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第3話:街中であなたを見かけた
——あの日から、数日が経った。
ハウレスは仕事帰り、先輩と別れて一人で駅へ向かってた。
夜の街は相変わらず騒がしい。仕事帰りの会社員、楽しそうに笑う若者。客引きの声。
そんな雑多な人の波を避けながら歩いていた、その時だった。
「……あれ?」
見覚えのある黒髪が、視界の端を横切った。ハウレスは足を止める。
「……楓さん?」
少し先。街灯に照らされた横顔。間違いない。楓だった。
いつものスーツ姿ではなく。ラフな格好で、誰かを持っているようにも見えない。
楓は、周囲を一度見回すと、目の前にあるホテルへと入っていった。
「……」
ハウレスは、そのばに立ち尽くした。
(……ホテル)
その意味を理解するまでに、数秒かかった。
「……え?」
胸の奥が、嫌な音を立てる。楓が、ホテルに入る、ただそれだけのこと。
ただそれだけの事なのに……
「……誰と?」
自分でも驚くほど低い声が漏れた。ハウレスはすぐに首を横に振る。
「……俺には関係ない」
そうだ。
関係ない。楓とは、数回しか会ってない。友人ですらない。少し話しwするようになっただけの関係。
それなのに——
なぜか、ホテルへ消えていく楓の背中が頭から離れなかった。
「……」
ハウラスは、ホテルを見つめたまま、拳を手が白くなるほど強く握った。
(最悪な気分だ……)
理由は分からない。ただ胸の奥が騒つく、まるで、大切なものを誰かに奪われたような——
「……アホらしい」
ハウレスは拳を握るのをやめた。帰ろう、そう思った。けれど、数歩進んだところで足が止まる。
「……」
もう一度、ホテルを見る。
「……何をしているんだ、俺は」
自分自身に呆れながら、ハウレスはその場を離れた。
——翌日。
交番勤務のハウレスは仕事場を訪れると先輩に絡まれていた。
「……ハウレス?」
「はい」
「なんか今日、機嫌悪くないか?」
「そんな事はありません」
「いや、めちゃくちゃ機嫌悪いだろ」
「……」
先輩にいわれても、ハウレスには自覚がなかった。
昨日からずっと、楓のことが頭から離れない。
見知らぬ誰かと、ホテルに入って行った姿。
ただ寝ただけなのかそれとも——
「……」
考えれば考えるほど、胸が苦しくなる。
「……楓、さん」
名前を口にしただけで、また嫌な感覚が込み上げてくる。
その日の夜。
ハウレスは仕事を終えると、無意識に楓の働く店の方へ足を向けていた。
自分でも理由が分からない
ただ——。
確かめたかった。
昨日ホテルに入った理由を。そしてそんなことを聞く資格など自分にはないと分かっているのに。
どうしても気になって仕方がかった。
————
仕事の終えた楓が裏口から出ると、そこには見慣れた青髪が立っていた。
「……ハウレス?」
「こんばんは、楓さん」
「またいるの?」
「……はい」
楓は少し、めんどくさそうな顔をした。
「何か用?」
「……」
ハウレスは一瞬、言葉に詰まった。聞くべきではない。そんな事は、分かってる。けれど、昨日からずっと頭から離れなかった。
「昨日……」
「昨日?」
「ホテルに、入って行くのを見ました」
「……」
楓の表情が、一瞬で嫌そうな顔に変わった。
「……で、何が言いたいの」
「すみません、ただ……」
「別に、君に関係ないよね」
「……はい」
その通りだった。
ハウレスは視線を落とす、しかし、楓はそんなハウレスを見て、呆れたように息を吐いた。
「……セフレ」
「……え?」
「セフレとホテル入っただけ」
「……」
頭の中が真っ白になる。
「……そう、ですか」
「うん」
「そんなに気になる?」
「いえ、」
即答だった。けれど、その声は明らかに硬かった。
「俺には、関係ありませんから。」
「そうそう。関係ないよね」
楓は、淡々と言いながら、胸ポケットから煙草を取り出す。
カチリ、とライターを鳴らした
「……」
ハウレス、はそれを黙って見つめる。
「何?」
「……いえ」
「また、煙草の説教?」
「しません」
「ならいいけど」
楓はゆっくりと煙を吐き出す。その横顔を見ながら、ハウレスは胸の奥生まれた妙な感情を持て余していた。
(……嫌だ)
何が嫌なのか、ハウレスは自分でも分からない。
楓が誰とホテルに入ろうと、ハウレスには関係ない。
それなのに——
「……ハウレス?」
「はい」
「顔怖いけど」
「……すみません」
「なんか怒ってる?」
「怒っていません」
「あっそ、」
楓は、煙草を咥えたまま、じっとハウレスを見る。
「……もしかして、嫉妬してる?」
「……っ」
ハウレスの肩が大きく揺れた。
「な、何を言って……」
「冗談。俺ら、そんな関係じゃないしね」
楓は、少し楽しそうに笑う。
「……からかわないでください」
「あ〜ごめん、ごめん」
そう言いながらも、楓は意気揚々と笑っている。
ハウれすは、そんな楓を見つめた。
胸の奥が、また苦しくなる。
——嫉妬
先ほど楓が口にした言葉が、頭から離れなかった。
「……帰ります」
「お、帰れ帰れ!」
「言われなくても!」
ハウレスが背を向け、数歩進んでも、胸のっざわつきは消えなかった。
むしろ、さっきより酷くなっている
(……嫉妬、なんて)
そんなはずはない。だって自分は、楓のことを——
「……苦手なだけだ」
誰に聞かせでもなく呟いた。
けれど、その言葉は自分自身にいい聞かせるには、あまりにも弱かった。
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