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第9話
心を無にしつつ客を取っていたある日、飛鳥に指名が入った。
どうせ気持ち悪いおやじなのだろうと思い部屋に行くと、待っていたのは若い男だった。
端正な顔をしていて、爽やかな雰囲気だ。
これまでの客とは違う彼に、飛鳥は胸を高鳴らせた。
恭しく部屋に入ると、彼の近くに座り挨拶をする。
「ご指名ありがとうございます。飛鳥と申します」
男は、三つ指をつき頭を下げた飛鳥を見ると顔を赤らめる。
「ま、政忠と申します。よろしくお願いいたします」
「政忠、様ですね?こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」
政忠は大店で働く商人だといい、飛鳥を一目気に入ったという。
男娼を買ったのは初めてだといい、飛鳥を優しく扱ってくれる政忠。
まるで本当に恋をしているかのような時間を過ごすことになった。
自分が好きなのは和音のはずなのに、政忠から与えられる熱に気持ちが揺らぎそうになる。
政忠との行為に溺れる飛鳥。
和音との情事とは違うが、愛されている錯覚に陥りそうになるのだ。
『だめだよ…僕が愛しているのは、あの人なんだから… 』
仕事だから客と行為をするのは当然だが、飛鳥は涙が出そうになる。
政忠は頻繁に飛鳥のもとに通うようになり、飛鳥も政忠との情事に耽る。
政忠がやってくると、待ちわびたように飛鳥の体が疼く。
飛鳥は、自分の気持ちが政忠に移っているのではないかと思うほどだった。
ある日、飛鳥は政忠に聞いてみた。
「なぜ、僕に会いに来てくれるんですか?」
「実は、ある人を探していて、その人の面影を感じたから……」
いなくなった恋人に、飛鳥が似ているのだという。
だから、迷うことなく飛鳥を選んだらしい。
『誰かの身代わりか……』と少し飛鳥の熱は冷めたが、自分は所詮男娼なのだからと妙に納得するのだった。
自分は、客を悦ばせるだけだ。
そんなある日、飛鳥と和音が東堂に呼ばれた。
「何の御用でしょうか」
和音が問うと、東堂は険しい顔をする。
「お前たち、休日に客室に立ち入ってはいけないことを知っているな?」
東堂の問いに、和音はすぐに頷いた。
「はい、もちろんです」
「では、なぜお前たちは客室に入ったんだ?」
「一体、何のことでしょうか」
和音は東堂と対しながらも、飛鳥を手で自分の後ろに隠した。
和音が庇ってくれていることが分かる。
「祭りの日、客室の区域に向かうお前たちを見た者がいる」
飛鳥も和音も驚きに身を強張らせた。
「誰がそんなことを!?事実でなければどうするんです?」
「そんなことはどうでもいい。見たというんだから、事実なんだろう。違うか?」
狂気に満ちた目が、和音や飛鳥を射貫く。
この東堂という男は、こういう商売をしているせいか、どう猛さを孕んでいるのだ。
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