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第44話
確かに香煌楼は和音と出会わせてくれた場所ではあるが、あのような経験はできればしたくなかった。
何度、自分をあの場に放り込んだ親を恨んだか分からない。
「そんなことを言うな!」
色々と考えを巡らせて涙する飛鳥を、和音が抱きしめた。
「ごめんなさい」
飛鳥がそう言って泣き続けると、和音は優しく背中を摩ってくれたのである。
「もう大丈夫だから、落ち着け」
和音の言葉に、飛鳥はコクリと頷いた。
飛鳥が何とか落ち着きを取り戻すと、和音は立ち上がり近くで転がっている佐吉を鋭い目で見下ろす。
「今度またこいつに手を出したら、ただじゃおかないからな」
そう告げると、和音は飛鳥を立たせてその場を後にした。
和音に連れられて戻ってきたのは、二人の住まいだ。
彼は一度ここに立ち寄ったらしく、和音の荷物が玄関先に置いてあった。
「ここも変わらないな」
呟く和音に、飛鳥は不安げに尋ねた。
「もう、戻ってきたの?一時的とかではなく?」
いなくなった彼が、こうして目の前にいるのは嬉しいが、本当に戻ってきたのかは分からなかったから。
「そうだよ。お前の元に戻ってきた」
次の瞬間、和音の唇が飛鳥の額に触れた。
「さぁ、取り敢えず中に入れてくれ」
「そ、そうですね。どうぞ……」
飛鳥は目の前に和音がいることが未だに信じられない面持ちだった。
それでも和音を中に入れて座敷に座らせると、疑問に思っていることを尋ねてみる。
「今晩のことは、本当にごめんなさい。でも、どうして佐吉さんの家にいると分かったの?」
飛鳥の問いに、彼が飛鳥を発見するに至った顛末について語ってくれた。
「そんなにしてまで、僕のこと探してくれたの?」
「あたり前だろう?まさかあんなことになってるなんて、思わなかったけどな」
「僕も、うかつだったよ。あの人のこと、信頼し過ぎてた」
飛鳥が佐吉との出会いや交流を和音に伝えると、彼には二度と近付くなと言われた。
同じ界隈にいるのだし同じく商いをしているのだから、難しいだろうと思われる。
それでも和音は、できるだけ関わらないようにしろと言う。
さすがに佐吉ももう懲りただろうし、和音が戻ったのに下手に手出しをしてくることはないと思う。
ただ、用心するに越したことはないはず。
「分かったよ。それで、その……婚姻はどうなったの?親の言いつけで結婚したのでは?」
「そんなの、するわけないだろう?婚姻なんて、していないよ」
「え!?でも、お父さんが婚姻させるって……」
和音が連れて行かれた日、彼の父親は婚姻させると言っていたはずだ。
家業を守るためだろうし、父親は頑なに譲らないだろう。
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