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第6話 これがご褒美だ
「山下、今回かなりやったな」
先輩に言われ、山下直哉(やました・なおや)は小さく頭を下げた。
「皆さんが動いてくれたおかげです」
「そういうとこだぞ、お前」
笑われても、直哉は何を言われたのかよく分からなかった。
ここ数日は寝る時間も惜しんで動いた。
頼まれたことを一つずつ片づけ、抜けがあれば自分で埋めた。
誰かに褒められたいから始めたことではなかった。
ただ一人だけ、認めてもらいたい男はいた。
西村誠司(にしむら・せいじ)。
直哉にとって、ずっと追いかけてきた兄貴だった。
仕事が早い。
腹が据わっている。
下の者が失敗したときも、まず何が起きたのかを聞く。
褒めるときは短く、叱るときも必要なことだけを言う。
直哉は誠司に一度名前を呼ばれるだけでも背筋が伸びた。
その日の夕方、廊下を歩いていると先輩に呼び止められた。
「山下」
「はい」
「西村さんが呼んでるぞ」
直哉の足が止まった。
「……俺をですか」
「お前以外に山下がいるかよ」
「すみません」
思わず頭を下げてから、すぐ誠司の部屋へ向かった。
歩きながら、胸の奥が落ち着かない。
直接呼ばれた。
それだけで嬉しかった。
今回の働きについて何か言われるのかもしれない。
一言だけでも「よくやった」と言ってもらえたら、それで十分だった。
扉の前で姿勢を整える。
ノックする。
「山下です」
「入れ」
聞き慣れた低い声。
直哉は扉を開いた。
「失礼します」
誠司がこちらを見ていた。
直哉は扉を閉め、振り返った。
****
「兄貴、何か――」
最後まで言えなかった。
誠司がすぐ目の前まで来たと思った瞬間、唇を塞がれた。
直哉の目が大きく開く。
「……っ」
何が起きたのか分からない。
誠司の顔が離れる。
直哉は唇へ触れることすら忘れ、ただ目の前の男を見ていた。
誠司が少し笑う。
「今回、よくやったな」
直哉の頭はまだ追いついていない。
「……はい?」
「働いた奴には褒美がいるだろ」
誠司がもう一度近づく。
「これがご褒美だ」
直哉の胸の奥で、何かが切れた。
ずっと欲しかった言葉。
兄貴に認めてもらいたかった。
その兄貴が、自分へキスした。
しかも、それを褒美だと言った。
「兄貴」
「ん?」
直哉は誠司のシャツを掴んだ。
普段なら、そんな触れ方は考えもしない。
それでも指が離れなかった。
「……もう一回」
誠司の眉がわずかに上がる。
「お前から言うのか」
直哉の耳まで熱くなる。
「だって……こんなの、無理です」
「何が無理なんだ」
「嬉しすぎて……」
言い終える前に、直哉から唇を重ねた。
今度はすぐ離れない。
誠司の腕が腰へ回る。
直哉はそれだけで身体中が熱くなった。
キスが終わる。
息を整えながら、直哉は誠司の胸元を掴んだまま言う。
「俺、ずっと兄貴に褒めてもらいたくて……」
誠司は直哉の腰を抱いたまま答える。
「知ってる」
直哉が固まる。
「え」
「お前、分かりやすいからな」
直哉は恥ずかしさで俯いた。
「……そんなにですか」
「俺が一言言っただけで、次の日から倍働くだろ」
「それは……」
誠司が直哉の顎を軽く上げる。
「だから今日は、たっぷり褒めてやる」
その声を聞いた瞬間、直哉はもう逃げる気など完全になくした。
****
誠司から深く唇を重ねられた。
直哉はすぐ首へ腕を回す。
さっきまで部屋へ呼ばれただけで緊張していたのに、今は誠司から離れる方が嫌だった。
キスのたび、誠司の舌が丁寧に絡み、直哉の息がすぐに乱れる。
