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第13話

 体を拭いて浴衣に着替える。あまり着慣れていないので、帯がうまく結べず合わせが緩んでしまった。  脱衣所を出る前に深呼吸して、緊張している気持ちを落ち着けた。  ドアを開けて、部屋に戻る。久世は広縁の長椅子に座って、外を見ていたようだ。俺が戻ってきたことに気づき、立ち上がって思い詰めた表情でこちらを見る。 「尊さん、あの……」 「直哉も、お風呂入って来なよ」  視線を逸らして、目を合わせずに言う。しまった、なるべく普通に、何でもないように言うつもりだったのに、素っ気なくなってしまった。内心焦りながら、冷静を装う。 「え……あの、でも」  何か言いたそうな久世の方を向いてしまいたくなったが、ぐっと堪える。まだ、今は上手く話せる自信がない。  備え付けの冷蔵庫がある廊下へ向かい、ミネラルウォーターを取り出して飲んだ。火照った体に、冷たい水が染み渡る。  俺が今話をする気がないと悟ったのか、久世は諦めて弱々しい声で「すみません」とだけ言って、脱衣所へ向かって行った。久世を追い詰めているようで、ズキズキと心が痛む。  もう少し、もう少しだけ待ってほしい。後で絶対素直になるから……!  緊張したまま、さっきまで久世が座っていた長椅子に入れ替わりで座る。  久世がそうしていたように、ぼんやりと窓から見える外の景色を眺めていた。露天風呂から見える景色と同じく、夜の海は真っ暗だ。僅かな月明かりに輝く海面を眺めながら、とりとめもないことを考える。  やがて入浴を終えた久世が戻ってきた。浴衣に着替えた久世の姿に、ドキリとする。スタイルのいい人間が着ると、やはり何でも絵になると思った。俺と違って浴衣を着慣れているのか、きっちりと閉められた合わせが逆に色っぽい。  久世はまだ何か言いたそうな顔で、こちらを見ていた。 「尊さん、あの……」 「じゃあ、もう、寝ようか」  久世の言葉を遮ってそう言い、常夜灯を残して電気を消した。素直に話をすると決めたものの、まだお互いの顔を真正面から見て話すのは恥ずかしいので、照れ隠しである。  久世はまた言葉を飲み込んで、諦めたように布団に入ると、眼鏡を外して枕元に置いた。俺も久世の隣の布団に入る。  常夜灯でぼんやりと浮かび上がる、薄暗い室内で、俺はしばらくドキドキとうるさい自分の心臓の音を聞いていた。  よし、心の準備はできた。言うぞ……絶対言う。決意を込めて、口を開く。 「あのさ」 「あの」  だが、俺とほぼ同時に久世も口を開いた。声が重なり、お互いにそれぞれの布団の中から顔を見合わせる。  暗がりにまだ目が慣れておらず、よく見えなかったけれど、久世は多分驚いた顔をしていた。すぐにその顔がぎゅっとつらそうに歪んで、俺が何も言えないでいるうちに、久世がまた口を開いた。 「いやだ、別れません。絶対」 「……え?」 「気に入らないところがあるなら直します。何でも言ってください。会話がつまらない? 気が利かない? すみません、これから努力しますから、どうか」 「ま、待って、直哉、急に……」 「別れるなんて言わないでください……俺に、もう一度チャンスをください。お願いします」  どうやら久世は、俺が別れ話をしようとしていると勘違いしているようだ。誤解を解かなければと思うものの、苦しげな表情で言い募る久世に気圧されて、口を挟めない。  それに……そんなに必死になるくらい、俺と別れたくないと思ってくれるなんて、信じられなかった。今日一日、楽しかった反面、久世に不釣り合いな自分を何度も実感していたというのに。