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第2話(1/2)
ユフィル・アルデンの中に佐伯悠真としての記憶が戻った翌日。
二ヶ月も目を覚まさなかった反動で体はそれなりに弱っていたらしくあまり力が入らない。
そのせいで今日も俺はベッドの住人と化しているのだが記憶を整理する時間があるのはありがたかった。
俺の夫だと言うルシアンはあの後、意外にもあっさり部屋を出ていってくれた。
自分の旦那らしいがツギハギの記憶にすら残っていなくて、全く実感がない。
ミリア…起きて一番に会ったメイドはどうやら俺に付けられていた使用人だったらしく、ルシアンが部屋から居なくなった後、最初の奇行について謝られた。
目を覚まさない間も身の回りを整えたりしてくれていたみたいで、昨日部屋に来たのもそういう理由でだったが、二ヶ月も目を覚まさなかった奴がドアを開けたら立ってたんだから、そりゃ慌てふためくと思う
事情を知らなかったとはいえ、驚かせてしまったことを俺も謝れば、ミリアが大泣きしだしたから、やはり変わった人なんだと思う。
そんなミリアは今、俺のために食事の準備をしてくれているが多分手際がいいんだと思う。
奇行を見てなきゃ現代の記憶のせいで、変な気を使っていただろうから逆によかったかもしれない。
「ミリアは俺が二ヶ月も目が覚めなかった理由知ってる?」
部屋の中くらいなら歩けるとベッドを降りようとする俺をミリアは押し戻すと、移動式のサイドテーブルをベッドにセットし始めた。
「馬車に引かれたと聞いてます。ユフィル様はやはり覚えてらっしゃないんですか?」
馬車に引かれるとか、死んでてもおかしくないじゃないか。だからミリアはあんなに慌ててたのか。
「ユフィル様を庇われて旦那様もお怪我をされていたので、当時は屋敷中大騒ぎでした」
「えっ?!ルシアン…様?あれ、なんて呼べば?いや、それより、大丈夫なの?昨日、普通に見えたけど」
昨日のルシアンはそんな風には見えなかったけれど…二ヶ月で治る怪我だったのかな…。
「だいぶ回復されて自宅でお仕事はされてますが、今も療養中ですよ。後、呼び方は存じ上げませんのでご本人に聞いてみてはどうですか?」
ミリアはサイドテーブルに粥が入った皿を置くとさっき俺がひっかかった呼び方へ疑問まで答えてくれた。
夫婦…の実感はないがルシアンと一緒に外出していたならそうなのか?でも、ミリアは俺がルシアンをどう呼んでいたかは知らないみたいだし…。
…まぁ、ルシアン様でいいだろう。
旦那様とか呼びたくないし。
「う〜ん、やっぱり思い出せないな〜」
「頭を強くぶつけたのが原因ですかね…でも、慌てなくてもそのうち思い出しますよ!大丈夫です!その為にもしっかり食事を召し上がっていただかないと!」
頭ぶつけたんだ。
だから前世の記憶が戻ったのかと妙に納得してしまった。ユフィルの記憶が曖昧な理由はわかったけど…まぁ、今の俺には都合がいいのか?
促されて粥を口に運べばミリアからは安心したように笑顔が零れた。
「ミリアは俺を知ってるんだよね?前の俺はどんなだった?」
「いえ、ユフィル様付になったのは、お怪我で運ばれてからなので前のユフィル様とは面識がなく」
「え?そうなの?」
その割にはだいぶ心配してくれてるような。
多分ミリアが凄くいい人なんだろうけど。
今も励ましてくれたし。
でもミリアが知らないとなると、やはりルシアンから聞くしかないんだろうか。
いや、何を聞くんだ?
いつ結婚したんですか?とか?
「離婚できますか、とか?」
離婚出来たとしても、アルデン家に戻るのは無理…というか、戻りたくない。覚えているだけでもまともな扱いをされていなかったし、本人の知らないところで勝手に婚約、結婚させるような親だぞ。
戻ったところでまた違う貴族と婚約すっとばして結婚させられるだけだ。
支度金も俺のためには使われていないはずだし…。
「あ」
「どうかされましたか?」
「な、なんでもない」
婚約が頭にきて支度金から酒代くすねたんだった。
それから起きたらこの部屋のベッドの上だったんだが…何かを忘れている気はする。
それよりも今は離婚できるかどうかだ。
BLの受けとか嫌だし。
となるとまずは仕事だろうか。
お金がなきゃ生活できないし。
貴族を雇ってくれるところなんかあるだろうか?身分を偽ればいけるか?高校時代に飲食店のバイトならしたことあるけど、受験勉強するのに辞めてから次のバイトは探していなかったし。
貰った支度金は返した方がいいのか?いや、離婚を申し出るのは俺なんだから払うなら慰謝料か?
「う〜ん、そもそも結婚すらしたことないのに分かるわけがない」
「前のユフィル様は存じ上げませんが、記憶を思い出そうと頑張るユフィル様は大変可愛らしいと思いますよ」
「え、嬉しくない」
主に離婚について考えてたし。
ミリアの言葉に不貞腐れながら残りの粥を啜れば、クスクスとした笑い声が聞こえてきた。
食事を終えた俺に、ミリアは食器を片付けに部屋を離れるがすぐに戻ると声をかけてきた。
俺付きと言っていたがそんなに引っ付いてるものなのか?そう思って声をかければ、ミリアは一瞬だけ考える素振りを見せた。
「少し一人にしてほしいんだけど」
「分かりました。後でお茶をお持ちしますね。夕食ももう少し量を増やしてもらいましょう。お粥ですけど」
「うん。ありがとう」
確かに寝ていたわりにはちょっと物足りなさはあったけれど、我慢できないほどでもないからいいんだけど。元々そんなに食べられなかったし。
うん?食べられなかった?
「うーんなんか、こう思い出しそうなー」
一人になった部屋に唸り声を響かせると、頭に浮かんだ引っ掛かりを手繰り寄せようとしてはみたがこれといって変化はなかった。
「でもこの体、やけに小さいんだよな」
20歳の割には背は低いと思う。
悠真の時も別に大きくはなかったがそれでも平均並みだったはずだ。
「俺が受だからか!!ルシアンはでかかったし!!」
あれは間違いなく180はあるだろ。
しかも男の俺から見ても無駄に顔がいい。芸能人です。と言われても違和感がないくらいだ。
前に女友達が見せてきた…2.5次元アイドル?みたいだなとは思う。赤茶っぽい瞳に深緑の髪のせいで、そう思うだけかもしれないけど。
「どちらにせよ。確実に顔だけで生きやすくなるタイプだ」
もちろん芸能人ではなく貴族なんだが、公爵家だから似たようなもんだろ。
俺の髪は髪も目も真っ黒だが、どうせなら異世界っぽく違う色でもよかったなと思う。
「真面目に考えよう」
すぐに考えが流れるのはいつものことだが、今回は脱線している場合じゃなかった。
早く、離婚予定を立てなくてはならないんだから。
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