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国際空港、ターミナル
国際空港、ターミナル。
その最奥に位置するVIP専用ゲートの前は、もはや公共の場とは思えぬほどの異様な重圧に支配されていた。
「……おい、一体誰が来るんだ?」
「あの警官とSPの数、見て。政治家どころの騒ぎじゃないわよ」
足を止めた一般の乗客たちが、遠巻きにざわめきを広げていく。
専用ゲートの周りには、青い防護盾を構えた空港警察の機動隊員たちが幾重にも壁を作っている。
そこに漆黒のスーツで身を固めたSPたちも加わり、彼らは一寸の隙もなくゲートを固め、鋭い眼光を四方に走らせている。彼らの胸元にあるインカムからは、短く、冷徹な符牒が絶え間なく吐き出されていた。
「おい、下がれ!映らねえだろ!」
「脚立出すなよ!邪魔だ!」
規制線の外では、ひしめき合う報道カメラマンたちが怒号を飛ばし合っている。テレビ局の巨大なカメラが列をなし、スチールカメラマンたちは指先をシャッターにかけ、『その瞬間』を今か今かと待ち構えていた。
空港ロビーの巨大な展望窓の外へ向けると…
ワーウルフの国章をその身に刻んだ王室専用機が、滑走路に鎮座している。民間機とは一線を画すその巨大な翼は、彼らがこの地へ『招かれた客』ではなく、『降臨した王族』であることを雄弁に物語っていた。
機体から伸びる重厚な外付けタラップと、建物を直接繋ぐ専用スロープ。そこを通って「何者か」がこちらへ向かっているという事実が、空気の密度をいっそう濃くしていく。
野次馬たちの期待と畏怖が限界まで膨らみ、ロビーから一切の雑音が消えた、その時だった。
カチリ、と硬質な電子音が静寂を切り裂く。
選ばれた者だけが通ることを許された、重厚なVIP専用扉が、音もなく左右へと滑り出した。
その厳重な警護の壁が、左右に割れる。
一斉に無数のフラッシュが炊かれ…
SPに囲まれて現れたのは、一人の男だった。
彫刻のように深い彫りと、全てを統べる王者の風格を湛えた「建国顔」の美丈夫。カラーサングラスでも隠しきれない美貌。焦茶色の髪と同じ獣耳と、毛艶のいい長い尻尾は、彼が獣人族ーーワーウルフであることを示している。仕立ての良いロングコートを翻し、一歩踏み出すごとに周囲の空気を支配していくその姿は、見る者に跪きたいような衝動を抱かせる。
そして、その威風堂々たる男のすぐ傍らには、対照的なほどに穏やかな、けれど目を奪われるほどに美しい青年が寄り添っていた。
「傾国顔」と呼ぶにふさわしい、人を惑わすような甘い美貌を湛えた青年。
彼は、周囲の物々しい警戒やカメラの数に驚きつつも、一台の大きな「お散歩カート」を愛おしそうに押している。
カートの中から顔を覗かせているのは、もふもふとした毛並みの、愛らしい5匹の子犬たちだ。
「……見ろよ、あのカート」
「ワーウルフの、王子様御一行……?」
「尊すぎて、直視できない……」
ロビーに集まった人々は、息を呑んでその光景を見守った。
一国の主たる風格を持つ男が、時折、青年とカートの中のパピーたちへ向ける、蜂蜜のように甘く、慈愛に満ちた眼差し。そして、それに微笑みで応える青年の、世界を祝福するような明るさ。
異界の神々が、現代の空港に舞い降りたかのような錯覚。
ざわめきはやがて、畏怖を孕んだ感嘆の声へと変わっていく。
「本物のロイヤルカップルだ……」
誰かが震える声で呟いた。
王者の風格を纏う美丈夫と、その腕に守られるように歩く麗しき青年。二人が放つ「番」としての完成されたオーラに、人々は言葉を失う。
人々がその麗しい姿を目に焼き付けようと立ち尽くす中、御一行様は、ゲートのすぐ先に待機していた**漆黒の送迎車(リムジン)**へと向かう。
SPが車のドアを開けると、背の高い美丈夫は傾国顔の美青年をさりげなくエスコートし、二人は静かに車中へと身を沈める。
お散歩カートを囲んだのは、ワーウルフの女性侍女たちだ。
彼女たちは、つい先刻まで報道陣を鋭い眼光で牽制していたSPたちとは対照的に、とろけるような慈愛の微笑みを浮かべていた。
五匹の子犬たちは、彼女たちの手によって、まるで世界で最も壊れやすい至宝を扱うかのような、うやうやしくも柔らかな手つきで抱き上げ、二台目のリムジンへ乗り込む。
…一見すると豪華なロイヤルカップルのペットのようだが、彼らにとって、カートの中にいるのは愛玩動物などではない。自分たちが命を賭して守るべき、この国の未来を担う正当な「主」たちなのだから。
パタン、と重厚なドアが閉まった瞬間。
御一行様を乗せた黒塗りの車列は、パトカーの先導と共に、圧倒的なオーラを纏ったまま空港を後にした。
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