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第13話

「あの時俺がお前を誘ったのは、お前を抱きたいと思ったからだ」 「何で僕を?」 飛鳥の問いに、和音は「お前が好きだからだ。どうしても止められなかった」と言う。 和音の答えに飛鳥はとても驚いた。 「え?僕を?」 「そうだ。俺は、お前に初めて会った時に一目惚れしたんだ。あの時は、気持ちを抑えられなかった」 「客とするのとは違う。お前を心から欲していたんだ」とも和音は言う。 和音を想う飛鳥はとても嬉しかった。 和音を諦めようと思ったが、そうはできないらしい。 「僕も客室に連れて行かれた時は戸惑ったよ。でも和音さんだから受け入れたんだ。あなたが欲してくれるんならそれで良いと思った」 飛鳥は精一杯の気持ちを込めて「あなたが好きです。どうしようもないくらいに」と告げる。 和音は飛鳥の頬に両手を添えると、「俺も好きだ」と言って唇を重ねた。 飛鳥の心は人生で一番の幸せを感じた。 しかし、遊郭内で男娼同士が色恋関係になるのは、厄介なことになるのではないか。 もし東堂に、自分たちのことが知られてまた罰を受けることになったら大変だ。 せっかく気持ちが通じたところではあるが、現実的にはそれが問題となる。 飛鳥が不安を述べると、和音はこう言ってくれた。 「大丈夫だ。お前は俺が守るから。確かに周りに知られたら厄介だよな。俺たちが会う時にはここに来よう。そうすれば邪魔をされない」 頭を撫でてくる和音を見つめ、飛鳥は「うん」と頷いた。 二人の視線が絡むと、再び互いに唇を重ねる。 今はただ、幸せを噛み締めていたいと飛鳥は思った。 ある日、飛鳥は和音から一枚の紙切れをもらった。 小さなそれは、下手したら誤って捨ててしまいそうなほど。 飛鳥がその紙切れを広げてみると、そこには「未の刻(午後2時頃)に池のほとりで待っている」と書かれていた。 つまりは、逢引きの誘いというわけだ。 その時間帯、男娼たちは仕事の支度をし始める頃。 男娼たちの住居区域はバタバタとしているものだ。 その時間帯なら、どさくさに紛れて建物を出ていくことができるか。 でももしかしたら、人が行き交っていて返って呼び止められたりする可能性もある。 そんな状況の中で、飛鳥は部屋を出て外を目指す。 こうでもしなければ、和音に会えないから。 何とか誰にも怪しまれず建物から出ることができた。 そして一心不乱に池の方向を目指す。 目的地にたどり着くと、既に和音が池を眺めながら座っていた。  怪しまれないように、時間差で建物から出てきたからだ。 「和音さん、待った?」 飛鳥の声に振り返った和音は、嬉しそうに微笑む。 「いや、そんなことないよ」 「隣に座っても?」 おずおずと飛鳥が尋ねると、和音は「もちろん」と頷いた。 それを合図に、飛鳥は膝を抱えて和音の隣に座る。 和音の隣が一番落ち着くと思う。 「仕事はどうだ?辛くないか?」 「うん、大丈夫だよ。まぁ、しつこい客もいるけど」 飛鳥の言葉に、和音は「しつこい?」と食い気味に聞いてきた。 「いつも来てくれる中年の客なんだけど、僕に好きだってずっと言ってくるんだ。僕は相手することしかできないのに」 「気持ちくらい、聞いてあげりゃいいんじゃないのか?まぁ、お前の可愛さなら言いたくなるの分かるけどな」 和音は、顔をずいと飛鳥に近付けて右頬に手を添えてくる。 「やだよ。相手はするけど、そんな本当の色恋なんて死んでもしない」 すると和音はムッとした顔で「俺とのことは?」と聞いてきた。 飛鳥は顔を赤らめながら、「か、和音さんは別……」と答える。 それに対して和音は、「良かった」と言い唇を重ねたのだった。 「実は、お前に言ってないことがある」 和音の言葉に、飛鳥は胸がざわついた。

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