「兄貴……」
「ん?」
「もうちょっと……」
「何が欲しい」
直哉は頬を赤くしながら、誠司へ身体を寄せる。
シャツを掴んだ指が震えている。
「兄貴がくれるなら……全部。……ご褒美、全部ください」
誠司が低く笑った。
手で直哉の腰を引き寄せ、机の端に座らせる。
「今日はずいぶん素直だな」
「兄貴がこんなことするからです……。褒めてくれたから……」
首筋へ唇が触れる。
わざとゆっくり、くちゅと吸う。
直哉の肩が跳ねた。
「っ……♡」
誠司が少し離れる。
「ここ、弱いのか」
「今、初めて知りました……。兄貴に触れられると……変になります」
また触れられる。
今度は声を抑えられない。
誠司の手がシャツの中へ入り、地肌に触れる。
「兄貴……っ♡ そこ……」
誠司の掌が乳首を撫でる。
腰を抱き寄せ、すでに硬くなったものを擦り合わせる。
直哉は刺激そのものにも蕩けていたが、それ以上に、自分が誠司に大切に扱われていることが嬉しかった。
「よく頑張ったな」
耳元で言われる。
低い声が直接鼓膜を震わせる。
直哉の身体が震える。
「……それ、ずるいです」
「何が」
「兄貴に褒められると……ほんとに、何でもできそうになる……。身体も、頭も……」
「じゃあ、もっと言ってやる」
誠司は直哉の頬へ触れ、ゆっくり言う。
指でズボンを外し、熱いものを直接握る。
ゆっくり上下させながら、耳元で続ける。
「今回、お前が一番よく動いた」
直哉の目元が熱くなる。
息が漏れる。
「兄貴……」
「途中で投げなかったのも知ってる。……夜遅くまで残ってたのも」
「はい……っ」
「よくやった。……俺の自慢の部下だ」
直哉はたまらず誠司へ抱きついた。
手が震えている。
「兄貴……大好きです」
誠司が一瞬だけ黙る。
直哉は自分でも驚いて、少し身体を離した。
「……すみません、今の」
「謝るな」
すぐ腰を引き寄せられる。
指を口で濡らし、ゆっくりと中へ入れる。
「言いたいなら言え。……褒めてやるから」
直哉の胸がいっぱいになる。
指が奥を動くたび、声が甘く零れる。
「好きです……っ♡」
「ん」
「兄貴、大好きです。……ご褒美、もっとください」
誠司がまた深くキスした。
指を増やし、くちゅくちゅと水音を立てながら動かす。
その後は、直哉が声を漏らすたび、誠司がさらに甘やかすように求めた。
「いい子だ。……ちゃんと俺のために頑張ったな」
直哉は一度気持ちが高まり切っても、誠司に抱き寄せられるとまた身体が熱くなる。
指だけで一度果て、それでも離さない。
「兄貴……もう、だいぶ……♡」
「もう終わりか?」
直哉は迷った。
身体は力が抜けている。
それでも誠司から離れたくなかった。
首を横に振る。
「……もっと欲しいです。……兄貴の、本物のご褒美」
誠司が満足そうに笑う。
指を抜き、自分のもので入口を押し開く。
「言えるじゃねえか」
「兄貴が言わせてるんです……♡」
「なら最後まで付き合え」
直哉は笑いながら誠司へしがみついた。
一気に奥まで沈められ、声が詰まる。
「はい……♡ 全部、受け入れます……」
また求められる。
腰を打ちつけられるたび、机が軋む。
直哉も必死に応える。
何度も名前の代わりに「兄貴」と呼ぶ。
そのたび誠司の腕が強くなる。
「いい声出すな」
「兄貴のせいです……♡ 奥、熱い……」
「そうか」
「そうです……。兄貴ので、いっぱいにされて……幸せです♡」
直哉は完全に素直になっていた。
普段なら絶対に言えないことまで口から出る。
誠司がわざと深く抉ると、甘く高い声が響く。
「もっと……兄貴に気持ちよくしてほしいです♡ 褒めて……もっと褒めてください……」
