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第1話 出会い

【登場人物】 ・青山コウタ(あおやまコウタ) 後輩に会うため東京を訪れていた男性。 後輩と別れた後、一人で渋谷の街を歩いている。 ・響ワタル(ひびきワタル) フードを被った全身黒コーデの男性。 ダンスレッスンを抜け出し、朦朧とする意識の中、渋谷の街を彷徨っている。 ━━━━━━━━━━━━━━ 「寂しい」 と言えなかった夜がある。 でも、 何も聞かずに、 隣にいてくれた人がいた。 これは、 本来出会うはずのなかった二人が、 心の距離を0kmにしていく物語。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 自分の優しさが嫌い。 自分の弱さが嫌い。 自分の優しさに、 腹が立つ時がある。 自分の弱さに、 腹が立つ時がある。 でも、 その優しさがあったから、彼と出会えた。 その弱さがあったから、彼と出会えた。 オレの優しさを、 素直に受け止めてくれる彼。 オレの弱さを、 素直に受け止めてくれる彼。 彼と出会わなければ、 今頃どうなってたんだろ? 二人で一人だよね。 ━━━━━━━━━━━━━━ 第1話「出会い」 ━━━━━━━━━━━━━━ 後輩と別れ、久しぶりに渋谷の街を歩く青山。 向かってくる人の波を避けながら、前に進む。 (相変わらず人が多いなぁ。避けるのもやっとやん。ほいっ、ほいっ!楽勝!!) すると遠くの方から、 明らかに怪しい雰囲気で、 フラフラと歩く人影が目に付いた。 (ん? 何? 酔っ払い??動きが読めない……。) だんだんと近づく、 フードを被った全身黒コーデのふらつく人物。 (どっちへ行こ?右か?左か?) あと1メートル……。 (わかんねぇ!あーもう!右!) あと50センチ……。 (嘘だろ?なんでこっち来るんだよ?!) そして―― バタッ。 フードを被った全身黒コーデの人物が、 オレに向かって倒れてきた。 「え? ちょっと!」 咄嗟に相手を庇うように、受け止める青山。 相手の息は荒い。 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」 そして身体が熱い。 服の上からでも伝わる熱さ。 「だ……、大丈夫ですか?!」 「すいません……」 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」 フードの中の顔は、 明らかに大丈夫ではなかった。 「だいじょう……」 大丈夫と言いかけたのだろう。 だが、言い切る前に、相手は気を失ってしまった。 青山に重くのしかかる身体。 ゆっくり歩道に座らせ、 状態を確認しようと、 フードの中の首元とおでこを触ると、やはり熱かった。 (熱あるな。インフルか? コロナか? ……ま、とりあえず救急車呼ぶか) 119番通報する青山。 「火事ですか? 救急ですか?」 「救急です。渋谷で男性が一人倒れました。20代くらいの男性です」 「外傷とかはありますか?」 「今のところ外傷とかは見当たらないです」 「助けて……」 雑踏にかき消されてもおかしくない、 小さな掠れた声が、 はっきりとオレの耳に届いた。 「大丈夫。今、救急車呼んでる」 「助けて……」 フードを広げ、顔を出すと、 うっすらと涙を流し、助けを求めているのが分かった。 「大丈夫だから」 震えながらも青山の服を掴み、 しがみ付くフードの男。 「大丈夫だから。 オレが助けてやるから!」 青山はフードの男を強く抱き、 何故か分からないが、 「オレが助けてやるから」と言ってしまった。 「約10分で到着します。 近づいて来たら救急車に向かって手を振って下さい」 「10分? ……いや、待てないので、 タクシー拾って行くんで、 近くの救急病院を教えて下さい」 「あ……はい! 分かりました」 青山はタクシーを呼び止め、 フードの男と乗り込む。 「近くに都立渋谷総合医療センターがあります。 そこに向かってください。 病院にはこちらから話しておきます」 「渋谷総合医療センターですね! ありがとうございます。」 「すいません、 渋谷総合医療センターまでお願いします」 青山にもたれかかるフードの男。 同時に、青山の手に男の手が触れる。 (冷たっ! え? 冷た過ぎるやろ) 男の冷たい手に驚き、 咄嗟に両手で男の手を握る青山。 「ありが……とう……」 掠れた小さな声で、礼を言う男。 