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初めて購入した大型犬用の首輪とリードは、シンプルなデザインで丈夫なナイロン製にした。
真っ黒なクロスケに一番かっこよく映えそうな赤色。そして、紅という字にもつながりがある色だ。
自分だけの犬という気がして、思わず選んでしまった。
足取り軽く自宅の鍵を開けて、玄関の扉を開ける。
「ただいま。クロにおみやげ……」
「おかえり!!」
紅よりも背の高い知らない男が、こちらへ両手を広げて突進してくる。
「わッ!!」
身構えるひまもなく抱き着かれ、バランスを崩した紅は玄関扉へ背中を打ち付けてしまった。
「いってぇ……」
「俺、大人になれた! 人になれたから、紅のことちゃんと守れる!」
目を輝かせて興奮気味に紅へのしかかってきた男は、わけのわからないことを言っている。
「えっ……なに、言って……」
肩まであるふんわりした黒い長髪に、自分よりも広い肩幅をしている。犬のような動物の耳らしきものも頭の上の方にふたつある。
突然現れた男にどう対処すればいいかわからない。だが、体格からして、紅の力ではかなわないだろう。
(勝手に部屋に入って……待ってた?)
寒気がした。
ただの空き巣ではない気がした。けれど、全く悪意や攻撃性を感じられない。
紅に対して好意的すぎて、気味が悪い。下手に刺激をすると、豹変して傷つけてくるかもしれない。
「本当は朝からこうなれたんだけど、紅は急いで出かけたから、家で待ってたんだ」
きらきらと目を輝かせてそう言う男は、紅に好意を向けているようにすら感じる。
朝から、という言葉にさらに紅は怖くなった。
合鍵は誰にも渡していないし、友人は政宗以外にいないので家まで誰かが来るとは思えない。
(警察か? 逆に、危ない……?)
懸命に考えていると、政宗が浮かぶ。空手部エースで、困ったときは言えと言ってくれている。
(ごめん……政宗、助けて……)
どうにか政宗に連絡するチャンスを考えながら、怪しい男に話を合わせ始める。
「そ、そうかごめん。えと、部屋、入っていい?」
「うん、いいよ! 夕飯も作ったんだ」
すぐに紅の上から体をどけた男は、すっと立ち上がってすぐそこのキッチンへ行く。確かにいい匂いが部屋にたちこめていた。
紅に男が背を向けたので、この隙に外へ逃げようと思ったけれど、後ろ姿に目が行き止まってしまった。
(……尻尾まで)
コスプレの趣味がある男が、紅の部屋で何をしているのだろう。さらにわけがわからなくなる。
ゆらゆらと左右に揺れる、よくできた銀色の尻尾だ。
「紅が作ってくれたオムライス、真似してみたんだけどうまくできてるかな?」
男が振り返ったので、逃げるタイミングを失ってしまった。
「へ、へぇ、オムライス…ありがとう」
「手、洗ったらこっち来てね」
にっこりと笑いながら、男は尻尾を左右に振っている。オムライスの皿をふたつ手にして、先に奥の部屋へ向かった。
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