もし別れを告げられるとしたら、それは俺の方だと思っていた。  追い縋るようにじっと俺を見つめる久世の布団に、そっと移動する。 「尊さん……?」  同じ布団の中で、久世に寄り添いぴったりと体をくっつける。薄い浴衣を着ているおかげで、いつもよりずっと久世の体温が生々しく感じられた。  俺の突然の行動に動揺しているのか、固まる久世にしがみつくように密着して、首筋に顔を擦り付ける。 「別れないよ。今のは、謝ろうとしたんだ。さっき、変な態度取って、ごめん」 「尊さん……俺も、すみません」  顔を上げて、至近距離で久世を見つめる。切なげに俺を見つめるその視線に、俺に対する必死な思いが浮かんでいるのが分かる。  胸がぎゅぅっと切なく締め付けられる。目の前の彼が愛おしくて、堪らなくて、引き寄せられるように顔を近づけ、目を閉じた。  同じように近づいた久世が、俺の唇に自分の唇を重ねる。 「ん……」  優しく触れて、すぐに離れる。瞼を持ち上げると、視界いっぱいにこちらを見つめる久世の顔があった。 「直哉……」  今度は俺からキスをする。ちゅ、ちゅ、と啄むように何度も口づけると、久世の腕が躊躇いがちに俺の腰に回った。 「尊さん……」 「ん……直哉……」  柔らかい唇の感触が気持ちいい。体の中に、じりじりと熱が溜まっていく。堪らずもう一度、もっと深くキスがしたくて、久世に顔を近づけると、久世はビクリと震えた後、大袈裟に顔を背けた。 「すみません、これ以上は……!」 「……なんで?」 「え……」  いつもは、久世がそう言えば諦めていたが、今日は違う。自分の気持ちを素直に、ちゃんと話すと決めたのだ。  それでも拒まれたらどうしようとか、引かれたらどうしようとか、いろんな不安がぐるぐると胸に渦巻いていた。でも、さっきみたいに気まずい空気になってしまうよりはましなはずだ。決意を胸に口を開いた。 「なんで、駄目なの。俺、もっとしたい」 「尊さん……」  目を伏せて、久世の浴衣の合わせをぎゅっと握りしめる。声が震えそうになりながらも、俺は続ける。 「俺のことを、そういう目では見れない? こんなおじさんとは、したくない? ちゃんと言ってくれたらもうしない、だから……」 「そんなわけないじゃないですか!」  突然、久世が大きな声を出したので、ビクリと体が震えてしまった。 「す、すみません……違います。そんな誤解をされてたなんて思わなくて」  俺を怯えさせたと思って焦ったのか、おろおろと久世が言う。 「俺、最初に尊さんに、ちゃんと告白の返事も聞かないまま、先走ってキスをしてしまったので……もう絶対暴走しないようにって、ずっと我慢していて」 「え……」 「尊さんから許可をもらえるまで、キス以上のことはしないって決めてたんです。ごめんなさい、そのせいで不安にさせてたなんて気づきませんでした」  必死な様子の久世の言葉に、ぱちぱちと目を瞬かせる。 「……じゃあ、直哉は俺と、エッチしたくないわけじゃ、ない?」 「めちゃくちゃしたいです……なんですかエッチって……かわいいこと言わないでください」  苦しげな声でそう言って、痛いくらい俺をぎゅうっと抱き締めてくれる。 「よかった……」  ずっと悩んでいたことが誤解だと分かって、つい気が緩み、堪えきれずに涙がこぼれてしまう。俺の涙を見た久世が、ぎょっとしたようにまた焦り始めた。 「尊さん、すみません、本当にすみません。また泣かせた……ごめんなさい」 「ん………」 「ごめんなさい、すみません……俺が幸せにするって言ったのに、また……」  俺の涙を指で優しく拭いながら、久世の方が泣きそうな顔になってしまった。  久世は、優しい。