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恋のキューピッド1

 ゲイだと自認したのは大学2年生のときだった。  それまでは誰かに対してはっきりとした好意を抱いたことがなく、友情と愛情の境目が分からないままだった。  この人のことが好きだなあと思ったことはあっても、人として尊敬しているだけなのか、特別な感情なのか違いが理解できず、友人だった女の子と付き合ったこともあった。  けれど、言葉にできない違和感が片隅にはあった。  徐々に大きくなったそれに戸惑い、もしかして、もしかして、と日々を重ねるうちに、一般的な恋人たちがお互いに抱く感情とは異なることに気づいた。  彼女に対して申し訳ない気持ちで切り出すと、「そうじゃないかなと思ってた」と寂しそうに笑い、でも決して責められることはなかった。  最後に言われた「自分に正直になったほうが良いよ」との言葉に背中を押され、どこかで否定してきた自分に素直に向き合ってみると、すとんと何かがはまった気がして、楽に呼吸ができるようになった。  かと言って、自分に特別な存在ができ、相手と愛を育めるかと言われたらまた別問題だけれど。この人のことが好きだ、という自分の気持ちを受け入れ、抱えられるようになったとは思う。  自認してから惹かれたのは、同じサークルの1つ上の先輩、大貫宗治郎(おおぬきそうじろう)さんだった。  笑うと目尻が優しく垂れ、この人が歩んできた人生がそこに表れているような気がして、いつも気にかけてくれるのも、たくさんの人に囲まれているのも、宗治郎さんの人柄ゆえだろうと、それにもときめいた。  (かえで)、と名前を呼ばれると、それだけで自分の名前が特別なものに思えたし、隣に並んで座るときは、時々当たる肩や、覗き込まれて近づく顔に、何度も胸が躍った。  自分を認めてあげると、こんなに世界が彩るのかと、そういうことも嬉しかった。  宗治郎さんは穏やかで、誰でも受け入れてくれるような大らかさを持ちながら、それでもしっかりと芯があり、人生を自分のペースで送れるような人だった。  周りが恋に浮かれているときでさえ、それが伝染することもなく、いつも自分のタイミングを大切にしていた。 「俺、ちゃんと相手を思いやれる余裕ができたときに、そういう存在ができたら良いなと思うんだよね。まあ、今後良いタイミングでそんな人が現れるかどうかも、俺がその人に選ばれるのかも分からないけどさ」  そういうところも本当に大好きだった。  宗治郎さんのタイミングではない今と、男である自分にたまらなく苦しくなるときもあった。それでもサークルで一緒に過ごす時間や、大学ですれ違ったときの軽い雑談、休日に出かける時間が宝物みたいだった。  でも必ず、そこには幼なじみの畠中莉乃(はたなかりの)がいて、宗治郎さんと僕で作りたかったペースをいつも乱されていた。 「宗ちゃんが今後良い人を見つけられなかったら、私と付き合おうよ。もう家族みたいなものだし、楽でいられるよ」 「なんでだよ」  「冗談を言うな」と笑う彼の肩に彼女が迷いなく手を回すことも、頬が当たるのではないかと思うくらいに近い距離感も、見るたびに自分の胸の中が黒くどんよりとしていたのを覚えている。  当たり前に触れられる関係性も、仮の話でも付き合おうと言えることも、何もかもが羨ましくて、そして大嫌いだった。  宗治郎さんは彼女の好意に何となく気づいているような気はしていたけれど、そういった素振りは見せず、いつも穏やかに笑っていた。  そんな彼に彼女は、あくまでも本気ではないよという感じで近くにいつつも、彼からの告白を待っているような印象だった。  手に入れられる立場にあるのに、宗治郎さんの隣をキープしながら、自分からは決していかないで、彼を試す言動ばかり。  彼に好意を向けているだろう女の子が近くにいるときだけ、特に彼との距離が明らかに近かった。    いかに自分が宗治郎さんのことを知っているのか語り、自分と彼だけの思い出を取り出しては僕たちの目の前に並べ、口角をあげていた。  過去に宗治郎さんとお付き合いしていた恋人にも、同じような対応をしていたと風の噂で聞いた。  だから、素直に応援できなかった。この人とは絶対にくっついてほしくないと思った。

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