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第14話 ロマンチックの前に
「よし!じゃあ、どこかロマンチックなところに行こう!」
タバトさんが早速立ち上がるのを、俺は慌てて止めた。
疑り深くてごめん。めんどくさい異世界人でごめん。
でもさ、ロマンチックなところで告白されちゃったら、俺、絶対流されちゃうよ。気になることがあっても、そんなのどうでもよくなって絶対に流される自信ある。だってロマンチックなところに行って、告白してもらって、俺が頷いたら、キスしてくれるんでしょ?
だって俺恋愛経験ないから。ひとかけらもないから。だからもちろんキスとかもしたことなくって。
「ソウ?どうしたの?」
「あのさ、その前に聞きたいことがあるんだ」
俺がタバトさんの腕を引っ張ると、タバトさんは座りなおしてくれた。
俺には確かめないといけないことが二つある。一つはたぶん大丈夫。だと思う。でもすごく大事なことだから、ちゃんと確かめた方がいい。
だって俺たちは常識とかそういう前提のものが全然違う異世界人同士だから。
「あのね、タバトさん。前、異世界人の願いは常に優先されるって言ってたでしょ?」
「うん」
「あのさ、タバトさんが俺の恋人になってくれるのって、俺の願いを叶えるためなの?俺がタバトさんのことが好きだから恋人になってくれるの?」
タバトさんは首を傾げた。
「ええと?ソウの願いはいつでもどんなことでも叶えたいと思っているよ。ソウが俺のことを好きだから、恋人同士になれるのが嬉しいよ」
うーん。いまいち通じてない。
「ええとね、タバトさんは俺のことが好きじゃないのに、俺の願いだから恋人になってくれるの?」
「ソウのことは好きだよ!大好きだよ!」
「ほんとに?俺の幸せが国の豊穣にかかわっているからそれでそんなこと言っているんじゃないの?」
「それは違う」
タバトさんが急に真剣な顔になった。
真面目な顔になって、しばらく何か言いにくそうにしていて、それから低い声でぼそぼそ話しだした。
「ごめん。俺はソウの担当者として失格だけれども、俺はソウに合うような素敵な男を探さなかった。本当はソウの幸せを一番に考えないといけないのに、でも俺がソウの恋人になりたかったから。もちろんソウに振られたら、ちゃんとソウに合いそうな男を探すつもりだったよ。だけど今は探してない。あと、ごめん。それどころかソウのことを好きそうな男がソウに近づくのを邪魔したりも結構してた」
意外なことを言われて驚いてしまった。
タバトさんは職務に忠実な人だと思ってた。俺の幸せをいつも一番に考えてくれて、なんでも解決してくれてた。
でもたしかに俺は素敵な恋人候補を紹介してもらっていない。他のことはあんなに早く何でもしてくれたのに。
そっか。そうなんだ。
俺はタバトさんの独占欲を知ってにまにましてしまった。
「俺は、ソウのことが大好きだよ。大好きだ。ソウの恋人は俺じゃないと嫌だって思ってたし、ソウのことは俺が幸せにするって思ってた。って、でもこれ、ここで言ってよかったの?ロマンチックなところに行ってからじゃないの?」
「ロマンチックなところに行ってからもう一回言って!」
「うん、何回でも言うよ!」
タバトさんは俺の手を握ってくれた。手が大きくて温かくて俺はどきどきした。
「じゃあさ、なんで俺が好きなの?俺が異世界人だから好きなの?それとも俺自身が好きなの?」
タバトさんが首を傾げた。
「ええと、ソウは異世界人だから、ソウ自身も異世界人だと思うけども」
ああ、やっぱり通じてない。
でも俺はもうあきらめない。通じなくても絶対にあきらめない。さっき怒った時に異世界人の心の扉は内側からバーンと開いて開きっぱなしになってしまった。
もう閉じない。
俺はこの世界で生きていくんだから、心の扉は開けっ放しにしておくんだ。