優しすぎて、時々ちょっとズレていると思うくらいに。どうやら今回も、久世が色々気を遣ってくれたおかげで、俺たちはお互いに変な誤解をしていたみたいだ。  ……考えていたら、おかしくなって、泣きながらふっと笑ってしまった。さっきまで口にするのが恥ずかしかった本音が、安心したせいか、するすると口から出てくる。 「一緒に露天風呂入ってくれなくて、寂しかった」 「……っ、すみません、あなたの裸なんて見たら、我慢できる自信がなかったので」 「いつもキスだけで終わっちゃって、俺じゃそういう気になれないのかなって、すごい悩んだし」 「すみません、本当にごめんなさい」 「っ、なあ、直哉……謝るだけじゃなくて」  久世の浴衣の合わせを、つんと引っ張る。 「早く、しよう……キスの続き」  自分からこんなことを言うなんて、恥ずかしさで真っ赤になってしまう。ここまで言って拒絶されたら、もう立ち直れないかもしれない。 「ん……っ!」  だが、そんな心配は杞憂だった。ぶつかるような勢いで俺の唇を塞いだ久世は、すぐに舌を口の中へ挿し込んできた。熱くて、艶かしい感触の久世の舌は、これまでの我慢を思わせるような激しさで俺の口の中をまさぐった。 「んむ……っ、ん、ぅ」  ずっとこんな風に求めてほしかった。久世の激しさに応えるように、俺も舌を絡める。  ざらついた粘膜が擦れ合って、痺れるような快感が走った。あまりの気持ちよさに、体が震えてしまう。 「はぁ……なおや……」  ほんの少しだってもう、離れていたくない。キスの合間に名前を呼んで、久世の頭を手で引き寄せる。唾液が混ざり合って、飲みきれなかった分が口の端からこぼれ落ちる。 「ん、んぅ……っ、ん、ぁ」 「……っ、はぁ、尊さん」  久世が余裕なく俺を呼ぶ声に興奮を煽られた。下半身がジンジンと痺れるみたいに熱を持っていく。  好きだ。大好き。今はもう、久世のことしか考えられない。 「ん……っ、直哉、もっと」  久世の手を取って、自分の浴衣の合わせに導く。素肌に触れさせると、久世の手は一度ビクリと震えた後、俺の素肌を滑って浴衣をはだけさせた。 「ぁ、ん……っ、んぅ」  キスを続けたまま、浴衣を脱がされた体を久世に密着させる。久世の指が俺の腰をなぞって、そのまま性急な手つきで帯を解いた。 「あ……っ!」  唇を離れた久世は俺の耳元へ擦り寄った。耳の下の敏感な部分へ軽く口づけて、耳たぶを柔く噛まれる。 「あっ、ん」 「かわいい……尊さん」  うっとりした口調で囁かれて、ゾクゾクと体が甘く痺れた。久世の口から紡がれる「可愛い」がもっとほしかった。 「直哉ぁ……っ」  俺の呼びかけに呼応するように、久世の手が下半身へ向かう。膨らんだ下着の股間部分をするりと撫でられ、腰がビクビクと震えてしまった。 「んぁっ、ン、あ」  快感で思考が蕩けそうになりながら、俺も夢中で久世の下半身へ手を伸ばした。 「っ」  久世の下半身の俺と同じ場所も、ちゃんと張り詰めて硬くなっている。その反応が嬉しくて、ますます興奮してしまう。  ボクサーパンツの張り詰めた先が冷たく湿っていた。指でその部分をスリスリと擦るように撫でると、久世の腰がぶるりと震えて反応した。湿った吐息が耳元に注がれる。 「はぁ……っ、尊さん、好きです」 「ん……俺も、好き……んっ、ぁ」  無意識に腰を揺らして、久世の手に自分の硬くなったそれを擦り付けてしまう。ぎゅう、と久世の肩に手を回して、しがみつくように抱き締めた。 「んむぅ……んっ、ぅ」  久世の唇がまた俺の唇を塞ぐ。すぐに舌が伸びてきて、激しく絡み合う。 「んっ、ン、はぁ……、んんっ」  夢中で口づけを交わす間に、久世の手が下着の中へ滑り込んできた。