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第4話:交番勤務と落し物
あの日、から数日が経った、昼下がり。
楓は駅前で拾った財布を片手に、近くの交番へ向かっていた。
交番の扉を開ける。
「すみませーん。落とし物——」
そこで楓は、言葉を止めた。
「……」「……」
見慣れた、青髪に夕焼け色の瞳。
警察官の制服を着たハウレスが子供たちに囲まれていた。
「おい、ハウレス!こっち見ろ」
「ハウレスさんな、見るから少し待て」
「ハウレス、今日もいる。暇なの?」
「ハウレスさんな、暇なんじゃない勤務中なんだ……」
楓は、子供に囲まれてるハウレスを見て、くすくすと笑うのだった。
「楓さん、笑わないでください……」
「いや、人気者だなって思って」
一人の男の子が、嬉しそうにハウレスの手を引っ張り、もう一人の男の子が制服の袖を掴んでいる
「……ふっ」
楓はしばらく黙ってその光景を眺めていた。
あのハウレスが、キャバクラの女性に露骨に固まっていた、あの堅物が、子供には物凄く好かれている。
「落とし物拾ったんだけど……、どうしたらいい?」
「すみません、今行きます」
楓は、財布を差し出した。
「駅前で拾った」
「ありがとうございます。確認しますね」
ハウレスが受け取ろうとする。
しかし、その瞬間。
「ハウレス、この人だれ?」
小さな男の子が楓を指っし見上げた。
「……俺?」
「うん!ハウレス、とどういう関係?」
「……ただの知り合い」
「友達!」
「違う」
「友達じゃないんですか?」
ハウレスまで聞いてくる。
「お前は黙って仕事しろ」
「すみません」
ハウレスが素直に謝り。それを見た子供達が笑だした。
「ハウレス、怒れてる!」
「……」「……」
「人気者じゃん」
「……そでしょうか?」
ハウレスは少し、困ったように笑った。その表情は、いつもの堅苦しいものとは違っていた。
柔らかく、優しい。
楓は、少しだけ、目を細める。
「ハウレス、この人かっこいい!」
「……っ」
ハウレスが固まる。
「そう?」
「うん!」
「じゃあ、にいちゃんも警察官?」
「違うよ」
「じゃあ何?」
「ただの会社員」
子供は楓の顔をじっと見つめると、そして突然、楓の手を握った。
「じゃあ、にいちゃんも好き!」
「……は?」
「好き!」
「……」
楓は、完全に固まった。ハウレスは、そんな楓を見て、思わず口元を緩める。
「……何笑ってんの」
「いえ」
「絶対笑ってるだろ」
「すみません」
「まあ、いいや……」
「いえ、楓さん、子供に好かれるんですね」
「……まあ」
楓は、子供の頭を軽く撫でる。
「嫌いではないよ」
「俺も、にいちゃんの事嫌いじゃないよ」
子供が、嬉しそうに笑う。その様子を見ていたハウレスの胸が、また妙に温かくなる。
以前は、楓のことを〔人をからかう失礼な人〕だと思っていた。けど、この人は思っていたよりずっと優しい。
「……楓さん」
「ん?」
「落とし物を届けてくださり、ありがとうございます」
「別に、普通でしょ」
「それでも、ありがとうございっます」
楓は、苦笑いする。
その時、子供の一人がハウレスの腕を引っ張った。
「ハウレス、遊ぼ」
「ハウレスさんな……今は勤務中なんだが…」
ハウレスが困った顔をする。楓は、それを見て思わず笑った。
「頑張れ、俺帰るし」
「そうですか……」
ハウレスは少しだけ寂しそうに言った。
楓はその表情に気づいて、首を傾げる。
「じゃあね、ハウレス」
「……はい」
楓が交番を出ていき、扉が閉まる。ハウレスはしばらく、その扉を見つめていた。
「ハウレス!」
「ハウレスさんな!どした?」
「さっきの、にいちゃんの事好きなの?」
「……」
ハウレスは、目を見開く。
「なぜ、そう思うんだ?」
「だって、ずっと見てるから!」
「……」
ハウレスは、何も言えなかった。子供も無邪気な言葉が、胸の奥に深く刺さる。
「好き、なのか?」
誰にも聞こえないほど小さな声で、
そう呟いた。
勤務を終えたハウレスは、夜道を歩いていた。
街灯の明かりが、静かな通路をポツポツと照らしている。
交番で見た、楓の姿。
子供に手を握られて、少し困ったように笑っていた顔。
そして——
『にいちゃんの事、好きなの?』
「……」
ハウレスは思わず眉間に皺を寄せた。
「違う……」
誰に言うでも無く呟く。
「俺は、ただ……」
——ただ。
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