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第31話 その後の話

俺はなんだかんだありながら、結局はこの世界が大好きになった。 この世界にやってきて6年もたっていて、それでもまだ、あの漫画の続きどうなったんだろうって思ったり、夜中にお腹空いたときにあー、コンビニってマジコンビニエンスだったわって思ったり、細かいことで言ったらこの世界のタオルってちょっとごわごわしてて、タオルっていうかちょっとバスマットみたいな手触りだから、今治タオルが懐かしいなあって思ったり、結構未練がましい気持ちはあるけれども、でもこの世界にはこの世界のいいところがいっぱいあって、俺はそれが心から好きになったから、もうずっとこの世界で幸せに生きていこうと思う。 ロナルド君たちとは友達関係が続いていて、俺がロックバンドの話なんかを雑談でしたから、みんな見よう見まねでドラムを作ってみたり、ピアノやトランペット(というかラッパ)や見たことのない弦楽器を組み合わせてみたりして、ほんとに謎の、どこの世界の音楽でもない音楽ができて、それを広場で演奏して、投げ銭はいっぱいもらったけど、ちょっとうるさいって市長さんに怒られた。(街はずれの空き地ならいいって許可が下りたから時々そこでロックライブ?をしている) リヒト君は同性の恋人がいる友達として本当に貴重な存在で、俺のエッチの師匠様としてなんでも教えてくれる。俺、あのすごい初体験のあと、これは本当にこれでいいんだろうか。気持ちよすぎて死んじゃうか頭がおかしくなっちゃうんじゃないかって怖くなって、リヒト君に洗いざらい説明して、本当に大丈夫なのか確かめてしまった。 いつも冷静なリヒト君はなぜか息ができなくなるほど笑ってて、そっちも心配になってしまったけれども、それは普通のことだから大丈夫だと太鼓判を押してくれて、俺は頭がおかしくなる心配をせずにタバトさんとのそういう行為を楽しむことができた。 そしてわかったけれども、リヒト君の言う通り頭はおかしくなっていないし、俺もしばらくしたらエッチの翌日から普通の顔をして人に会ったり話したりできるようになった。 タバトさんはずっとタバトさんのままだった。フランツ君なんかは俺と一緒にいすぎたせいか、行動や考え方そのものが、異世界人寄りになってきてしまって、この世界の人たちから、気難しいとか何考えてるのかわからないとか言われてしまっているけれども、タバトさんは単純で強引なままだった。 漫画の続きが読みたいと言ったら、王都一の画家を連れてきてしまいそうになったり、夜中のコンビニに行く楽しさを話したら、知り合いのお店に頼んで、わざわざ夜中に店を開けてもらったり、タバトさんがあまりにも強引に俺の望みをなんでも叶えようとするから、俺はあんまり望みを口にしないように気を付けなくてはならなかった。 でも俺のロマンチック思考回路をしっかりと理解してくれて、異世界人取扱説明書のロマンチックの章をめちゃくちゃしっかり読み込んでくれたのか、結婚式は信じられないほどロマンチックだった。 王都一の仕立て屋さんでタバトさんと俺の衣装を仕立ててくれるところから始まって、王立植物園を貸し切ってのガーデンパーティー、その後の王族御用達のレストランでの食事会、サプライズゲスト!?として王様の登場!! っていう異世界でなければ絶対にできない奇跡のロマンチック結婚式を開いてくれた。 王様はもともと俺の音楽が聴きたかったけれども、お忍びで広場に行く時間が取れなくて、王宮横のレストランなら来れるってことで来てくれたんだって。それで俺は何曲か披露して、王様が喜んでくれて、それもすっごく嬉しかった。 タバトさんは問題の解決方法は強引だけれども、日々の中では全然強引じゃなかった。 俺たちは結婚したのに、しばらくは別々に暮らしていた。なんとなく踏ん切りがつかなくて、毎日タバトさんと一緒に暮らすことが想像できなくて。 それでしばらくしてようやく俺はタバトさんとずっと一緒にいたいなって思うようになって、そうしたらタバトさんは、この世界ではありえない、プライバシー完備個室つきの家を準備してくれたんだ。 二人の寝室のほかに、俺だけが過ごすための部屋を作ってくれて、そこにはテーブルも椅子もソファも、ギターもバイオリンも全部あって、しかもベッドもあった。 夫婦や恋人同士でなくても同じ部屋や同じベッドで寝るのが普通のこの世界で、この家は異常だと思う。家を建ててくれる人たちもみんな変な顔をしていた。 そもそも二人だけで住む前提の家がおかしいんだから、不思議がって当然だと思う。 でもタバトさんは当たり前のようにその変な家を用意してくれて、俺は時々本当に自分だけの部屋にこもって過ごしたりした。 タバトさんのことはすごく好きだし、この世界の大勢でわいわいにもなじんできたけれども、でも一人で過ごす時間も大切で。 でもタバトさんは本当には理解していないけれども、いつも俺を尊重してくれる。 それが嬉しくて、一人の部屋で過ごす幸せとタバトさんと二人で過ごす幸せと、両方をかみしめて毎日を生きている。 フランツ君は立派な青年になった。 途中から入った幼年学校だけれども、10歳から15歳まで5年間通うところを、フランツ君は12歳から15歳までの3年間で卒業した。しかも首席だった。 だったら高等学校にも行きなよって言ったんだ。 