素手で性器を掴まれて、そのままゆるゆると扱かれる。直接的な刺激に、まるで電流が流れるような快感が走った。  気持ちいい。それに、信じられない。あの久世が、俺のそんなところを触っているなんて。  職場で机を並べて、いつも淡々と仕事をこなす久世の綺麗な長い指が、俺のはしたなく欲望を滾らせた股間に触れている。堪らない背徳感がゾクゾクと背筋を駆け抜ける。 「直哉……、なおや、気持ちいい……!」 「尊さん……尊さん」  切羽詰まったように俺を呼ぶ久世の下着の中に手を滑り込ませて、俺も直接触れる。生々しく、浮き出た血管の筋まで指先で感じられるほどに、硬くビクビクと震える凶暴なそれは、太さも長さも、俺のより一回り以上も大きい。こんなものが俺の中に入ったらどうなってしまうのか。考えると恐ろしいような、興奮するような。  久世の手はだんだんと激しくなり、グチュグチュと音を立てて俺の股間を扱いている。気持ちよさに身を任せながら、夢中でキスをした。伸びてきた久世の舌に自分の舌を絡めて、激しく唾液を絡ませる。 「んむ……っ、んっ、イく、イきそ……っ、あ、ああぁぁ!」  やがて訪れた絶頂に、ビクッと体が跳ねて、背中がのけぞる。何度も震えながら、久世の手の中に欲望を吐き出す。 「あっ……ぁ、ん、はぁ」  自分でするより、ずっと気持ちいい。あまりの気持ちよさに放心しながら、それでも久世とのキスを止めない。  吐精が終わってもなお、久世は俺が吐き出した白濁の液体を塗り広げるように手を動かした。 「んん……っ、ん、ぁ、だめ……っ」  イッたばかりのそこを刺激されるのはつらい。俺がそっと手を添えると、久世は抗うことなく俺のそこから手を放してくれる。 「尊さん……かわいい」 「ん……っ、ん、待って、直哉も」  久世は俺の顔中にちゅ、ちゅ、と触れるだけのキスをしていた。擽ったいそのキスに肩を竦めながら、ゆっくりと布団の中で体を起こす。さっき下着の中に吐き出した液体がぐちゅ、と潰れる感触がしたが、構っていられない。 「尊さん……?」  不思議そうにする久世の足元へ下がって、膝あたりに跨る。その体勢のまま、久世の浴衣の帯をほどいて、前が膨らんだ下着の位置をずらした。 「!」  勢いよくぶるんと飛び出した久世の性器が現れる。 「た、尊さん……!」  焦ったような久世の手が、ずらされた下着を戻そうとした。再び隠されてしまう前に、意を決して、滾った久世のそれに顔を近づける。 「……っ」  久世がこちらを凝視しながら息を呑む気配がした。近づくだけで、むわりと熱気を感じるほどに反り立ったそれは、クールな印象の久世からは考えられないほどに凶暴だ。赤黒く、血管が浮き出て、ビクビクと震えている。  すごい……これが久世の……ずっと隣に座って仕事をしていた彼が、こんなものを隠していただなんて、ただの仕事仲間であれば知る由もない。特別な関係になったんだと実感して、体の奥がズクンと疼く。  躊躇いながらも、口を開けて、その先端を口に含む。 「ん……むぅ」 「‼︎」  先っぽに滲んだ液体が、舌の上にじわりと広がってしょっぱい味を感じる。そのまま舌を這わせるようにして、反り立った股間を口の中に飲み込んでいく。 「……っ、刺激が強すぎる……!」  久世が何か言いながら天を仰いだが、生憎よく聞こえない。 「ん……はおや、はに?」 「何でもないです!」  久世のものがあまりにも大きいので、咥えたままでは上手く喋れなかった。太くて、長くて、硬くい。とても俺の口には収まらない。 「ん、んっ……むぅ、んむ」  じゅ、と吸い上げながら首を動かす。久世の手が俺の後頭部へ、撫でるように優しく添えられた。 