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10 風が吹く【1】

 今朝は英一と庭を散歩した。雪を耐える花たちが鮮やかに咲いている。 「この花はわかりますよ。パンジーですよね。小さいのはビオラ」 「よく知ってるね」 「料理の飾りにもなりますよね?」 「うん。でもそれは食用に育てたものだから、これはお腹壊すかも」 「危ない」 「照近さんは花より団子だね」  ベンチの薄く積もった雪を払い落とし、腰を下ろす。  尻冷えを感じて隣の英一に身を寄せた。肩を抱かれれば温(ぬく)い。 「予報は晴れですけど、気を付けて出かけてくださいね」  今日は英一が友人と遊びに行く日だった。 「ほどほどに付き合いをして帰るよ」  山に軽く登り、温泉に入ってくるのだと言う。登山に興味はないが、ずっと家にいるのも頭が鈍(なま)ると思ってのことらしい。 「キミも来ればいいのに」 「昔なじみに混ざれないですよ。──そうそう、来週の集まり、永遠は仕事の繁忙期だから難しいみたいです」  来週は南雲井家の食事会だ。英一の子供たちとその家族が南雲井邸に集まる。  親戚が集まる正月会食は別であるが、それには芙美也とナツメがめんどくさがって来ないらしい。そのため、柾諒が英一に気を使って小さな集まりを毎年主催しているそうだ。  柾諒は英一と俺を通して永遠にも声をかけてくれたわけだが、都合がつかない返答が昨夜あった。永遠は義兄弟に興味津々らしく、わざわざ電話がかかってきて会えないことを無念がっていた。 「やっぱりきびしかったか。飲食業だと仕方ないね。柾諒に伝えておくよ」    ■  登山──正しくはスノーハイクらしいが、俺には違いがわからない──ウェアに身を包んだ英一を送り出し、俺はサンルームで干していた洗濯物を取り込む。  リビングでテレビを観ながらせっせと畳んだ。 「これは柔軟剤の匂い、これは柔軟剤の匂い、これは柔軟剤の匂い……」  英一の服を選り分けながら自分に言い聞かせるように唱える。  このごろ、洗濯物を触っていると妙にソワつく。洗ったのだから匂いがするはずもないのに、どうして彼の名残を探してしまう。  これがオメガの性(さが)だと言うのか。四十年生きてきたが知らないぞ。 「ダメだ、集中できない」  綺麗に畳んで積み上げた衣類の山へ突っ込んで寝そべる。 「うーっ、こんなの英一さんには見せられないよ」  英一の服を抱きしめて目をつむった。シワになる前に止めればきっと大丈夫。  深呼吸。  柔軟剤のにおいがほとんどだが、気分が落ち着いていくのがわかる。 「はぁ」 (そういえば、英一さんのベッドで寝るとぐっすり眠れるんだよな……)  日々を暮せば暮らすほど、自分がどれだけ彼を好いているのか自覚する。  オメガの性が嘘を許さない。証拠だらけ。  気恥ずかしくて英一の前では取り繕ってはいるが……。  テーブルの上のスマホが鳴った。電話の着信だ。  手に取って画面を見ると、柾諒の男妻(つま)である篠からだった。珍しい。  応答すると、緊張した声で当たり障りのない挨拶があった。あまり良い話題ではなさそうだと察する。 『照近さん、⚫︎⚫︎という週刊誌は知ってますか?』  聞いたことのない名前だった。雑誌なんて、有名どころもそんなに知らない。 「すみません、世間知らずで」 『今週発売された内容が……。あの、知らないより、知ってるほうがいいと思うので、記事の写真を送ります。このことは照近さんにしか話していません。夫やお義父さんは、まだ知らないかと』 「え……」 『僕は、信じてませんから』

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