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第1話
「おはようございまーす」
年内の仕事は今日と明日だけ、浮かれる気持ちを抑え込みながら赤羽 真翔 は出社した。自席に向かいながら肩まで伸びるハーフアップを掻き分けてワイヤレスイヤホンを外すと、年末にもかかわらず平常運転で仕事をこなす音が聞こえてくる。
真翔の勤める株式会社ファーストラインテックは、大手ECサイトのシステム開発と保守を行っている。比較的のびのびと業務が行えるため、コアタイム終了後すぐに帰宅できるよう朝早くから勤務している者もいるくらいだ。
それにしても、いつもよりすでに多くの人が来ている気がする。おそらく、皆可能な限り仕事を年越しさせたくないから早く来て終わらせようとしているのだろう。真翔も長い休みが恋しいので皆と同じように頑張ろうと思った。
自席に着いてパソコンを起動させながら荷物を下ろして仕事の準備をしていると、真翔より先に来ていたチームの女性が近づいてきた。
「おはようございます、赤羽さん。沼部 さんが呼んでました」
「おはよ、荏原 さん。知らせてくれてありがと」
荏原はぺこりと頭を下げて、すぐに戻っていった。彼女はチーム内で最も規則正しく動いており、会社のコアタイムよりも早い時間に来てコアタイム終了直後に帰っていく。本人いわく、早い時間の方が電車が空いていて楽らしい。真翔も荏原の言っていることは理解しており、コアタイム前の方が圧倒的人が少ないので効率よく仕事ができるとは思ってはいる。しかし、なかなか実行できていないので、荏原の行動は見習いたいと感じている。
イヤホンをケースにしまった真翔は、島のようにまとまった机の端に顔を向けて、チームリーダーである沼部の姿を確認する。荏原と同じく早く来ており、すでに仕事モードになってモニターの画面に集中している。真翔は話しかけても問題なさそうなことを確認して沼部の方へ近づいていく。
「沼部さん、おはようございます」
「おはよう、赤羽くん。突然悪いね」
真翔を見た瞬間沼部は笑みを浮かべたが、どこか申し訳なさそうな雰囲気をまとっている。沼部は顔に考えがすぐ出てしまうタイプなので、真翔は瞬時に嫌な気配を察知した。
「用件って何すか?」
「急で申し訳ないんだけど、赤羽くん、年明けからアップに出向になったんだ」
「はあ!? 急に何ですか!?」
アップこと株式会社サンアップは、国内で知らない人はいない大手ECサイトを運営している会社であり、ファーストラインテックの親会社でもある。普段はチャットツールやメールといったようなツールだけコミュニケーションを取るだけなのに、一体どういうことだろうか。
「社長たちの思いつきで、交流を深めるために交換で出向なんだって。僕もチームのトップエンジニアの赤羽くんが抜けられると困るのにな……」
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