俺は幼年学校は小学校、高等学校は中学校くらいの気持ちでいたから、だったら15歳から18歳までの中学校も通っておいた方がいいだろうって思ったんだけれども、たぶん本当は違ったみたいで、義務教育的なのは幼年学校だけで、その後の高等学校は高校と言うかむしろ大学や専門学校に近いらしくて、フランツ君にはものすごく驚かれた。 でも幼年学校で首席だったんだから高等学校だって行ってもいいと思う。 フランツ君は思慮深くて賢いから高等学校で学んだら、きっとなにかフランツ君がしたい仕事に就いて、この世界の役に立つ人間になれると思ったし。 フランツ君は高等学校に入学したころには俺の背を抜いてしまって、声も低くなって、あまり笑わなくなったけれども、でもいつでも俺の気持ちを分かってくれる優しいフランツ君のままだった。 俺のお世話係も継続して続けてくれて、俺がタバトさんと一緒に住み始めてからも、食事やお風呂の準備に来てくれていた。 でも、今日でそれもおしまい。 フランツ君は無事に高等学校を首席で卒業して、卒業後の仕事ももう決まっているから、俺の家でのお世話係は今日でもう終わりなんだ。 俺は結局火が怖いのが克服できなかったから、お世話係は必要なままで、でももう新しいお世話係は決まっている。フランツ君みたいに賢い子どもで、フランツ君と同じように学校に行きながら俺の家で働いてくれる。 児童労働反対派なのに、結局俺はお世話係に子どもを指名した。しかも俺の歌ってみたやロックライブのお手伝いとしても子どもに働いてもらっている。 元の世界の人たちが見たら信じられないと思うだろうけれども、俺もそう思うけれども、俺のお世話係やお手伝いとして働きながらでも、学校に行ける子が増えるといいなって、そう思ってしまって。それで俺は悩みながらも子どもを働かせる悪い大人になることにした。 それに、ごめんだけど、子どもの方が感覚が柔軟なんだ。大人はやっぱり考え方とか価値観がかたまっているから、俺の元の世界から引きずっている価値観や感じ方が理解できない人が多くて、理解できないまま合わせるってのも、重なってくると難しいみたいで。 だから、俺の側からの要望としても、子どもの方がよくって。 悪い大人でごめん。 っていう事で、フランツ君とは今日でお別れ。 お別れって言っても、フランツ君はうちの近所の王都警備の詰め所にある事務室で働くことになるんだし、異世界人と異世界文化の専門家として働くから、俺の所にも頻繁に来ることは決まっている。 それに年の差はあっても俺とフランツ君は友達だし、特にフランツ君が大人びてきてからは俺の方が年下みたいになって、なんでも相談に乗ってくれたりして、本当に貴重な親友だから、だから、仕事じゃなくてもこれからも会っておしゃべりしたり、一緒にご飯を食べたりするんだと思う。 でも、俺は感傷的になってしまった。 フランツ君の希望で、大々的なお祝いはしないで、俺と、タバトさんとフランツ君の三人だけで、王族御用達のレストランに食事にきた。 タバトさんはフランツ君が自分と同じ職場になることが嬉しくて上機嫌だったけど、俺は寂しくなってしまったんだ。 だって、だってさ、俺がこの世界に来てからずっと一緒にいてくれたんだもん。一緒にいる時間だったらタバトさんより長いかもしれない。 フランツ君がたった12歳で俺のお世話係になってくれて、正直フランツ君でなかったら、俺はどうなっていたかわからない。 俺がこうやってこの世界で幸せに暮らしていけるのもフランツ君のおかげなんだ。 そう思って、ご飯を食べながら俺が泣いていると、フランツ君が 「さとうそうたろうさん」 って呼んだ。 俺は本名で呼ばれるのが6年ぶりで、びっくりして涙が止まってしまった。 俺の佐藤奏太朗という名前はこの世界の人には呼びにくくて、それでみんな俺のことはソウとかソーさんとかって呼ぶ。さっきまでフランツ君もソーさんっていつも通り呼んでいた。 でも確かに、フランツ君は俺の名前を呼んだ。発音がとてもきれいで正しかった。俺は6年ぶりに奏太朗にもどった気がした。 「奏太朗さん、俺、ソーさんのこと愛してます。子どもの頃からずっとです。ずっと好きです。でもソーさんはツァヴァトゥさんと結婚しているし、それがソーさんの最高の幸せなのはわかっています」 う、うん。そうだよね。うん。フランツ君はずっと俺のことを見ていてくれたから、俺がタバトさんが好きなことも、幸せなのも全部わかってくれている。 「だから俺は異世界人と異世界文化の専門家として、異世界人がこの世界で幸せに暮らしていけるように尽力します。それが、ソーさんへの愛を俺なりに昇華する方法です」 俺は涙があふれて止まらなかった。 ありがとう。フランツ君。 ありがとう。 フランツ君はわかってくれている。俺がこの世界で苦しんだり戸惑ったりしたことも、次の異世界人にはそれを味わってほしくないっていう気持ちも全部わかってくれている。 フランツ君は賢くて優しいから、だからこの世界はフランツ君に任せておけばいい。フランツ君の愛がこの世界をよくしてくれるのだから。 フランツ君は背筋を伸ばして座っている。深い優しい瞳で俺を見つめている。 「ありがとう、ごめんね」 こうしてフランツ君はこの世界初の異世界人専門家になった。 そしてフランツ君が異世界人取扱説明書を大改訂したり、この世界で引きこもっている異世界人を助けたりするようになるのは、また別の話ってことになる。

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