「まだお礼を言うのは早いよ。名前は?」 「響(ひびき)です」 「響くんね。少しは落ち着いた?」 「うん。めっちゃ寒いですけど。 でも……、手だけはあったかい」 悪寒に襲われ辛いながらも、 少しだけ微笑む響。 必死に温めようと、手を擦る青山。 「もうすぐ病院に着くから」 頷く響。 そして、響はまた気を失った。 病院に到着し、 看護師に伝えることは伝え、 響を受け渡そうとするが、 青山の手から響の手が離れない。 強く握り締められた手。 「もう病院に着いたから、大丈夫だよ」 「一緒におって欲しい……」 何かに怯えるかのように、 小刻みに震え、 大粒の涙をボロボロ流しながら懇願する響。 (え……?) 担架に載せられても、 手を離さない響。 「お知り合いですか?」 看護師が聞いてきた。 「あ、はい」 咄嗟に出た嘘。 何故そう言ったのかは分からない。 分からないけど、 手を離すと彼はもう、 オレの前には現れないんじゃないか。 そう思って、ついた嘘。 「では、待合室でお待ち下さい」 そう言われた、その時。 「あおやま……さん」 「大丈夫。待合室で待ってるから」 「ホンマに?」 泣きながら聞いてくる響。 「うん。ホンマやで」 青山が笑顔でそう言うと、 手が解けていき、 響は処置室へ入っていった。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 響が処置室へ入って30分。 看護師が出てきた。 「響さんのお知り合いの方ですね?」 「あ、はい」 「先生の診察も終わり、今は点滴して落ち着いています。 響さんが青山さんを呼んで欲しい、との事なのでお入り下さい」 案内され、処置室へ入る。 「響さん、青山さんを呼んで来ましたよ」 カーテンが開けられる。 点滴された状態で、ベッドに横たわる響。 落ち着いた顔つき。 可愛らしさがありつつ、 シュッとした、いわゆるイケメン。 ただ一つ、違和感。 誰かに似ている……。 誰かは分からない。 だが、どこかで見た事がある。 それを察したのか、 考える隙を与えまいと、 響が話し出す。 「すいません、青山さん。 助けて頂いてありがとうございました」 「そんなのええよ。びっくりはしたけど。 まぁ、落ち着いて良かったやん」 「でも、まだしんどくて」 「インフルとか?」 「インフルとか、コロナでは無いと思う。 わかんないです」 「そかぁ」 「最近、仕事が忙しくて、それで疲れてたのかも」 「頑張り過ぎたんやな」 頑張り過ぎたんやな。 その言葉に、 子供が泣くかのように、 ボロボロと涙を流す響。 「どしたん?オレ、変なこと言った?」 「そうやって言ってくれたり、 助けてくれたり……、嬉しくて」 袖で涙を拭きながら答える響。 「そうだ。青山さんのちゃんとしたお名前、 聞いてませんでしたね」 「あ、オレ?コウタ。青山コウタ」 「ボクは、ワタル。響ワタル」 (ん……? どっかで聞いた事あるような……?) 「初めまして?」 初めましてじゃない感覚を覚え、 響に問いかける青山。 「初めまして」 言い切る響。 「あの……青山さん。 お願いがあるんですが、良いですか?」 「ん?お願い?え、何?」 「もし良かったら……もう一度……、 手を握って貰えませんか……?」 「手?」 「さっき、握ってくれましたよね?」 「さっきは、 当たった手がめっちゃ冷たくて…… びっくりして……」 「今も、冷たいんです……」 「ウソやろ?ホンマ??」 手を握る青山。 「え?ウソ?!まだ冷たいやん」 「あったかい……」 「タクシーの中で手を握ってくれた時、 優しくて、あったかくて、 それで安心して……」 「そ、そうなんだ……」 男性と手を握るのは、せいぜい握手程度。 だが、こうやって、 温める為に男性の手を、 じっくり握るのは初めてだった。 でも、そんなことより、 この冷えきった手を温めたい。 そんな気持ちの方が勝っていた。 「青山さん、時間とか大丈夫ですか?」 「時間……?」 「予定があったとか、このあと予定があるとか……」 「あー……。ないよ。 後輩とご飯食べて別れて、 その後一人でブラブラしてただけやし」 「もし予定があったなら、 悪いことしたなって思って……」 「大丈夫。 オレのこと心配するより、 まず自分の身体のこと心配せんと」 響の頬に、また涙がつたう。 「また泣いちゃった?」 「最近、失敗ばかりで…… プレッシャーとかもあって、 辛くて、寝れなくて……」 「そかぁ。辛かったよな。