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第1話 転校生はひなたの子。

──発光している人間を初めて見た。 海に映る月でも掬って飲んだのか? 視線さえ合わない彼の 花が綻ぶような笑顔を想像すると 胸の奥で何かが弾け 「もっと知りたい」 そんな衝動が、身体中へと広がっていった。 でもその時の俺には 知る術がなかったんだ この気持ちの正体を……。 * * * * * 「神奈川県から来ました。日向野 光(ひなたの こう)です。関東を出たのは初めてなので、色々教えてください。よろしくお願いします。」 俺の親は転勤族で、転校は今回で3度目だ。 別れの涙も乾かないうちに、新しいクラスで明るく自己紹介するのにも慣れた。 特に郊外の学校では転入生が珍しいから、みんなが興味を持ってくれて、友達も作りやすい。 案の定、自己紹介を始めるとクラス中の視線が俺に集まった。 ……だけど。 一番後ろの彼だけは、 窓の外をぼんやり眺めたまま、 一度もこちらを見ようとはしない。 なのに、俺の視線だけは、どうしても彼の方へ吸い寄せられてしまう。 触れればそのまま指先がすり抜けてしまいそうなほど、透明な肌。 なんでこんなに光ってるんだ。 海に映る月でも掬って飲んだのか? 「月城(つきしろ)の隣が空いてたな。日向野の席はあそこだ。月城、日向野にいろいろ教えてやってくれ。」 先生がそう声をかけると、窓の外を見ていた彼が、初めてこちらに視線を向けた。 ——月城くん…っていうんだ。 俺は指示された席に座りながら、月城くんに声を掛けた。 「よろしくね、月城くん。」 「ああ、ええっと…」 「日向野だよ。日向野光。よろしく。」 「ひなたの…!……くん…?」 「……よろしくね。ええと、鹿児島からだったっけ?」 「ううん、神奈川。関東から出るのは初めてだよ。」 鹿児島って…。 「か」しかあってないよ…。 やっぱりさっきの自己紹介なんて聞いてなかったんだな。俺に興味なさ過ぎだろ。 「そうなんだ…。『ひなたの子』…かあ…。」 「…僕日光が苦手なんだよね。仲良くできるかなぁ、君と。」 「…えっ?」 「じゃあ授業始めるぞー」 今のはどういう意味だ?日光?栃木?? よくわからないけど、俺とあんまり仲良くする気は無いのかな…。 月城くんは授業中も、ぼんやりと窓の外を眺め、授業が終わると、大きなあくびを一つ。 そしてそのまま寝落ちの繰り返し。 何を考えているのかもわからなければ、 存在自体にも現実味を感じない。 俺には月城くんの輪郭も心も、まったく掴める気がしなかった。 ───昼休み 午前の授業が終わり、昼休みに入るや否や、 「日向野く〜ん!お弁当持って来てる?購買行くなら、場所教えてあげる!」 クラスの女子達が話しかけてくれた。 「あ、ありがとう。お昼は持ってるから、大丈夫だよ。」 「そっか!じゃあ購買がわからなかったらいつでも聞いてね!」 そう言って隣でワイワイとお弁当を食べ始めた。 俺は月城くんのさっきの言葉が引っかかっていて、一緒にお昼を食べながら話が出来れば…と思っていたけれど……、 月城くんは見あたらない。 購買に行ったのかな? そう思っていた矢先、 パックの牛乳を一つ持った月城くんが教室に戻って来て、 自分の席に座ると、ストローをくわえ美味しそうに飲みほした。 「あれっ、月城くん、お昼それだけ?購買売り切れてたの?」 俺が声を掛けると、 「月城くんはいつも牛乳だけなのよ。ね!」 隣でお昼を食べていた女子達が先に答えた。 「そうなんだ。お腹空かないの?」 再び月城くんに聞く。 今度は月城くん本人が、 「…僕ね、すっごい偏食なんだ。固形物全般無理なの。」 「でも牛乳は大好きだよ!」 そう言いながら、 さっき飲み干した牛乳パックを 俺の方に向けて、上下にカタカタと振ったので、僅かに残った牛乳がストローから飛び散り、俺の制服を濡らした。 「あっ、ごめん!」 「あはは!月城くん、天然〜!」 女子達が笑い、俺も笑うと、 月城くんも「あはは!」と笑った。 その不意打ちの笑顔の可愛さと、 口元からわずかに見えた鋭い犬歯があまりにもアンバランスで、 俺の心臓は「ドクン」と音を立てた。 「…あ、ティッシュあるから、大丈夫だよ、牛乳美味しいよね。」 反射的にそう返したものの、頭の中は完全に混乱していた。 …え?あれ何?犬歯?尖り過ぎじゃ…? ってか、「固形物全般無理」って言ってた? それって、偏食の度を超してない………? やっと少し話せたのに、 月城くんのことは ますます掴めなくなった。

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