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第12話
「清陽殿、話しても良いでしょうか」
陛下は丁寧に清陽に伺いを立てた。
その姿を見ると、清陽は陛下にとっての神なのだとひしひしと感じる。
「ああ、構わないよ」
「阿紅、いや、ここは紅陽殿」
昔から呼ばれていた呼び方ではなく、字で呼ぶ。それは背筋を伸ばして話を聞かなければならないことの合図だ。
「あなたは我が国、月沈国が生まれた理由を知っていますか」
「はい。前王朝、李月王朝が『妖のいない世を作るため』と妖を根絶させようとしたのがすべてのきっかけです。そのときに我が曾祖父、清陽が妖たちを率いていました。そこであなたは清陽に祈祷し、妖とあなたが率いる軍が手を組んだことで李月王朝が倒され、沈王朝が生まれました」
一字一句間違えでもしたら、竹刀で頭を殴られていたことを思い出し、丁寧に言葉を口にした。
「正解。私が清陽殿になんて祈祷したか、耳にタコができるほど聞いているはずです」
「はい。『私はあなたの信徒として、この身が尽きるまで、この魂が粉々に散り消えるその時まで一生仕えます。あなたを神として支え続けます。だから、この体と魂をあなたに差し上げる代わりに、どうかこの国をお守りください』とあなたはおっしゃっていた」
「正解です」
懐かしい雰囲気に、ふっと笑みがこぼれる。
陛下もまた、優しく微笑んでいた。
「それなのに、私の王朝は倒れた」
その言葉とともに笑みは消えた。
そういえばなぜ沈王朝は清陽の庇護があったのに倒れたのか。
今思えば不可解だった。
大切に扱われ、後宮はもちろんのこと、宮廷内外に神像が置かれた。多くの人が祈祷し、「天狐様」と崇めた。
それなのに、清陽が国を滅ぼそうと思うわけがないのだ。
「分かるかな」と陛下は言った。
会話の流れを読むだけで、答えは限りなく一つに近い。
「清陽が動けなくなった」
「そうです。その通り。あなたが神通力で倒れたように、清陽も倒れたのです」
「あのときは誰もが倒れた。人間界で邪悪なことが起きると察知したんだ。神通力を使える妖、鬼、全員が倒れ、妖鬼界が荒れはてた。自我を失くし、殺し合いを始めたものもいる」
清陽の言葉に、そのときまだただの狐でよかったと心の底から思うほど、強い感情が伝わってきた。
あのとき、紅陽は修行の身だった。
天に限りなく近い場所で修業をしていたので、そのことがあったことを知らされたのは、天狐としてこの地に戻ってきた時だった。
「私はあなたが倒れたと聞いたとき、規模は小さくても、同じようなことが起きると思ったのです」
「“邪悪なこと”が起きたのですか」
「あのとき、裴初代皇帝がしたことは、悪鬼と契約し、王朝の歴史すべてを塗りかえることでした。実際に、月沈国は裴王朝がたてたことになっています。沈王朝、李月王朝があったことを知る人間は誰もいません」
そういえば人間界の歴史を教わるときに聞いた覚えがある。人間界で「沈王朝や李月王朝があったことを知るものはいない」と。
「じゃあ、今回も……?」
「いいえ。でも、それに近い。ただ、その場で様子を見ていましたが、あれは頭の切れる軍師がいたのは確実でしょうな。それが妖や鬼の類なのかは分からない」
そのとき、頭の中で明然の姿を思い出した。
「胡明一族が、何者かと契約し、軍を動かしたということですか?」
「いいや。何者かが、胡明一族に依頼したのだろう。胡明一族はあれはこっち側の人間だ」と清陽が言った。
清陽は知っているようだった。
「我が愚息の血が入っているからな」
清陽は苦虫を噛みつぶしたような顔をした。
愚息と言われることをしてきた清陽の息子がどういう人なのか、明紅は気になってしまった。
「しかし、ではなぜ、その者は皇帝になる道を選ばなかったのでしょうか」
「さあ」と陛下は首を傾げた。
分からない。
それが現時点での答えだった。
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