しんどかったよな」 そう言いながら、 青山の手は、いつの間にか響の頭を優しく撫でていた。 ━━━━━━━━━━━━━━━ その後、 色々話している内に、 点滴が終わった。 青山は待合室へ戻り、 しばらくして、 響が処置室から出てきた。 会計を済ませ、 並んで歩く二人。 助けた時には気づかなかったが、 響の方が背が高い。 病院を出る二人。 響のスマホが鳴る。 通話の邪魔にならないよう、 少し離れる青山。 「もしもし……。あ、はい。今病院です。」 「はい……はい……すいません」 「あ、はい……、病院名ですか? 渋谷の…… えーと…… 総合医療センター?です」 「あ、はい。わかりました。 ありがとうございます。 はい、失礼します」 通話を終え、 青山の前に立つ響。 「今から迎えが来てくれるみたいなんで、 ボクは、ここで」 「そうなんや! 良かったやん! じゃあ、オレも帰るわー」 「あのー……」 「ん?どした?」 急に横に来て、腕を組む響。 「え……?」 カシャ! 唐突に、 響のスマホでツーショット写真を撮られる青山。 驚いた青山の隣で、 満面の笑みの響。 「撮っときたいなぁ、と思って」 「え?なんで?」 「記念に」 「なんの?」 「青山さんと出会えた記念?」 「なにそれ?」 出会えた記念、 なんて言われて、 少し照れる青山。 「だって、撮りたかったんだもん」 落ち込む響。 「わかった、わかったから。 落ち込まないで。 てか、さっきのちょっと見せてよ」 「なんで?」 「なんでって…… どんな風に写ってるか気になるし……」 「はい!」 「え? 何これ? オレ、めっちゃ変な顔してるやん! さすがに撮り直して」 驚いている顔が、 あまりにも不細工で、 撮り直しを求める青山。 「良いんですか?」 「さすがに、これはなぁ」 もう一枚撮れることが、 よほど嬉しいのか、 キラキラした瞳で青山を見つめる響。 さっと青山の腕を組み、 満面の笑みの響。 青山は、 ぎこちない笑顔と、 ぎこちないピースでポーズを取る。 カシャ! カシャ! カシャ! 「まさかの連写?!」 連写に思わず笑いながら、 ツッコむ青山。 「え?許可もらったから」 満面の笑みで答える響。 「連写の許可は出してないし」 こちらも笑いながら答える青山。 「良いの、撮れたよ!」 撮った写メを、 満足そうに見る響。 「見せて」 「うん!」 「さっきのよりはマシやな。 後半、めっちゃ笑ってるけどな」 「可愛い」 写メを見ながら、ぽつりと呟く響。 「自分が?」 嫌味を言う青山。 「可愛いって思う?」 キラキラした眼差しで、青山を見る響。 「ま、まぁ……」 照れて視線を逸らす青山。 写メの中で笑っている響は……、 正直……、可愛かった。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 「ねぇ、青山さん。LINE教えて!」 「LINE?」 「撮った写メ送るんで。 あと、今日助けて頂いたお礼もしたいし」 「お礼? そんなのええよ。写メも、響くんが持っとき」 「ごめんなさい!」 急に、真剣な顔で謝りだす響。 「え?何……?何??」 ゆっくりと響の顔を上げされる青山。 「ホントは…… 青山さんと、友達になりたい!」 「え……?」 唐突な申し出に、驚く青山。 「ダメ……?」 目を潤ませ、今にも泣きそうな響。 ずるい……。 断る理由もないし、 断れば泣かれる。 そんな雰囲気。 青山は、 頭を少し掻きながら―― 「わかった。ええよ……」 「はい!」 (既に、QRコード出してるし) 「QR出すの、早くね?!」 「え?そうですか?」 読み取りが終わり、 友達追加をする青山。 「送りますね」 ピコン。 〈よろしくお願いします〉 〈写メ4枚添付〉 「お、ありがとう。 てか、1枚目の写メはいらんなぁ」 「良いじゃないですか! 友達になった記念に」 そうやり取りしていると、 一台の黒いワゴン車が近づいてきた。 「迎えが来たみたいなんで、ボクは、ここで」 「OK。じゃあ……」 「また、LINEしますね!」 倒れた時とは、 見違えるほど元気な響。 それに安心した青山は、 手を振り、渋谷駅に向かって歩き出した。 ピコン。 〈今日は助けてくれてありがとうございました。青山さんも、気を付けて帰ってくださいね!〉 (だから、早いって……) 面白すぎて、 うっすら笑う青山。 〈どういたしまして。ありがとう〉

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