12 / 13

第12話

「清陽殿、話しても良いでしょうか」  陛下は丁寧に清陽に伺いを立てた。  その姿を見ると、清陽は陛下にとっての神なのだとひしひしと感じる。 「ああ、構わないよ」 「阿紅、いや、ここは紅陽殿」  昔から呼ばれていた呼び方ではなく、字で呼ぶ。それは背筋を伸ばして話を聞かなければならないことの合図だ。 「あなたは我が国、月沈国が生まれた理由を知っていますか」 「はい。前王朝、李月王朝が『妖のいない世を作るため』と妖を根絶させようとしたのがすべてのきっかけです。そのときに我が曾祖父、清陽が妖たちを率いていました。そこであなたは清陽に祈祷し、妖とあなたが率いる軍が手を組んだことで李月王朝が倒され、沈王朝が生まれました」  一字一句間違えでもしたら、竹刀で頭を殴られていたことを思い出し、丁寧に言葉を口にした。 「正解。私が清陽殿になんて祈祷したか、耳にタコができるほど聞いているはずです」 「はい。『私はあなたの信徒として、この身が尽きるまで、この魂が粉々に散り消えるその時まで一生仕えます。あなたを神として支え続けます。だから、この体と魂をあなたに差し上げる代わりに、どうかこの国をお守りください』とあなたはおっしゃっていた」 「正解です」  懐かしい雰囲気に、ふっと笑みがこぼれる。  陛下もまた、優しく微笑んでいた。 「それなのに、私の王朝は倒れた」  その言葉とともに笑みは消えた。  そういえばなぜ沈王朝は清陽の庇護があったのに倒れたのか。  今思えば不可解だった。  大切に扱われ、後宮はもちろんのこと、宮廷内外に神像が置かれた。多くの人が祈祷し、「天狐様」と崇めた。  それなのに、清陽が国を滅ぼそうと思うわけがないのだ。 「分かるかな」と陛下は言った。  会話の流れを読むだけで、答えは限りなく一つに近い。 「清陽が動けなくなった」 「そうです。その通り。あなたが神通力で倒れたように、清陽も倒れたのです」 「あのときは誰もが倒れた。人間界で邪悪なことが起きると察知したんだ。神通力を使える妖、鬼、全員が倒れ、妖鬼界が荒れはてた。自我を失くし、殺し合いを始めたものもいる」  清陽の言葉に、そのときまだただの狐でよかったと心の底から思うほど、強い感情が伝わってきた。  あのとき、紅陽は修行の身だった。  天に限りなく近い場所で修業をしていたので、そのことがあったことを知らされたのは、天狐としてこの地に戻ってきた時だった。 「私はあなたが倒れたと聞いたとき、規模は小さくても、同じようなことが起きると思ったのです」 「“邪悪なこと”が起きたのですか」 「あのとき、裴初代皇帝がしたことは、悪鬼と契約し、王朝の歴史すべてを塗りかえることでした。実際に、月沈国は裴王朝がたてたことになっています。沈王朝、李月王朝があったことを知る人間は誰もいません」  そういえば人間界の歴史を教わるときに聞いた覚えがある。人間界で「沈王朝や李月王朝があったことを知るものはいない」と。 「じゃあ、今回も……?」 「いいえ。でも、それに近い。ただ、その場で様子を見ていましたが、あれは頭の切れる軍師がいたのは確実でしょうな。それが妖や鬼の類なのかは分からない」  そのとき、頭の中で明然の姿を思い出した。 「胡明一族が、何者かと契約し、軍を動かしたということですか?」 「いいや。何者かが、胡明一族に依頼したのだろう。胡明一族はあれはこっち側の人間だ」と清陽が言った。  清陽は知っているようだった。 「我が愚息の血が入っているからな」  清陽は苦虫を噛みつぶしたような顔をした。  愚息と言われることをしてきた清陽の息子がどういう人なのか、明紅は気になってしまった。 「しかし、ではなぜ、その者は皇帝になる道を選ばなかったのでしょうか」 「さあ」と陛下は首を傾げた。  分からない。  それが現時点での答えだった。

ともだちにシェアしよう!