「ん……」  咥えたまま久世の顔を見上げる。余裕のなさそうな表情で、こちらを見下ろす久世と目が合った。口に咥えた久世の性器が、ムクリとまた一回り大きくなったような気がした。 「んっ、ん……っ、はぁ、……んむ」 「……っ、……尊さん」  全部は口に収まらない久世の性器の、根本を支えるように手で握る。首を上下に動かして口淫しながら、手を動かして同時に刺激する。  舌を動かして口の中で先端をなぶった。久世の腰がビクッと大きく震える。俺の後頭部に添えられた手が、少し離れてぐっと拳を握る。 「イきそう……っ、尊さん、放して……!」  久世が達しそうだと分かり、俺は口や手の動きを一層激しくして彼を追い詰めた。 「尊さん⁉︎ ……っ、く……!」  苦しげな呻き声と一緒に、口に咥えたものが一瞬、更に大きく膨らむ。次の瞬間先端から勢いよくビュッと粘性の液体が噴き出して、俺の口の中を満たした。 「……っ、ぅ……っ、すみません……!」  おそらく俺を引き離そうとして、久世の両手が俺の頭を掴んだが、その手は力無く震えるだけで、射精の衝動に抗えないみたいだった。 「ん……」  吐精が終わるまで待ち、完全におさまった後でゆっくりそれを口から引き抜く。口から液体をこぼさないように気をつけて、久世から離れると、口の中に残ったそれをゴクリと飲み下した。 「尊さん……⁉︎」  寝転んでいた体を起こし、信じられないと言うように久世が俺を呼んだ。久世の着ていた浴衣は、俺が帯を解いたせいで、その肩からハラリと落ち、彼の上半身が露わになった。  鍛えているような印象はなかったけれど、久世はそれなりに逞しく、いい体つきをしていた。六つに割れた腹筋や、筋肉の凹凸で盛り上がった二の腕が見えて、その色気に、思わず見惚れてしまう。 「直哉……」  久世の上に跨ったまま、体をくっつけて、キスを強請った。その逞しい腕で俺を抱き締めて欲しかった。  俺の気持ちに応えるように、久世は俺の唇へ自分の唇を重ねると、腰に腕を回して俺を抱き寄せた。 「ん……っ、ん、む」  激しく舌が絡み合う。密着した下半身の、お互いの中心部分が、また硬く昂っていくのが分かる。 「ん……なおや……好き。大好き」  気持ちいい。蕩けた思考でそんなことを口走る。 「俺も、好きです……尊さん。大好きです」  うっとりと、熱に浮かされたような様子で、久世も気持ちを返してくれる。久世の長い指先が、俺の腰や臀部を撫で回すように蠢いた。  明らかに性的な動きをする彼の手に、久世にもちゃんと性欲があったんだと実感して、嬉しく思った。したい。久世とセックスがしたい。ここ最近、ずっと焦らされてばかりで満たされなかった欲望が、今にも破裂しそうに膨らんでいく。 「直哉……なおや、んぅ……んっ、む」 「……っ、あの、尊さん……⁉︎」  キスをしながら、ぐいぐいと久世の体を布団に押し倒す。再び硬くなって膨らんだ久世の下着の上で、無意識に腰が揺れてしまう。 「なおやぁ……っ、あ、ん」  したい……でも、口に出すのはやはり、恥ずかしい。でもしたい。自分の欲望を止められない。お願いだから、直哉、気づいて。  逞しい胸板の上できゅっと拳を握って、懇願するように久世を見上げる。久世は興奮しきった目でゴクリと喉を鳴らすと、その手をいよいよ俺の下着にかけて、するりとそれを脱がせてくれた。 「ん……!」  久世が風呂へ行っている間に、少しだけ期待して、準備をしている。久世の指が俺の尻の隙間に入ると、ローションで濡れたそこはぬるりと滑って彼の指を窄まりへ導いた。 「ぁん……!」  穴の中に久世の指が入ってくる。自分の指じゃないものが、そこへ侵入するのは久しぶりのことだった。