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何が僕の幸せ5
熱を確かめ合った翌日、午前中は裸のままひたすらくっついて過ごし、昼食を食べるために外に出ることになった。
僕は近所の適当な店で済ませるつもりでいたけれど、楽はわざわざ電車で行くような店を指定した。
それだけでもどこか特別な感じだったのに、食事を終えて連れられた先は不動産だった。
……どういうこと?
店の前で状況を把握できずに立ち止まる僕の手を、楽が優しく引く。
出迎えてくれたスタッフは楽の名前を聞くと、ああ……! と知ったような反応をしていて、それにまた戸惑いながらも促されるまま椅子に座った。
「いくつかご提案できる物件がありますよ」
提示された部屋はどう見てもふたり暮らしの広さだった。
楽の家探しに付き合わされているわけではないし、ふたりで暮らす部屋を探しに来たってこと?
でもこういうのって、男性同士で借りるのは難しいんじゃ……?
楽もさすがにそれは分かっているはずなのにと思いながら彼に視線を向けると、大丈夫だよとでも言うように微笑まれた。
「山田 さんに、勝手に相談していたんだ」
楽にそう言われ、そのスタッフが山田ですと自己紹介をする。
「十川さんから、男性ふたりで住めるお部屋を紹介してほしいと以前から相談を受けていて、本日はその件で」
「え!?」
山田さんの言葉に驚き、座っている椅子からものすごい音がした。幸いにも相談に来ているのは僕たちだけだったけれど、動揺っぷりを見られて恥ずかしい。
以前からって……。
「楽、どういうこと?」
「楓さんと住みたくて」
「……っ!」
状況を飲み込むのに必死な僕を特に気にすることなく、楽と山田さんは話を続ける。
よく分からないままに隣で話を聞いていると、山田さん的に一番良い物件があり、あと少しで退去予定があるから内見ができるとのことだった。
「長く住むから、実際に見て決めたいよね」
「……え、あ、うん」
今日見に行ける部屋もあったけれど、僕も楽も山田さんのそのおすすめ物件が気に入ったから、後日また改めて紹介してもらえることになった。
「それではまた、お待ちしていますね」
頭を下げる山田さんが見えなくなったと同時に、僕は楽の腕を掴んで歩くのを引き止めた。
「ちょっとふわふわしてて……。何が起きてるんだろうって」
「昨日まで取り乱していた俺が言うのも変ですけど、ずっと考えていたんです。楓さんと一緒に住むこと」
嫌だった? と顔を覗き込まれ、僕はブンブンと首を横に振った。
「嫌とかではなくて、嬉しい驚きというか、本当に良いのって」
「良いも何も、俺がそうしたいんです」
ふっと微笑んだ楽は、自分で言うのは自惚れているようで嫌だけれど、これまでのどの瞬間よりも幸せそうに見えた。
「楽……幸せ?」
「当たり前じゃないですか。楓さんといて、幸せ以外にあると思う?」
「そっか」
「……楓さんは?」
「そんなの僕だって……、え……?」
楽と同じで幸せだよと、そう返事をしようと僕の目の前に、楽が鍵を差し出した。反射的に出した手にそれを乗せられる。
「一緒に住むまでまだ少しかかりそうだから、それ、もらってください」
その鍵が何か説明されなくてもすぐに分かった。……これは楽の部屋の鍵だ。
「……良いの!?」
「だから良いも何も、俺が持っててほしいんです」
ダメだと言われたとしても返す気がないくらい、その鍵を強く握りしめた僕を見て楽が笑う。
「う、嬉しい……。僕は何を返したら……。僕の鍵も渡すよ……!」
わざわざ作らなくても、予備の鍵が家にあったはずだ。
ああ、一緒に暮らせるかもしれないだけでも充分に嬉しいし、いつまででも待てるのに。その前にもこんなサプライズをしてもらえるなんて。
「じゃあ、それとは別にもう一つお願い聞いてもらってもいいですか」
緩む頬を押さえて喜ぶ僕を見て、楽がそう言った。これだけのことをしてもらったのだから、何でも言ってほしいと返せば、彼の目尻が優しく垂れる。
「俺を、最後の恋人にしてください」
「そんなの、当たり前じゃん! それなら僕だって、楽にそのまま同じ言葉を返すよ」
「ははっ、良かった」
どんなお願い事かと思えば、結局は僕も嬉しいものだし、僕からもお願いしたい内容だった。
楽ってばさっきからずるい。
今日はどれだけ僕をときめかせれば気が済むのか、僕は何も返せていないのにと、だんだんと拗ねるような気持ちになっていると、楽がまた穏やかに笑った。
「ふたりで幸せになりましょうね」
楽が僕の手を握り、空に向かって伸ばした。太陽の光がキラキラと僕らを照らす。
何が僕の幸せか。
やっぱり、僕にとっての幸せは楽といることで、それはこれからも変わらない。楽も同じだったらいいな。
「ふたりでなら、もう幸せだよ」
いつまでも、この幸せが続きますように。
END
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