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第1話 いつものお風呂

「お兄ちゃん、風呂入ろ」 食後の皿を流しへ運びながら、健太(けんた)が振り返った。 直人(なおと)はソファから腰を上げる。 「先入れよ」 「一緒でいいじゃん」 「お前、二十二だぞ」 「それ毎回言うよね」 健太は笑いながら先に浴室へ向かった。 「早く。冷めるよ」 「人んちで偉そうだな」 「お兄ちゃんちだから」 直人が浴室へ入る頃には、健太はもう身体を洗い始めていた。 「背中やって」 浴用椅子へ座り、泡立てたタオルを差し出す。 「自分で届くだろ」 「お兄ちゃんにやってもらう方が楽」 「甘ったれ」 「昔からじゃん」 直人が背中を擦ると、健太は気持ちよさそうに肩を落とした。 「そこ、もうちょい強く」 「注文多いな」 「上手いんだから仕方ない」 「何が上手いんだよ」 「背中洗うの」 健太が振り返って笑う。 「お兄ちゃん大好き」 直人の動きが一瞬止まった。 「……はいはい」 「適当」 「早く流せ」 健太は笑ったままシャワーへ向き直る。 交代すると、今度は健太が直人の背中へ泡を広げた。 「やっぱ肩すごいな」 両肩を掴む。 二の腕まで触る。 「また鍛えた?」 「普通に仕事してるだけ」 「硬っ」 健太は面白がって何度か揉み、そのまま直人の肩へ顎を乗せた。 「重い」 「ちょっとだけ」 「お前、昔よりでかいんだから考えろ」 「お兄ちゃんの方がでかいから平気」 健太にとって、こんな距離はいつものことだった。 背中を洗う。 肩へ触る。 裸で隣へ座る。 全部、子どもの頃から続いている。 湯船へ入るまでは、その夜も同じだった。 **** 健太が先に身体を沈めた。 直人も続く。 「狭い」 「そっち詰めて」 「お前が寄れよ」 笑いながら身体を寄せる。 肩が触れた。 膝も当たった。 健太は湯船の縁へ頭を預ける。 「はー……生き返る」 「年寄りみたいな声出すな」 「今日ずっと立ち仕事だったんだって」 耳の近くから直人の低い声が聞こえた。 健太はふと黙った。 触れている肩が妙に熱い。 背中のすぐ近くに直人の胸板がある。 さっきまで平気で触っていたのに、急に一つ一つが気になり始める。 健太は横を向いた。 濡れた髪。 喉。 広い肩。 胸を流れる水滴。 「……お兄ちゃん」 「ん?」 「ほんと身体でかくなったよね」 「まだ言ってんのか」 直人が笑う。 健太も笑うつもりだった。 その胸へ何気なく触れる。 掌の下に硬い筋肉がある。 健太の心臓が強く鳴った。 視線が落ちる。 そこで動きが止まった。 「……え」 直人も気づく。 「健太」 名前を呼ばれた瞬間、健太の頬が熱くなった。 さっきまで平気だった裸が、急に恥ずかしい。 視線を上げる。 直人が身体を少し離そうとした。 健太は反射的に腕を掴んだ。 「なんで離れるの」 「お前、真っ赤だぞ」 「だからって……」 続きが出てこない。 それでも腕は離さなかった。 胸が速い。 頭の中まで熱い。 直人が自分を意識している。 その事実だけが、身体の奥へじわじわ広がっていく。 「お兄ちゃん」 「何」 「……俺のこと見て、そうなった?」 直人が黙る。 健太はその沈黙から目を逸らさなかった。 「……俺だから?」 直人の指が頬へ伸びる。 触れる直前で止まった。 健太は自分からその指へ頬を寄せる。 直人の目が変わった。 健太の胸がさらに鳴る。 自分から顔を近づける。 唇が触れた。 一瞬。 健太は少し離れ、自分の唇へ指を触れた。 「……変な感じ」 直人が低く聞く。 「嫌だった?」 「もう一回」 今度は直人から唇を重ねた。 少し長い。 健太は目を閉じ、直人の肩へ指をかけた。 唇が離れる。 二人の呼吸が、もうさっきまでと違っていた。 **** 健太は直人の膝へ跨った。 湯が揺れ、二人の肌が密着する。 