痺れるほどに気持ちがいい。興奮しながら、夢中で首を伸ばして久世に口づける。 「ふ……っ、ん、むぅ……はぁ」  体が熱い。疼いて仕方がない。中で蠢く久世の指だって気持ちいいけれど、それだけじゃまだ足りない。もっと熱くて太いもので突いてほしかった。お互いの体が繋がって、他の何も考えられなくなるような、体も心も満たされる、あの苦おしいほどの衝動を感じたかった。 「んん……っ、直哉……!」  どうやって誘えばいいかなんて分からなかったけれど、考えるより先に、体が動いてしまう。ぎゅっとしがみつくように久世に抱きついて、腰を揺らして下半身を擦りつける。 「入れて……直哉の……っ、はぁ……お願い、俺の中、入れて」 「……っ、尊さん……!」  こんな風に自分から誘うなんて初めてのことだ。断られたら、今度こそ立ち直れる気がしなかった。  久世がガバリと体を起こして、キスをしながら、俺を反対側に押し倒す。その目がギラギラと滾っていることに、自分の誘惑が通じたのだと分かって、胸に泣きたいほどの安堵が広がった。 「ん……ん、ぅ」  唾液を交換するような激しいキスをした後、久世はどこからか取り出したゴムを自身の性器に被せた。そんなものを用意しているあたり、やっぱり久世も俺と同じ気持ちだったんだと分かって、安堵の他にも愛おしく思う気持ちがあふれた。  もどかしく待っていたら、準備を終えた久世が俺の膝裏を掬って、高く持ち上げた。曝け出された穴に、先ほどゴムを被せた久世の性器の先端が押し付けられる。 「あ……!」  期待と興奮で、ゾクゾクと背筋が震える。待ち兼ねたそれが、やっと、俺の中に侵入してくる。 「あ、あ……っ、ん」  自分の指なんかでは到底感じられなかった、圧倒的な質量が俺の中を埋めていく。苦しい、息ができないくらい、気持ちいい……っ 「んぅ……っ!」  ぐ、と久世の腰が俺の尻に当たるくらい、奥まで突っ込まれて、体がガクガクと痙攣するほどの快感に支配される。 「あ……、あっ、はぁ」  意識が飛びそうな気持ちよさに恍惚としながら、俺の脚を持ち上げて、興奮した表情で俺を見下ろしている久世を見つめた。 「……っ」  同じ職場で働く真面目な彼の、こんな顔を見る日が来るなんて考えたこともなかった。髪を乱し、額に汗を浮かべて、欲情した目で俺を見下ろす久世は、壮絶な色気を放っていた。あまりにも非現実的なその光景を意識すると、それだけで背筋をゾクゾクと甘い痺れが駆け抜ける。もう、たまらない。 「直哉ぁ……っ、動いて」 「尊さん……っ」  俺の言葉に応えて、久世が腰を動かす。体の中で圧倒的な存在感を放つそれが抜けていき、次の瞬間、ぐぐっと奥を突かれる。体中が痺れるような快感が走る。 「あぁ……っ、あっ、ん」  気持ちいい、気持ちいいっ、何も考えられない。次々に襲い来る快感で、頭の中が真っ白になっていく。怖いくらい快感の波が次々と押し寄せる。 「あっ、はぁ……っ、あっ、あ、ん」  自分でも制御できない、はしたない嬌声を上げてしまう。自分が今、どんな顔で喘いでいるのか分からない。きっと蕩けきっただらしない顔をしている。見られるのが恥ずかしくて、両腕で自分の顔を隠した。 「あ、イく……っ、直哉! イくぅっ、あぁっ、ああぁぁっ!」  弓なりに仰け反って、背中が布団から浮いてしまう。ガクガクと激しく体が震える。空イキなんて久々で、そのまま意識がどこかへ飛んでいってしまいそうだった。 「あぁっ、あ、あ……っ、ん、ぁ」  俺がイッても、まだ久世のものは硬いまま、俺の中にあった。その感触が生々しく、気持ちよくて、イッた後もずっと気持ちいい。 「んぅ……」  まだ、ずっとこの快感に溺れていたい。