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10 【3】
起き上がって目をこする。おぼろげな視界で辺りを見ると、やはり英一とナツメが立っていた。
外はまだ明るい。時計を見ると昼過ぎだった。
「どうして二人が? 英一さん、温泉は……って、あ! こ、これは違うんです!」
自分が抱きしめているのが英一の下着だと気付き、慌てて背中に隠す。
英一もナツメも顔を背けて見なかったことにしてくれていた。
「ナツメから連絡をもらって、予定をキャンセルして帰ってきたんだ。私たちが……えっと、なんていうんだっけ?」
ハッとする。記事のことを二人も知ったのかもしれない。
緊張が身体を硬くさせた。
英一が探している言葉は《炎上》だろうか。
ナツメが補足するように言った。
「《バズ》だよ」
「それだ。バズっていると言われて、合流して帰ってきたんだ」
ん?
「バズ? ……バズ??」
なんだそれ。《炎上》の最近の呼び方か?
洗濯物を除け、顔を洗ってから三人分のお茶を用意してテーブルについた。
「電話じゃナツメの言ってることが理解できなくてね。照近さんと一緒に聞くから、もう一度説明してくれるかい?」
英一にうながされ、ナツメは申し訳なさそうな顔でテーブルに自分のスマホを置いた。
俺のほうへ差し出されたその画面には、SNSアプリが表示されている。
「照近さんに謝らないといけないことがあるんだ。まずはこれを見て欲しくて……」
《これ》とはSNSアカウントの投稿のようだった。笑顔の若い男女の写真に添えられた細かい文字を、目を凝らして見る。
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❤︎n◯mu_c◯ff33 ⚫︎60.6万 ♦︎130 ⇆ 3.8万
恩人を結婚式に招待したいです!
レストランの予約をゆずってくれた
ふーふを探しています!!
予定してたレストランにドタキャンされて
バ先のはじめましてのお客さんに愚痴ったら
夜の予約譲ってくれた。
知らない店で、行ってみたらえぐい高級
レストランで、全額払ってあって
店の人からは個人情報教えられないって。
指輪も奮発してたから、彼女からは
銀行強盗したのかと疑われた。
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添付されている写真は三枚あった。
一枚目が若い男女の写真。この男のほうには見覚えがある。
二枚目には握りしめられてくしゃくしゃになったレシートの裏面で、英一の字が走り書きされている。
三枚目は、カフェを出て行く俺と英一の後ろ姿だった。慌てて撮ったようで激しくブレており、しかも遠い。
「これって、あのときの?」
昨年の冬の日の記憶が蘇ってきた。
「クリスマスのとき、行くって言ってた店じゃなくてファミレスから写真送ってきてたよね。やっぱりこれ、二人なんだ」
英一にも画面を見せると、覚えていたようで「ああ」と頷く。
「プロポーズ、成功したんだ。めでたいね」
この投稿は多くのユーザーに広まり、俺たちの正体探しが一大イベントになっている──つまり現在進行形でバズっている、らしい。
どうやら、ナツメの用事は俺の思っていた話と違ったようだ。
この話は嬉しい報せではないだろうか。謝らなければいけない要素が見当たらない。
「で、これも見てほしい」
続いて、ナツメは別の画面を見せてきた。
同じSNSの別のアカウントのページのようだ。
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