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6 【2】
気まぐれに歩きながら、横を歩く英一を見上げた。
「さっきの展示に言っていたこと、どういう意味だったんですか?」
作者の気持ちがわかる、という短い独り言。
深く突っ込まれると思っていなかったのか、英一は恥ずかしそうに頬を掻いて「おこがましいんだけど」と。
「アルファ たちは、アルファとして生まれた責任があると教えられて育つんだ。あの人形のアルファたちは──作者も──『そう』だったんだろうなって思ったんだよ」
「アルファの責任……」
オメガである俺にはわからない話だ。
だが、アルファでいるプレッシャーはなんとなく察するものがある。身体が弱かった元夫は、アルファの待遇を受けながら役目を果たせないことをいつも申し訳なさそうにしていた。俺が気にしていないと言っても、そういう問題ではないと最後まで納得していなかった。
「親や教師、世間から求められるまま理想を追う。そしてどこかのタイミングで私たちの到達点は同じなんだと気付く。それがどれだけ退屈かということにもね。……私はだいぶ、気付くのが遅かったわけだけれど」
英一の言う"到達点"が、あのアルファの人形たちの顔なのだろうか。首をすげ替えればどれとでも代われそうな、丁寧で美しいコピーたち。
(この人は……自分を替えの効く部品だと思っているってこと? 唯一無二の長者にまで上り詰めたのに……?)
「自分の人生をネガティブに振り返ってもいいことなんてないのにね。キミでにこんな話をするつもりなかったんだけどな。──そうだ、コーヒー豆が切れてたんだった。買っていこうよ」
少々強引に話題を変えられたが、俺は素直に従う。
彼からにじむ後悔は俺にはどうしようもできないことだ。例えば、もらった時計の秒針を逆に回して過去に戻れるのなら、とっくにそうしてあげている。
今日はしんみりする日ではない。楽しい思い出を作る日だ。
「普段買わない調味料も買ってみたいです」
「いいね。今日はいろいろ冒険してみよう」
コーヒー豆の取り扱いがある店へ向かう途中、雑貨屋の店頭に並ぶ商品が目についた。
「──あ」
冬用のガーデンシューズが展示されている。内側にモコモコがついていて、暖かそうだ。
庭いじりをする英一が同じものを履き古しているのを思い出して、新しく買ってもいい気がした。
「英一さん、庭用のサンダルも買い換えませんか? 俺も欲しいですし」
俺が庭に出ることはほとんどないため、今までは都度玄関から靴を運んでいた。めんどくさいことには違いない。
青色のと、赤色のを手に取った。サイズを確認してから英一に見せる。
「どっちの色がどっちの?」
「赤いのが英一さんです。庭で見失わないで済むので」
「この前買ってくれた赤いニット帽ってもしかしてそういうこと?」
「察しが良いですね」
一応、値札の確認もする。
そうして顔を上げると、英一の姿がない。
店内を見回すと、奥に見覚えのある後頭部が見えた。彼の身長のおかげで、屈んでさえいなければすぐ見つけられるから助かる。
近くまで行くと、英一はモコモコの室内スリッパを二足手に持っていた。
「ついでに室内用スリッパも買おう。キミいつまでも来客用で満足してるでしょう」
「そういえばそうでしたね……」
「はい。僕が赤で照近さんが青ね」
色違いのモコモコスリッパには可愛らしい柄が入っていて、あまり英一らしくない。
「これでいいんですか?」
「キミのあのパジャマと似合うと思ったから」
最近買ったパジャマのことかと思ったが、おそらく昔から持っているパジャマのことを言っているのだろう。
骨ビスケット柄のスリッパに対応するのは、どう考えてもパグ柄のあれだ。滅多に着ていないのに、英一は覚えていたらしい。
おそろいのサンダルやスリッパを買い、店を変えてコーヒー豆や調味料も買った。
二人で店を数軒ハシゴするだけでも大冒険だ。
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