2 / 9
これからどうなるの…
「リズト、行ってきます」
「……いってらっしゃい、母さん」
それが、母と交わした最後の言葉だった。
十五歳のリズトは、母子家庭で育った。
父親の顔は知らない。名前すら、母はほとんど口にしなかった。
「俺の父さんって、どんな人?」
昔、一度だけ聞いたことがある。
そのとき母は少し困ったように笑って、
「リズトがもう少し大人になったらね」
そう言った…
だから、いつか教えてもらえると思っていた。
――その「いつか」が来ることはなかった。
母が仕事へ向かった数時間後。
一本の電話が、リズトの日常を全部壊した。
交通事故だった。
病院へ駆けつけたときには、もう母の声を聞くことはできなかった。
「……母さん?」
何度呼んでも返事はない。
「ねえ……起きてよ」
母の手を握る。
いつもなら温かいはずの手が、ひどく冷たかった。
「やだ……」
涙が落ちた。
「俺、一人になるじゃん……」
十五歳のリズトには、その現実を受け止めることなんてできなかった。
葬儀から数日
リズトは親戚の家のソファに小さく座っていた。
大人たちが自分のこれからについて話している。
けれど、何も頭に入ってこない。
「リズトくん」
知らない男の声がした。
顔を上げる。
黒いスーツを着た男が、こちらを見ていた。
「……誰?」
男は少し黙ってから答えた。
「君の父親だ」
「…………は?」
冗談だと思った。
今まで一度も会ったことがない。
母が死んだ途端に現れて、父親だと言われても信じられるわけがない。
「嘘」
「嘘じゃない」
「じゃあ、なんで今まで来なかったの」
男は答えなかった。
その沈黙だけで、リズトの目にまた涙が溜まる。
「母さんが死んだから来たの……?」
「リズト」
「俺、あんたのところなんか行かないから!」
涙を拭いながら立ち上がる。
けれど、十五歳のリズトに選択肢はほとんど残されていなかった。
⸻
数日後。
車から降りたリズトは、目の前の建物を見上げた。
「……学校?」
巨大な校舎。
正門の向こうには、リズトと同年代の少年たちが行き交っている。
ただの学校ではなかった。
歌。
ダンス。
演技。
そして芸能活動。
アイドルを目指す少年たちが全国から集まる、全寮制のアイドル養成学校。
その経営者こそ――リズトの父親だった。
「今日からここで暮らしてもらう」
「聞いてない……」
「今、言った」
「そういう問題じゃない!」
リズトの目にじわっと涙が浮かぶ。
父親はため息をついた。
「寮の部屋も用意してある」
「俺、アイドルになんかならないから!」
「それは好きにすればいい」
「……え?」
「ただし、学校には通え」
意味が分からない。
母を亡くしてまだ何日も経っていないのに。
知らない父親。知らない学校。
知らない世界。
何もかもが怖かった。
ともだちにシェアしよう!

