椅子二脚を引き寄せ、ニーナを座らせたあと自分も腰かける。そしてサイドテーブルに置いてあった透明な水差しからグラスに水を注ぎ俺に手渡した。
「その人――おじいちゃんは、この街唯一の薬師で、街の人みんなから慕われてた。でもすごくお人好しでね、いっつも厄介ごとに首突っ込んで、自分が損する結果になってもこんなこともあるって笑い飛ばすような、大らかで優しい人だったんだ。……だから、死にかけていた僕のことも放っておけなくて、拾ってきちゃったんだって」
変な人だよねと、そのおじいさんのことを思い出しているのか穏やかに笑うノア。彼の様子を見るに、同情を誘うため嘘を言っているようには感じない。
「あの頃僕は人を信じていなくて、命を救ってくれたおじいちゃんにも結構きつく当たってたんだけど、おじいちゃんは気にする素振りも見せず一生懸命看病してくれた。そして次第に僕もおじいちゃんになついて、丁度自分の跡を継ぐ薬師がほしかったらしくここに残ることを提案されて、僕は薬師の勉強をしながら一緒に暮らすことになったんだ」
ノアは話しながらニーナに自分もとねだられたためもうひとつのグラスに水を注ぎ手渡した。
昔から、俺は人からもらう食べ物に関しては慎重だった。自分たちの手元にある物が絶対に安全であると言い切れないような環境に身を置いていたことがあるからだ。
そんなことがあってから俺は自分たちの命に関わるものが混入されていないかをしっかりと調べ、安全が確認できてからニーナに渡し、彼女にも疑ってかかるようにと言い聞かせてきた。だから、ノアから手渡された水をニーナがあっという間に半分ほど飲んでしまうから驚いた。
「ニーナ……!」
無防備な行動に慌てて声を上げる。当の本人は、きょとんと首をかしげていた。
「この水も疲労やけがの回復効果がある薬を混ぜているんだ。ハーブ系の薬草も入ってて味もすっきりしてるから飲みやすいよ。ニーナも気に入ってくれた」
俺が混入物を気にしていることを察したのか、毒味もかねてノアもグラスに水を注ぎ飲み干した。もし何か変なものが入っていたらこんなに躊躇いもなく口に入れることは難しいだろう。ニーナも気に入っているというのも本当のようで、美味しい美味しいとまたこくこく飲んでいた。
そんな妹の姿とノアの行動で害はないとわかり、少し胸を撫でおろす。
「僕の行動も軽率だったね、ごめんね」
「あ、いや……」
眉を下げ申し訳なさそうにしたノアの言葉に、なんだか俺も申し訳なくなって視線を逸らした。
ノアは、本当に全部わかっているんだ。
それは彼もかつては俺たちと同じ境遇にいたからか、単純に察しがよすぎるからかは分からないけど……でも、彼のことは信じていいのかもしれない。
まだ短い時間しか言葉を交わしていないけど、なんとなく直感でそう思った。
俺はグラスを持つ手に少し力を込め、おそるおそる口をつける。
口に入れた瞬間、鼻を通ったしつこくない爽やかな香りと、少し感じるレモンの風味。透明なただの水に見えるそれからは想像がつかなかったすっきりとした味わいに、俺は思わず「おいしい」とこぼした。
「口に合ってよかった」
ほっとしたようにふわりと笑みを浮かべたノアを見て、俺の心臓はまた高鳴る。顔が熱くなっていくのを感じて、誤魔化すようにまた水を飲んだ。
「軽く食べられるものを用意するから、少し待っててね。ニーナ、お兄ちゃんの傍にいてあげてくれる?」
「うん!」
ニーナの元気な返事を聞いて、ノアはよろしくねと部屋を出て行った。
二人きりになったあと、ニーナは「お水おかわりいる?」と聞いてくれて、頷いた俺のグラスにたどたどしい手つきながらも水を注いでくれた。
「……ニーナ、けがはない?」
「わたしはへいき。おにいちゃんが守ってくれたから」
よかった。俺はニーナを守り切ることができたんだ。途中で気を失って、危険に晒してしまったのは申し訳ないけど。
「おにいちゃん、ありがとう。……めがさめて、ほんとうによかった」
じわりと目に涙をためたニーナは袖でそれを拭い笑顔を見せてくれる。
俺が眠っている間は、ひとりで心細かったろうに。幼い彼女に必要以上の我慢を強いてしまっている現状を、俺は歯がゆく思った。
さっきよりも痛みがひいた体を動かしニーナを抱き寄せる。
彼女が傷ついたり辛い思いをしたとき、俺はいつもこうやって抱きしめてあげていた。そうしたら幾分か心も落ち着いていくのだと本人が言っていたので、強請られたり気付いたときに抱きしめるのが常となっていた。
ニーナも、俺の傷を気遣ってかいつものように力一杯抱き返しはせず、そっと背中に手をまわす。するとくすくす笑って「おにいちゃんあったかい」と言った。
熱のせいで体温が上がっているからだと思うが、ニーナが楽しそうに笑ってくれているならそれでいい。
「お待たせ。お粥を用意したんだけど、食べられそうかな?」
ドアがノックされ、手に木製のボウルを持ったノアが戻ってきた。