誠司の目が少し変わった。
腰の動きを速め、容赦なく奥を突く。
「お前、今日ほんとに可愛いな。……俺にこんなに欲しがられて、顔がとろけてる」
直哉の頬がさらに熱くなる。
「それも……嬉しいです」
「何でも嬉しいのか」
「兄貴が言ってくれるなら……全部。……ご褒美なら、何でも」
誠司が直哉を強く抱き寄せる。
額を合わせ、低く囁く。
「ほんとに俺が好きなんだな」
直哉は迷わず頷く。
内をきつく締めつけながら。
「はい」
今度は冗談も照れ隠しも入れなかった。
「ずっと好きです。……兄貴だけです」
誠司の余裕が、そこで初めて少し崩れた。
腰の動きが荒くなる。
「直哉」
直哉の目が大きくなる。
いつもは「山下」。
初めて名前で呼ばれた。
「……兄貴」
「何だ」
「もう一回、呼んでください。……ご褒美で」
誠司が直哉の腰を抱いたまま、低く呼ぶ。
同時に奥を深く抉る。
「直哉。……よくやった。俺の、いい子だ」
直哉は泣きそうなほど嬉しくなった。
身体が大きく跳ねる。
「もう一回……♡」
「直哉。……好きだ。お前が一番よく働いた」
「兄貴……好き……♡ 大好きです……」
直哉からキスする。
誠司も強く応える。
その後は二人とも余裕がなくなった。
誠司が名前を呼ぶ。
直哉が「兄貴」と返す。
何度も気持ちが高まり、直哉はそのたび誠司へしがみついた。
腰を打ちつけられるたび、甘い声が止まらない。
「兄貴……もう……限界です……♡ 中に、出してください……」
「俺もだ」
「兄貴……♡ 直哉って、呼んで……」
「直哉。……受け取れ。これが最後のご褒美だ」
互いの呼び方を重ねながら、最後には直哉が誠司の胸へ身体を預け、奥に熱いものを受け止めたまましばらく動けなくなった。
甘い声を長く引きながら、何度も「兄貴……好き……」と呟いていた。
****
静かになった部屋で、直哉は誠司へくっついたままぼんやりしていた。
身体にはまだ熱が残っている。
それ以上に胸の中がいっぱいだった。
兄貴に褒めてもらった。
キスされた。
たくさん甘やかされた。
好きだと言えた。
名前まで呼ばれた。
直哉にとっては、それだけで何年分ものご褒美をもらったような気分だった。
誠司が直哉の髪を撫でる。
「満足したか」
「はい」
直哉は即答した。
少しして、誠司のシャツを掴む。
「兄貴」
「ん?」
「一個、お願いしていいですか」
「言ってみろ」
直哉は少し迷った。
仕事についてなら、いくらでも言える。
今から言うことだけは、どうしても恥ずかしい。
それでも口にした。
「俺以外は……抱かないでください」
誠司の眉が少し上がる。
直哉は頬を赤くしたまま続ける。
「今日みたいに兄貴にしてもらえる奴が他にもいるって考えたら……嫌です」
自分でも驚くほど強い感情だった。
誠司に認めてもらえれば、それで満足だったはずなのに。
今は違う。
もっと欲しい。
兄貴の特別でいたい。
誠司は直哉を見てから、余裕のある笑みを浮かべた。
「なら、もっと俺のために働け」
直哉の目が輝く。
誠司が顎を軽く持ち上げる。
「いいな?」
「はい!」
部屋に元気な返事が響いた。
誠司が吹き出す。
「さっきまであんなにへばってた奴とは思えねえな」
「頑張ります!」
「何をそんなに張り切ってんだ」
「兄貴の役に立ちます。もっと」
誠司は笑いながら、直哉の額へ軽く口づける。
「期待してるぞ、直哉」
直哉はまた真っ赤になる。
それでも嬉しそうに笑った。
「はい、兄貴!」
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