直人が目を見開く。 「健太」 「昔、よくこうしてたよね」 「今それ言うか」 「だって……」 同じ格好なのに、何もかも違う。 直人の太ももに自分のものが触れている感触が、じわじわと熱を帯びていく。 胸へ身体を預けるだけで、硬い筋肉の感触が直接伝わり、息が浅くなる。 「ん……」 自分の口から零れた甘い吐息に、健太自身が驚いた。 直人も止まった。 「その声、やめろ」 「なんで」 「我慢できなくなる」 健太の身体が小さく震えた。 その言葉が、胸の奥を甘く締め上げる。 ずっと「お兄ちゃん」だった男が、自分を一人の男として欲しがっている。 健太は直人の首へ腕を回し、唇を耳元へ寄せた。 「じゃあ……我慢しなくていいよ」 直人の目が揺れる。 健太からキスした。 すぐに腕へ力が入り、強く抱き寄せられる。 今度のキスは深い。 舌が絡み、湯の中で腰が自然に擦れ合う。 「んっ……お兄ちゃん……♡」 直人の息が乱れる。 「それ、ほんとにきつい」 「お兄ちゃんって呼ぶの?」 「今その声で呼ばれるのが」 健太の耳まで赤くなる。それでも少し笑って、わざと甘い声を落とした。 「じゃあ、もっと呼ぶ。……お兄ちゃん♡」 言った途端、また唇を塞がれた。 強く、貪るように。 健太は嬉しくて直人へしがみつき、首筋へ唇が触れた瞬間、身体が跳ねる。 「っ……あ♡」 「そこ……お兄ちゃん、そこ好き……♡」 歯を立てずに吸われる。 湯気が立ち込める浴室で、くちゅ、という小さな音が聞こえた気がして、健太はさらに体を寄せた。 直人の手が腰を掴み、ゆっくりと下へ滑る。 指が湯に濡れた肌を辿り、敏感なところを掠めるだけで、腰がくねる。 「こんなに反応するのか」 「俺も知らなかった……♡ お兄ちゃんの手、熱い……」 直人に触れられるたび、健太は自分の身体に知らない場所が増えていく気がした。 肩へしがみつき、名前を呼び、触れられたところから熱が広がる。 指が少しだけ奥へ入ると、健太は息を詰まらせた。 「お兄ちゃん……もっと♡」 「もっと、何」 健太は一瞬言葉に詰まった。 けれど、もう逃げたくなかった。 直人の耳元へ唇を寄せ、わざと熱い吐息を吹きかける。 「もっと触って……奥まで……♡ お兄ちゃんの指で、いっぱいにして」 直人が深く息を吐いた。 「健太、それ以上言ったら止まれないぞ」 健太は直人の胸へ身体を寄せ、腰をくねらせて応える。 互いのものが擦れ合い、湯の中でぬるりとした感触が走る。 「止まらなくていいよ。……お兄ちゃんに、壊されるくらいされてみたい」 そこから直人の余裕が消えた。 強く抱かれる。 何度もキスされる。 指が深く入り、くちゅくちゅと水音が混じる。 健太は驚くたび甘い声を漏らし、それでも直人の肩から離れなかった。 湯が波打ち、二人の動きで小さな水飛沫が飛ぶ。 「お兄ちゃん……♡ そこ、いい……んっ」 「健太」 「もっと……近く……全部、お兄ちゃんので埋めたい♡」 直人がさらに抱き寄せ、指の動きを早める。 健太も腰を寄せて応える。 互いの熱が重なるたび、呼吸が乱れた。 健太のものが直人の腹に擦れ、先から熱いものが滲む。 「やば……俺、こんなになるんだ……♡ お兄ちゃんの指だけで、もう……」 「俺の前だけにしろ」 直人の低い声に、健太の胸がまた強く鳴る。 「うん……♡ お兄ちゃん以外、知らない。……知られたくない」 返事をした自分が嬉しい。 もっと直人に欲しがられたい。 健太からまた唇を重ね、わざと甘く囁く。 「お兄ちゃんにされるの……好き♡ このまま挿れられたら、どうなっちゃうんだろ……」 直人が動きを止めた。 「今それ言うか」 「だって、本当だもん……。お兄ちゃんの、欲しい」 「ほんとに煽るの上手くなったな」 「初めてなのに?」 健太が笑う。 直人はその笑いをキスで塞ぎ、指を抜き、自分のものを窪みにゆっくりと押し当てる。 湯の中で、熱いものが少しずつ入ってくる感触に、健太の声が震える。 