手渡されたそれにはほかほかと湯気を上げるシンプルな卵入りのお粥が入っており、少量の刻んだねぎがふられていた。
食べ物を前にした途端、腹の虫がぐうと鳴る。先ほどまでは心配や疑念ばかりで意識していなかったが、どうやら俺は空腹状態だったらしい。森に入るまでまともなものを食べてこなかったから当たり前だ。
携えられていたスプーンでお粥をすくいあげ、鼻腔を通った香りに更に腹が鳴る。けがの治療をしてもらって、更に食事の施しまで受けてもよいのだろうかという考えが浮かんだが、美味しそうなあたたかいごはんを前に、俺の心配事など呆気なく霧散していった。
「……っ!」
ひとくち食べた後、少し薄めだが口の中に広がったやさしい味に次々手が進んで、ノアに「ゆっくり食べないと胃がびっくりしちゃうよ」と止められるまで夢中になって食べ続けた。
「おいしい?」
ノアの問いにこくこく頷いて、今度はゆっくり口に運ぶ。
こんなにあったかくておいしいものを食べたのはいつぶりだろう。少なくとも、居場所を追われてから今日までの数年間はまともなものを口にしていない。
そんな誰にも頼ることができない中でも、でき得る限りのことをして懸命に生きてきた。俺には守らなければならない存在がいたから。
自分を犠牲にしてでも、妹だけは地獄から救いたかった。それがお母様の願いだったから。
彼女がこの先に何の不自由もなく幸せに生きていけるならば、自分はどんな目にあっても構わない。そういう覚悟で日々を過ごしてきた。俺たちと同じ家のない大人から騙されたとしても、石を投げられたとしても、一日なにも食べられず寒い中でも外で過ごさなくてはいけなかったとしても、辛いとか苦しいとか、そんなことを思ったことはなかった。
しかしこの、あたたかくて優しい味のするお粥を食べたら、これまでの日々が思い返されて初めて、あぁ自分は「辛かった」のだと気付いた。
辛いとか苦しいとか思ったことがなかったんじゃなくて、自分の心が挫けないように押し殺して生きてきただけだったのだ。
ニーナだけじゃなく自分も助けてもらえて、こんなふうに優しくもしてもらえて、一時だけだったとしても俺は、今までの頑張りが報われたような気持ちになった。
ぽたりと、自分のボウルを持つ左手に水滴が落ちる。
それが自分が零した涙であると気付いたときには、二滴三滴と次々にこぼれて頬を濡らした。
ニーナが心配そうに「だいじょうぶ?」と声をかけてくれている。それになんとか「大丈夫」と伝えて涙を拭ったが止まる気配はない。
涙が出てしまう理由すらわからなくて戸惑いながらごしごし目を擦っていたときだった。頭に少しだけ重みが加わり、髪の流れに沿うように撫でられた。
視線を上げると、ノアが微笑みを浮かべながら俺の方に手を伸ばしていた。
俺の、決して触り心地はよくないであろう髪を撫でる彼の手は、しなやかで優しく、そしてあたたかい。
「ずっとずっと、頑張ってきたんだね」
「ッ!」
その言葉で、涙がまた一層溢れた。
ぼろぼろ大粒の涙をこぼしてみっともなく泣く俺の頭を、ノアはずっと優しく撫でてくれた。
久しぶりに心がふわりと浮くような、満たされた気持ちになった。
しばらくしてやっと涙がおさまり、柔らかい布で目元を軽く拭ってくれているノアに俺は「ありがとうございます」と頭を下げた。
「けがをしてるところを助けてくれたことも、ごはんをくれたことも。それから……数日前に代わりに野菜を買ってくれたことも、全部ありがとうございます」
俺の言葉にノアが目を丸くする。その様子でノアも俺があのとき盗みを働いた子どもであるとわかっていることに気付いた。わかっていながら俺たちのことを助けてくれたなんて、本当に頭が上がらない。
「気付いてたんだ」
「……お礼も何も言わず立ち去ってしまったことを、後悔してたから」
拘束から解放されて、あの時は早く逃げることばかり考えていたから野菜の入った袋をひったくる形で走り去ってしまった。ニーナが待つ場所に戻ってきてからお礼も言わず逃げてきたことを後悔して、いつかお礼が言えるだろうかと思いつつも、もうあの街に足を踏み入れることはできないと諦めていたのだ。
「こんな形ではあるけどお礼が言えてよかったです。本当にありがとうございます」
「……きっと、おなかを空かせたニーナのためだったんでしょ?」
図星をつかれ押し黙ると、ノアはくすっと笑みをこぼした。
「ニーナは大切にしてくれるお兄ちゃんがいて羨ましいな。あ、でももう盗みなんかしちゃだめだからね?」
ノアの言葉に素直に頷けば、彼は満足気に笑ってもう一度俺の頭をいいこいいこと撫でた。子ども扱いされることに慣れていないから、こういうときどうしたらいいのかわからなくて戸惑ってしまう。
少し生まれた羞恥と共にじわりと頬に熱が集まって、でもそれ以上に心地よさを感じて、俺は暫く彼の手に身を委ねた。
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