うっとりと余韻に浸っていると、俺の気持ちとは裏腹に、久世は自分の性器を俺の中からずるりと引き抜いてしまった。 「ん……っ、あ、直哉、まだ……」  まだ、もっとしてほしい。もっと突いて。自分から抜けていくそれを引き留めたくて、切なく手を伸ばす。 「ん……」  伸ばされた俺の手を取った久世は、一度俺にキスをしてねっとりと舌を絡めると、俺の体をゆっくり反転させた。後ろから、もう一度俺の尻に自身の先端を当てて、ぐっと押しつけてくる。 「んぁ……っ!」  さっきと違う体勢、違う角度で俺の中を貫く久世の感触に、堪えきれない快感が押し寄せる。ずぶずぶと久世のものが俺の中へ飲み込まれていくたび、口から嬌声が漏れるのを止められない。 「はぁ……っ、あ、んっ」 「尊さん……尊さん」  熱に浮かされたような口調で、久世が俺の名前を呼ぶ。後ろから抱擁するように俺の背中へぴったりとくっついた久世は、俺の肩脚を手で持ち上げて、激しく腰を打ちつけた。 「あっ、あっ、はぁ、直哉……っ」  肩越しに振り向いた唇に、久世の唇が重なる。 「んむぅ……、んっ、ん、ぁ」  夢中で舌を絡め合う。触れ合う素肌の、汗でしっとりと湿った感触すらも気持ちいい。 「あ……っ、また来る、きちゃう、直哉っ、なおや、気持ちいい……っ」 「尊さん……っ、はぁ、俺も……っ」  俺を揺さぶる久世のその必死な様子に、胸がきゅんと鳴る。こんな俺にも、久世はちゃんと欲情して、快感を感じてくれているんだと思うと嬉しかった。 「っ、ん……! あぁっ、ああぁぁ!」  再び体が痺れるような激しい快感に支配され、身を震わせる。 「……っく」  久世が苦しげに呻いて、俺の中で欲望を吐き出した。ビクッ、ビクッと震えて、スキン越しに久世の性器が脈動するのが分かる。 「んぅ……ん、なおや……」  達してもまだ繋がったまま、肩越しにキスをする。額に汗を浮かべて、切なそうに、余裕のない瞳でこちらを見る久世の表情を目の当たりにすると、また胸がきゅんとときめいた。 「直哉……」  今度こそ久世の性器がずるりと俺から引き抜かれた後も、離れたくなくて、久世の胸に顔を埋めてぴたりと寄り添う。背中に回った久世の腕でぎゅっと抱き締められると、それだけで心が満たされた。  この夜が終わってほしくないと思った。もしかしたら、俺の残りの人生で、今が一番幸せな時間かもしれないから。  シャワーで汗を流した後、さっき一人で入った露天風呂の樽桶に、今度は二人で入る。男二人で入るには少し狭い湯船から、大量の湯があふれザバリと水音を鳴らした。 「はぁ……」  湯船の中で体を落ち着ける頃には、辺りは夜の静けさに包まれた。湯口から湯の流れ落ちる微かな音と、遠くから聞こえる波音以外には、何の音もない。  隣で寄り添うように湯船に浸かる久世を見た。濡れた髪を掻き上げる仕草に、あまり久世の印象にないワイルドさを感じて、ドキリとする。ついまじまじと見つめてしまって、俺の視線に気づいた久世が眉根を寄せた。 「何ですか」 「いや……直哉がかっこよくて、見惚れてた」 「……!」  正直に白状すると、久世は驚いたように目を丸くした後、気恥ずかしそうに視線を逸らした。 「そうですか。ありがとうございます」 「うん……」  初めての行為の後で、少しだけ恥ずかしいような、何とも言えない空気が漂う。寄り添う久世の体に視線をずらすと、湯船の中にさっき驚いた久世の立派な腹筋が見えた。思わず、今度はそちらをまじまじと見つめてしまう。 「……尊さん?」 「え? ……あっ、ごめん。つい」  咎めるような久世の声に、慌てて視線を戻す。 