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第12話

「そんなんじゃない!」と言って歯を食いしばり、握った拳を振り上げたところ、誰かに腕を後ろから掴れる。 そこにいたのは、眉間に皺を寄せた表情の和音だった。 「あっ……」 「やめろ、飛鳥。こいつを殴ってどうするんだ」 「和音さん……」 飛鳥は彼の顔を見た途端に、戦意を喪失してしまった。 和音の顔を見て、安心したというのもあったのかもしれない。 飛鳥は和音の胸元に縋りついて泣いた。 「おいおい、愛しい人の登場か?」 宗士がからかう言い方をすると、和音は彼にキツい視線を送る。 「飛鳥に手を出すな」 一言だけ言うと、和音は飛鳥を伴って部屋を出た。 和音に引っ張られていく飛鳥は、涙も止まり彼に尋ねた。 「ね、ねぇ。どこにいくの?」 「いいからついて来い」と和音が言うので、飛鳥は彼に引っ張られるままに歩いていく。 するといつの間にか建物の外に出ていて、さらに和音は飛鳥を引っ張っていく。 「一体どこまで連れていく気だろう?」と思った飛鳥だが、和音が立ち止まった場所を見て目を見開いた。 「うわぁ……」 そこに広がっていたのは、大きな池だった。 香煌楼の裏手にこんな場所があるなど、飛鳥はそれまで知らなかったのだ。 「いい場所だろ?俺のお気に入りの場所だ」 「そうなんだ。湖みたいだね。綺麗」 「ちょっと座れよ」と促され、飛鳥は和音と並んで座る。 「ここは、心を落ち着かせたい時とかに、1人で来たりしてるんだ。ほら、この仕事だから嫌になることもあるだろ?」 和音が自虐的に言いながら柔らかく笑みを作ると、飛鳥は「そうだね」と答えた。 すると和音は、真面目な表情になったかと思うと、「他の人を連れてきたことはない。お前が初めてだ」と言う。 重ねて「お前だから連れてきたんだ」とも言うではないか。 真っ直ぐに見つめられ、飛鳥はどうすれば良いか分からなくなる。 「そ、そうなんだ。それは光栄だよ」 和音から目を逸らして俯きながら言うと、彼が飛鳥の頬に手を触れて顔を和音の方に向けさせる。 「お前、最近俺を避けてただろう?」 「え?そんなことは……」 確かに気まずさから避けていたのだが、つい嘘を吐いてしまった。 「まぁいい。罰を受けたことは、悪かったと思ってる。客室に連れて行ったのは俺だからな」 それでも和音は、飛鳥と関係を持ったことを後悔していないという。 「お前は、後悔しているか?」 和音が問うと、飛鳥は首を横に振る。 「そんなことない」 飛鳥がきっぱりと言うと、和音はホッとしたような表情を見せた。

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