「んあっ……お兄ちゃん……入ってる……♡」 「健太、きついぞ」 「いい……もっと、奥まで……お兄ちゃんので、いっぱいにして♡」 身体を重ねるたび、健太の声はさらに甘くなる。 最初は戸惑っていた身体も、やがて直人の動きを自分から追うようになる。 湯が揺れ、肌がぶつかり合う音が浴室に響く。 「お兄ちゃん……そこ……んっ、深い……♡」 「健太」 「もっと……激しくていいよ……♡ お兄ちゃん、我慢しなくて」 熱が深く届くたび、健太は直人の肩を掴んだ。 何度も高まりが押し寄せる。 直人が腰を打ちつけるたび、健太の中が締めつけ、甘い水音が混じる。 「お兄ちゃん……また……くる……♡」 「もう限界か」 健太は息を乱しながら首を横へ振る。 目に涙を浮かべたまま、直人の首筋に歯を立てかけた。 「まだ……もっとほしい♡ お兄ちゃんの、全部出して……中に……」 その一言で、直人の腕に力が入った。 「ほんとに後悔するなよ」 健太は直人へしがみつき、脚を絡める。 「しない。もっとして♡ お兄ちゃんに、ぐちゃぐちゃにされたい……」 直人が強く抱く。 健太も身体ごと応える。 さっきまでの無邪気さが消えたわけではなかった。 むしろそのまま、全部が欲へ変わっていた。 腰の動きが速くなり、深く、容赦なく。 「お兄ちゃん……好き♡」 直人が止まる。 健太はもう一度、今度はもっとはっきり言う。 湯に濡れた唇で、直人の耳を甘噛みしながら。 「お兄ちゃん、大好き……♡ こんなにされてるの、お兄ちゃんだけ……」 「健太」 「ん……♡」 「俺もだ。……お前が、ずっと欲しかった」 その一言で、健太の表情が崩れた。 嬉しくて、直人へ強く抱きつく。 中で跳ねる感触に、声が抑えきれなくなる。 「もう一回言って」 「健太が好きだ。……俺のものになれ」 「俺も……お兄ちゃん、好き……♡ なる、お兄ちゃんのものに……んあっ♡」 もう勝手に声が出る。 直人が名前を呼ぶ。 健太が「お兄ちゃん」と返す。 身体を重ねるたび、熱が高くなる。 健太は何度も感じ、そのたび直人へしがみついた。 直人のものが奥を抉るたび、視界が白く霞む。 最後には声を抑える余裕も失い、直人の肩へ顔を埋める。 「お兄ちゃん……もう……限界……♡ 一緒に……出して……」 「健太」 「一緒に……♡ お兄ちゃんの、中にいっぱい……」 直人の腕が強くなる。 二人とも互いの名前と呼び方を重ねながら、最後の高まりへ落ちた。 健太の中で熱いものが広がる感触に、健太も同時に跳ね、甘い声を長く引きながら、直人の胸に崩れ落ちた。 **** しばらくして、浴室に静かな水音が戻った。 健太は直人へ身体を預けている。 力が抜け、胸へ頬を寄せたまま目を閉じていた。 直人が濡れた髪を撫でる。 「健太」 「んー……」 「のぼせるぞ」 「もうちょっと」 「さっきからそればっかりだな」 健太は小さく笑った。 身体は疲れている。 それでも離れたくなかった。 直人の胸へさらに頬を寄せる。 「お兄ちゃん」 「ん?」 「もう一緒に風呂入ったら、前みたいには無理かも」 直人が笑った。 「俺はだいぶ前から無理だった」 健太が勢いよく顔を上げる。 「……いつから?」 直人は答えず、健太の額へ口づけた。 「長風呂になるぞ」 「誤魔化した」 「そのうちな」 「今聞きたい」 健太が身体を起こそうとする。 直人が腰を抱き寄せる。 また距離がなくなった。 健太は一瞬固まり、それから頬を赤くして笑う。 「……それしたら、またその気になるじゃん」 「お前が動くからだろ」 「お兄ちゃんのせいだよ」 「はいはい」 「適当」 「じゃあ離れるか?」 健太はすぐ直人の胸へ戻った。 「それはやだ」 直人が笑う。 健太も嬉しそうに目を閉じた。

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