「意外と鍛えてるなぁと思って……あんまりそんなイメージなかったから」 「……尊さんは、どっちが好きですか」 「え?」 「鍛えてる男と、鍛えてない男」  急に真面目な顔で尋ねてくるので、たじろいでしまう。 「え、えぇ……別に、どっちとかないよ。そりゃ、鍛えてる人がいたら、つい見ちゃうくらいはあるけど」  俺自身、脂肪もつかない代わりに筋肉もつきにくい体なので、ガタイのいい鍛え抜かれた体に憧れはある。好きというよりは、単純に羨ましいので、見てしまうというだけだ。 「……尊さんの前の恋人は、鍛えてるって聞きました」 「え⁉︎」 「生徒が話してたんです。神部先生はマッチョのイケメンと付き合ってるって」 「ええ⁉︎」  久世がとんでもないことを言い出したので、驚きのあまり寄り添っていた体を離す。生徒が、話してた? 俺の前の恋人って、貴弘のことか⁉︎  彼氏がいるってバレてるのは知ってたけど、そこまで知られているなんて。一体どこの誰が広めたんだ、なんだマッチョのイケメンって!  久世は不満そうに俺を睨んでいる。責められているような気がして、慌てて口を開く。 「いや、別に、マッチョが好きだから付き合ってたわけじゃないし……! い、イケメンかどうかも、人の好みによるし……?」  確かに貴弘はジムトレーナーらしく、鍛え抜かれた理想的な体つきをしていたが、別にそこに惚れ込んで付き合っていたわけではない。俺が言い訳をしている間も、久世はムスッとした表情を浮かべている。 「もしかして、直哉、嫉妬してる……?」 「………」  図星の反応だった。何だそれ、可愛い。十も年下の彼が、俺なんかの元恋人に嫉妬して、拗ねてるのか。しかもあの、俺に対していつも素っ気なくて塩対応だった、久世が! 「悪いですか。仕方ないでしょう。望みなんてないって分かってても、少しでもアンタの理想に近づきたかったんですよ」  投げやりな口調でそんなことを言う久世に、もうときめきが止まらなかった。真っ赤になってしまった俺を真剣な目で見つめて、久世が近づいてくる。 「……でも、鍛えておいてよかったです。尊さんの、そんな顔が見れたんで」 「そんな顔……⁉︎ どんな顔⁉︎」 「俺のことが好きっていう、可愛い顔」  至近距離でそんなことを言うものだから、俺の顔はますます赤くなる。久世は俺の頬を手のひらで包んで、そっと唇を寄せた。 「ん……っ」  ゆっくり、じっくりと、触れるだけのキスをされる。唇が離れると、久世は俺を熱のこもった瞳で見つめながら、囁いた。 「可愛い……」 「……っ」  堪らず口からこぼれ落ちたようなその言葉が、また俺の心を満たしていく。今は愛おしさそのものを表すようなそれが、いつか必ず終わる期限を持った言葉であるということを、俺はもう知っているのに。それでもやっぱり、嬉しいと思う気持ちを止められない。  目頭が熱くなり、このままだと泣いてしまいそうで、目を閉じてもう一度久世の唇に自分の唇を重ねた。久世の指先が俺のうなじをなぞり、そのまま後頭部を押さえて、口づけを深めていく。  久世は六年も俺を思い続けてくれていたという。俺に恋人がいると知っても、その恋人に嫉妬して、自分の体を鍛えようとするくらいに、熱烈な思いを抱いてくれていたのだ。  それなのに、きっと今は、俺の方がもっと久世のことを好きになっている。年齢差や見た目の不釣り合いを自覚していても、それでもなお、彼の気持ちを繋ぎ止めたいと願ってしまうほどに。少しでも長く、俺を、可愛いと思ってほしい。  他の誰にそう思われなくてもいい。好きな人にだけは。彼にだけは、どうしても。

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