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第17話 2人の帰り道。

そうは思っていても、まだ吸われる勇気はないし、 月城くんも元気になってきたので、家に帰ることにした。 「こーくん、今日はありがとうね。僕が送って行くよ。もう眠たくないし!」 「あ!じゃあ俺も…!」 「緋美は僕のことおんぶして帰って疲れたでしょ。洗ってあげられなくて悪いけど、先にお風呂入って(血を吸われるの)待ってて?」 うわっ、『先にシャワー浴びてこいよ』ってか! セリフの破壊力よ…… 月城くんに洗われるのを回避出来た上、 この後ラブラブ吸血タイムが待っているとわかった緋美は、ホッとしたような顔で大人しく俺たちを見送った。 まだ日が暮れ始めたばかりだったけれど、帰り道の森はもう薄暗かった。 「1人で帰れるから、送ってくれなくてよかったのに。月し…静夢が、帰り1人になっちゃう方が心配だよ。」 「大丈夫だよ!僕、このくらいの時間からの方が元気なんだ。夜目も効くし、心配ないよ!」 「…それに…」 「2人になりたかったし…」 「エッ?」 「こーくん、」 「何??」 「……おんぶして。」 「はぁ?!」 「眠くなったの??」 「…ううん。」 「あ!まさか、また緋美直伝の血が美味しくなる儀式的な??」 「いや、儀式は関係なくて…。」 「じゃあ、何で?」 「う〜ん…わかんない。あはっ。」 「……ダメ?」 そう言うと、月城くんは立ち止まった。 振り返ると、潤んだ大きな瞳で、俺をじっと見つめている。 無理やり血を吸おうとしているわけでも無さそうだし、吸血に関しての儀式でもないのなら…おんぶが気に入ったのかな? 寝てただけなのに? よくわからない人だな……。 でも俺だって、月城くんをおんぶしてる緋美を、実は羨ましいな…って、どこかで感じていたんだ。 重い荷物と傘を持たされていたから── だけじゃなくて。 何なんだろうな……。 理由なんて、わかんない時もあるよね。 頭で考えるのはよそう。 『そうしたい』と心が動いたなら、 それが全てだ。 「ダメじゃないよ、ちょっと待ってね。」 俺は背中のリュックを前に掛け直し、空いた背中を見せるよう向き直り、右膝を立てて屈んだ。 「やったぁ!こーくん、ありがとう!」 言うや否や、月城くんは俺の背中に飛び乗った。 表情こそわからなかったが、その明るい声で、喜んでいる様子が伝わった。 良かった、嬉しそうだな。 俺は真綿のような月城くんをおんぶして、森を抜け、駅までの道を歩き続けた。 重さは殆ど感じないけれど、背中に月城くんの温もりと、首元にほのかな息づかいを感じる。 月城くん、満足してるのかな? おんぶして〜なんて我儘言ってきた割には、何も喋んないじゃん。 「静夢って、軽いね。体重どのくらいなの?」 「やだっ、乙女に体重聞くなんて!」 「ははっ、それ自虐?」 「静夢お嬢さま、俺の乗り心地はいかがでしょうか?」 「悪くなくて…よ……。」 「……ハァッ……!」 「どうしたの!?」 「ヤバい、こーくんの首筋が近くて……」 「血も出てないのに、良い匂いする……噛みたくなっちゃってる。ふざけきれない…」 「えええ!ヤバいヤバい!」 「下ろしていい??」 「いやっダメっ!」 「我慢するから……」 「噛まないって約束するから、ちょっとだけ、首舐めてもいい?」 「はっ??なめっ?!」 承諾もしていないのに、月城くんは俺の首筋を、 ペロッ 軽くひと舐めした。 「あっ……!」 俺のピュアッピュア拗らせメーターの針が、ギュイン!と唸り、体の一点に血を集めた。 これは俺の方がヤバい……!! それからも、俺の首筋を何度か舐めたり、唇で挟んだりしてきたが、俺は頑張って無言で耐えていた。 でも、俺が何も言わないのをいいことに、 チュッ♡ 「だぁぁぁぁああああ!!」 「ッツ…!タタタタタ…!」 「ストップストップ!!」 「こーくん!どうしたの?痛かった??ごめん!!大丈夫??」 「痛いのは違う、こっちの話…!」 「キスしていいなんて言ってない!!」 「ごめーん、ついつい!」 「メーターの針、ぶっ飛んじゃうから!首絞めることになるから!」 「こーくん??」 「えっとつまりその、静夢のためにならない」 「……から………」 そう言って振り返ってしまったのは── 失敗だったのか、成功だったのか。 唇が重なりそうなほどの至近距離で、 顔を真っ赤にした月城くんと目が合ってしまって……。 えっ、血を吸う側が、こんなに照れる作法って、あったっけ?? 驚いた顔で見ていると、月城くんは目を逸らし、 その顔を隠すように、ゆっくりと俺の背中に頭を沈めた。 「なんか、今日の僕、おかしいね。」 「もう、何もしないから、お願い。このまま連れてって……」 「……うん。」 それから駅までは、お互い言葉を発することはなかった。 駅に着いて、背中から降りた月城くんは、 俺が見えなくなるまで、手を振り見送ってくれたけれど、 視線は斜め下に落としたままだった。 いつも変だけど、今日はなんか、変の方向性が違ったような気がするな…。 空にはもう、青白い月が浮かんでいた。

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