「俺が異世界人でなくても俺が好き?ほかに異世界人がいたらその人を好きになる?」
「ええと?ソウは異世界人だから。ほかに異世界人はいないし」
「俺が異世界人だから好きなの?俺のどこが好きなの?異世界人だってところ?顔?性格?どこ?」
「ええと。俺がソウのどこに惹かれたかを言えばいいの?」
俺は深く頷いた。
「異世界人だから好きって理由は嫌だって思っているってことで合ってる?」
合ってる!俺はもう一度頷いた。
「ええとね、顔は好きだよ。かわいくてとても綺麗だ。さらさらした黒髪で、吸い込まれそうな黒い瞳で。でも、黒髪と黒い瞳はソウが異世界人だからだとは思うけど。顔立ちもとても上品で優しくてかわいらしくて大好きだよ。でもこの世界の顔立ちとは違うから、それは異世界人だからだとは思う」
タバトさんがゆっくりゆっくり考えながら答えてくれる。
「ソウを一番最初に好きだって思ったのは、ええと、俺がソウを保護しに行ったとき、ソウが石畳の道が歩きにくそうで、それで俺が手を貸したら、嬉しそうにつかまってくれて、そのとき、すごくかわいいな、好きだなって思ったけれども、でも石畳の道に慣れていなくて歩きにくいのは、ソウが異世界人だからで」
タバトさんの顔がだんだん曇っていく。
「性格も大好きだよ。ソウがフランツを学校に行かせたいって言いだした時、ソウの優しさを感じたし、でもこの世界のやり方全部を変えるつもりはないんだって言ってくれた時に、考えの深さとか、やさしさとか、この世界の人たちを尊重してくれる気持ちとかがわかって、それですごく好きだって思って、でも、あの、子どもが学校に行けないのがおかしいってソウが考えるのは、ソウが異世界人だからで」
俺はタバトさんにそんな最初から好きだって思われていたことが嬉しくてたまらなかったけれども、タバトさんはだんだんうつむいてきてしまった。
「ソウはとても繊細で、いろんなことをたくさん考えている。とても弱くてとても儚い。馬が怖いし火も怖いし人が大勢なのも怖いし、他にも怖いものがいっぱいある。でもすごく前向きですごく強い。いっぱいいろんなことを考えていて、俺に何とか伝えようとしてくれる。前向きでたくましくてすごく素敵だ。でも馬が怖いのも火が怖いのも異世界人だからで、ソウがギターを弾いてくれるのも歌ってくれるのも大好きで、でもギターを弾けるのも、ソウが異世界人だからで。あのさ、あの、俺がソウのことを好きな理由は、ソウが異世界人だからばっかりなんだけど、ダメ?嫌い?」
タバトさんが、俺の顔色を窺うようにそっと俺を見た。
かわいい。こんな風に自信がないタバトさんは初めて見る。タバトさんはいつだって自信満々で、それでいつも俺の望みを叶えてくれるかっこいい人だった。
でもかわいいタバトさんも大好きだ!
「ううん、大好き。俺、タバトさんが大好き!」
タバトさんががばっと顔を上げて俺を見た。
「異世界人だから好きなのに?」
「だって俺は異世界人だから」
タバトさんはちょっとだけ首を傾げたけれども、すぐに満面の笑みになってくれた。
タバトさんはちょっと単純だと思う。というかこの世界の人たちは全員元の世界の人たちよりもずっと単純だ。細かいことは気にしない。俺がさっき言ったことと違うことを言っていても、まあいっか。だってソウは俺のことが好きみたいだしって感じですぐに納得してくれる。
なのにこの俺の、複雑でめんどくさい部分を理解しようとしてくれる。それが嬉しくてたまらなかった。
「あのさ、ソウ。キスは、ここではダメ?ロマンチックなところでやり直すから、ここでしてもいい?」
タバトさんの水色の瞳が俺をじっと見つめてくる。俺の大事な恋愛妄想より、目の前のキスの誘惑のほうがずっと大きかった。
それにやり直しもしてくれるから。
俺は頷いて目を閉じた。
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